先進安全装備が価格上昇の理由だと思われがちだが……
誰もが欲しがるホンダN-BOXのような軽自動車でも上級グレードにナビなどのオプションをつけると乗り出し200万円オーバーは当たり前になっている。その理由について、ADAS(先進運転支援システム)やAEB(衝突被害軽減ブレーキ)、さらにはサイドエアバッグ・カーテンエアバッグといった安全装備の充実が挙げられることが多い。
たしかに、そうした安全装備のひとつひとつをオプション価格で計算して合計すると数十万円になってしまうことも珍しくなく、価格上昇の理由としては納得しがちだ。
じつは、思っているほど価格は上昇していない。
2011年にデビューした初代N-BOXのエントリーグレードの価格は税抜きで118万953円。一方、2020年12月にマイナーチェンジした最新N-BOXではエントリーグレードは129万9000円の設定となっている。比率で見ると10%弱の価格上昇率に収まっており、初代モデルには先進安全装備&運転支援システムである「ホンダセンシング」がまったく備わっていなかったことを考えると、むしろ実質的には価格が下がっているといえるのだ。

もちろん、ここで税抜き価格で比べたように消費税の増税によりユーザー負担が増えているのは事実だが、消費税というのはあくまで税金であって商品の価格上昇というわけではない。
とはいえ、割高感が増しているのも事実。そう体感する理由は収入との関係にあるだろう。
国税庁による民間給与実態統計調査のデータを調べてみると2011年度の平均給与は409万円で、2019年度は436万円となっている。平均給与は6%以上も上昇しているのだった。
それでも車両価格の上昇率は平均給与の上昇率を上まわっているので、給与の何か月分で買えるのかという計算をすると、マイカーというのは若干だが高嶺の花になっている。ちなみに、日本の平均給与のピークは1997年の467万円。

グローバルではクルマの価格が上昇基調にある
さて、軽自動車という日本専用商品はおよそ10年間で10%程度しか値上がりしていないといえそうだが、登録車はもっと値上がりしている印象がある。
その理由としてグローバルモデルであるからという見方がある。世界中で売るクルマについては、ある程度は仕向け地にあわせてローカライズするものだが、基本となるコストの計算では世界経済の影響を受ける。そして、この20年以上日本がデフレに陥っているのに対して、世界は緩やかにインフレを進めている。
たとえば、アメリカのインフレ率を見てみると、この10年で約1.2倍となっている。年によって浮き沈みはあるが、中期的にはしっかりと経済が成長している。インフレが進むということは人件費も上がるということであり、それはクルマの価格を上昇させる要因のひとつになる。
参考までに、アメリカで売れているホンダ・シビックの価格を調べてみると、2012年のエントリーグレードは1万5605ドルだったのに対して、2020年には2万1050ドルへと、約35%も上昇している。ちなみに、日本では先代シビックは未発売なので単純比較はできないが2008年モデルのエントリー価格が税抜き184万5000円で、2020年には251万円となっていた。価格上昇率としてはアメリカと同等である。

もちろん、こうした価格上昇には主に安全面における装備の充実というコストアップ要素もあるが、インフレが進んでいることで車両価格が底上げされているという面も無視できない。

こうしてグローバルにはクルマの価格が上昇基調にあるなかで、日本はデフレから脱却できないために、ユーザーからするとクルマの値段が上昇していると感じる状況になっているといえる。とはいえ、ユーザーが買わないような価格に設定したモデルが売れるはずはない。冒頭で例に挙げたN-BOXがコロナ禍においても売れているように、実際に新車を買えるユーザー層においては、価格以上の価値はしっかりと認められているといえるのだ。