スバル車に「0次安全」を犠牲にすることは許されない
SUBARUが古くから掲げる安全思想のひとつである「0次安全」。人間工学に基づいた車内の空間作りのことで、着座環境や視界、取り回し性を重視した設計思想を大事にしてきた。
SUBARUでは、たとえばフルモデルチェンジによりデザイン性が向上したり、ボディサイズが拡幅されたとしても、着座環境や視界、取り回し性は決して犠牲にしてはならないとの掟が厳守される。
いかに美しいデザインが採用されたとしても、デザイン性向上とのトレードオフとして、わずかでも運転がしにくくなれば、SUBARU的な設計思想は後退したと評価せざるを得ない。良いデザインを得たのと引き換えに、視界が悪化した分はバックカメラやセンサーで補うなどといったゴマカシは、SUBARUらしさを失うことに他ならないのだ。
SUBARUは「1次安全」のアクティブセイフティ「能動的な安全」、さらに「2次安全」のパッシブセイフティ(受動的な安全)も古くから重視してきた。ワゴンやSUVでもスポーツカー的な運動性能を発揮して危険を回避。万が一事故に見舞われても、世界トップクラスの衝突安全ボディが乗員を守る。

しかし、1次と2次の安全は、いわば想定される事故に備えるための安全対策。一方の「0次安全」(ベーシックセイフティ)は、「能動」や「受動」よりも前の段階で事故を回避するためので、そもそも事故を起こしにくいクルマ作りを目指す思想というものだ。
この「0次安全」の原点は航空機メーカー時代に培われた。航空機は、わずかな操作ミスが墜落を招き、即命取りの大惨事となることから、そもそも事故を起こしにくい設計が求められる。今でもSUBARUが「0次安全」を大事にする姿勢は、元航空機メーカーらしさのひとつと言えるだろう。
スバル1000も「0次安全」の思想によって誕生した!
今のSUBARUが標榜する「0次安全」は、おもに車内の空間作りのことを示すが、かつては「FF方式の採用」も「0次安全」の思想によるものとしていた。
SUBARUが最初の乗用車スバル1000を発売した1960年代の日本は、まだ未舗装路が多いうえに後輪駆動車ばかりだったので、免許があってもクルマの扱いは難しいものと認識されていた時代だ。

航空機用星型エンジンからの応用でもある水平対向エンジンをフロントに積み、フロントに荷重をかけてフロントタイヤを駆動するFF方式は、居住性などパッケージング面での優位性とともに、誰もが運転しやすいクルマに仕立てやすいこともメリットだ。

FFはFRより未舗装路や悪天候下での走行安定性を確保しやすく、限界領域ではアンダーステアは強まってもオーバーステアは出にくいなど、一般的なドライバーにとって御しやすい特性を持つ。つまり、当時のSUBARUが考えた「誰が運転しても安全なクルマ」に最適な駆動方式といえた。
FFは、誤ってハイスピードでコーナーに進入しても、アクセルを離すという、多くのドライバーが示す自然な反応によってクルマはおのずからコーナリングパワーを回復しやすい特性を持つ。これは航空機における「フールプルーフ(簡単)な機体」と呼ばれるものと同じで、たとえば急旋回時にパイロットがミスをしたり、なんらかのアクシデントによりコントロールを失って失速状態に陥ったとしても、機体が自力で機首を立て直せるように設計されるという。

また、水平対向エンジンを縦置きにするFFレイアウトは、AWD化にあたってもFRやエンジン横置きFFより比較的容易だったことも、AWD化の大成功に繋がった。販売するクルマの8割以上がAWDというSUBARUの自動車メーカーとしての特殊な販売傾向もまた、元航空機メーカーだからこそと言える。