自動車産業が1増加すれば全産業が2.5倍になるほどの価値がある
2021年1月7日、「日本自動車工業会 豊田会長から550万人への年頭メッセージ」と題した13分ほどのムービーが日本自動車工業会(自工会・JAMA)のYouTubeチャンネルで公開された。すでに新年からのスペシャルムービーとして「クルマを走らせる550万人」というプロモーションを実施していた自工会、その会長である豊田章男氏が550万人にメッセージを送るというのは自然な流れだ。
ちなみに、この550万人の大まかな内訳は、自動車の製造・販売・整備に関わっている人が237万人、バスタクシー・トラックなど輸送に関わる人が269万人、ガソリンスタンドや自動車保険などのサービス関連で35万人と豊田章男会長は話していた。
この年頭メッセージは2020年のコロナ禍において日本を支えた自動車業界で働く人々への感謝の気持ちを示すというスタイルをとっているが、後半では日本経済における自動車産業の役割やポジション、さらには自動車産業の重要性についてアピールしている。
ふたたび豊田会長の言葉を借りれば、冒頭でも記したように550万人の雇用を生み出している。つまり、「日本で働く10人に1人が自動車産業に関わっていることになります」という。そして「国に収めている税金は15兆円」、「経済波及効果は2.5倍」になるという。この経済波及効果とは「自動車産業が1増加すれば、全産業が2.5倍になること」を意味している。すなわち日本経済において、自動車産業はそれほどの価値を持つというわけだ。
豊田章男氏がトヨタ自動車の社長としての立場で、以前「お客様の1台が私たちの工場を、日本経済を動かす」と発言したこともあった(※2020年11月06日2021年3月期 第2四半期決算説明会にて)が、自動車産業が日本経済の回復に欠かせない存在であるということを自負している様子が、今回の年頭メッセージからも伝わってきた。
新時代に向けてスタートできる準備は整えている
メッセージの後半では、菅首相が2050年にカーボンニュートラル(脱炭素社会)の実現をめざすという高い志を示したことを評価しつつ、自動車産業としての注文もつけている。その内容をシンプルにまとめれば、発電時のCO2削減がもっとも重要であり、カーボンニュートラル実現のためには、国家的プロジェクトとして脱炭素な発電方式へのシフトを進めていくべきだと主張している。
たしかに、すべてのクルマがZEV(ゼロエミッションビークル・電気自動車や燃料電池車)になれば、走行時のCO2排出量はゼロにできるが、社会活動全体での実質的なCO2排出量ゼロを目指すカーボンニュートラルにおいては、製造段階でのCO2排出量を減らすことが重要であり、そのためには大元である発電時のCO2排出量を低減しなければならない。はっきりいって、それは自動車産業が単独で決められることではない。

具体的な方法について豊田会長は触れていないが、ひとまずCO2排出量を減らす発電となると、原発再稼働という政治的判断が必要になるのは自明だ。豊田会長のメッセージにそこまでの意図が含まれているとは思えないが、政府がカーボンニュートラルをいいだしたのであれば、そうした難しいテーマをクリアすべきという政権への要求が含まれていると考えるのが妥当ではないだろうか。
そもそも自動車業界はコロナ危機以前から「100年に一度の大変革期」としてCASE(コネクテッド・オートノマス・シェアリング・エレクトリック:つながる・自動化・共有・電動化)といったテーマに取り組んできた。豊田会長が「変革の準備はできています」というように、いつでも新時代に向けてスタートできるはずだ。そのためには自動車産業に関わる550万人一人ひとりの力が重要というのも、このメッセージが伝えるところだ。
さて、メッセージを語る豊田会長のスーツに17色からなる丸いバッジがついていることに気付いているだろうか。これは国連が定めたSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)のバッジであり、その色は17のゴールがあることを示している。コロナ禍によって変化が強制されるのであれば、それを逆手にとってSDGsの実現に向けた動きを加速させよう、と豊田会長は話した。そのために自動車産業に関わる人が、それぞれ一歩進むことで、全体としては550万歩という大きな動きになるという。

自動車ファンである私たちも、同様に一歩を進めば、さらに変革への力は大きくなる。自工会の年頭メッセージは自動車産業に関わる人向けとなっているが、対コロナ、気候変動対策などを自分ごととして捉え、できる範囲で実行していけば、そこには明るい未来が待っていることだろう。大いに勇気づけられる年頭メッセージだった。