観光客が驚愕するほどのカオスっぷり!
あそこがカオスだというのは割と世界共通の認識らしい。凱旋門のてっぺんに登ると、下界のクルマの流れを見ながら欧米人観光客も「Oh!」とか「Wow!」を連発している。よくもまぁブツからないのが信じられない、といった調子だ。
アフターコロナの世界では、おそらく海外旅行でもクルマ移動が多くなるだろうし、パリでステアリングを握って凱旋門を通過することになっても、動じないためのあれこれを書きとめておこう。
以前なら、交通量の一番多い3時方向のシャンゼリゼ通りから9時方向のグランダルメ通りへ抜けるには、地下トンネルをくぐってランナバウトを避けられたのだが、テロ対策が厳しくなった頃に地下に爆弾でも仕掛けられたら大変と、閉鎖されてしまった。しかもクルマに冷たいパリ市行政のおかげもあって、ここ数年でカオスには磨きがかかっている。ちなみにパスポートを盗まれたり無くしたら世話になる、在仏日本大使館は凱旋門から1時方向、オッシュ通りを下ったところにある。

凱旋門ランナバウトは無秩序天国のようで、当のフランス人たちは意外と運転を楽しんでいたりする。無論、あそこを通るのが嫌いなフランス人もいるし、在仏邦人で運転をしている人でも苦手という人は少なくない。ああ見えて最低限のルールというか、秩序は存在する。いちばんの大原則は、クルマが右側通行のフランスや欧州大陸の道交法で一般的な「プリオリテ・ア・ドロワット(右側優先)」だ。これは右から来たクルマが優先で、左側のクルマは譲らなければならない、
具体的にどういう状況かといえば、反対車線をまたいで曲がる時(日本とは逆で左折)、あるいは路面に描かれた鎖線を自分が踏み越える際は、つねに相手に優先権がある。
「ルール破られの名所」にも一定の秩序が存在
とはいえ凱旋門のような交通量の激しいランナバウトを複雑にしているのは、入口にあるはずの鎖線が消えてしまっているせいだ。すると、ルールは破られるためにあるフランスでは、誰もが分かっていながら右側優先を主張しつつ、円周内に確信犯で突っ込んでくる。ランナバウトの円周から出ようとするクルマの鼻先を、進入車が「わざと」かすめて行く、そんなグレーゾーン活用だ。かくして厳密に「優先権」を読みながら走っている割に、スキあらばエムバペ(パリサンジェルマン所属のフランス代表サッカー選手)の超高速カウンターよろしく、裏のオープンスペースに飛び込みたがる、それが平均的なフランスの運転者の感覚だ。
だがそんなルール破られの名所であるにも関わらず、一定の秩序はある。それこそ「ポジショニング」の感覚と問題で、広いランナバウトに6時方向から入って真っ直ぐ12時方向に抜けるには、あまり左に寄せすぎると7~11時方向に抜けたい他車の邪魔になる。逆に1~5時方向に出たければ、右ウインカーを出して右を閉めていくと他車はたいてい譲ってくれる。

なぜなら、詰めるとか前に出てブレーキを踏むといった、アオリっぽい動きで相手にプレッシャーを与えても相手が動じる保証がないのがひとつ目。もしそうであっても、「自分がブツけられかねない」「カラダを張った」無駄なリスクは、過度のリスクと彼らは考える。それにフランスの市街地は厳しく最大50km/h以下に制限されており、ランナバウト内では他車と直角に交わることはまずないので、慣れれば踊りの輪に加わるがごとく、ストレスのないシステムであることに気づくはずだ。

ちなみに、ここまでクルマ同士での狭義の話で「プリオリテ・ア・ドロワット(右側優先)」を説明してきたが、クルマ以外も含めた広義のところでは、車道・自転車道・歩道なので、「車<自転車<歩行者」という、脆弱性の高い順に路上の優先順位が決まる、そんな話でもある。横断歩道で譲らない車とか、歩行者のスペースを削るように商店街を爆走する電動チャリとか、どちらが秩序だって文明的であるか、考えさせられるはずだ。