ゴルフ7は当時ほぼ超えるのは難しいレベルにまで達していた
いよいよ今年大注目必至の輸入車の1台、先代が輸入車として初の日本カー・オブ・ザ・イヤーを2013-2014年に受賞した、8代目となる最新のフォルクスワーゲン・ゴルフが上陸。先行受注でも好調なスタートを切っていると聞く。
1974年に登場した初代ゴルフは、あのカブト虫、ビートルの後継車であり、Cセグメントに属するハッチバックモデルとしてデビュー。
ホットハッチのGTI(初代GTIは日本正規未導入)、80年代にお嬢系女子大生にウケまくっていたカルマン製のカブリオなどのラインアップを揃えていたことも、根強い人気の理由だったはずだ。以来、GTIクラスという、ホットハッチのセグメントを世界的に確立したのもゴルフだったのである。
ボクは初めての輸入車として、1985年にそれまでの日産フェアレディ280Zから、いきなりゴルフ2の5速MT車に乗り換えたのだが、パワーはともかく、作り込みの素晴らしさや当時の日本車とは別格のボディ剛性、長距離走行の疲れにくさに感動したものだった。
そして今は、2014年からゴルフ7ヴァリアントに乗っていて、だからある意味ゴルフファンであり、8代目の登場を心待ちにしていた1人でもある。すでに3気筒1リッターターボ+48VマイルドハイブリッドのActive、4気筒1.5リッターターボ+48VマイルドハイブリッドのStyleに試乗しているが、果たして、今もゴルフは世界のコンパクトカーの基準であり続けるのだろうか。

ところで、国産車でフォルクスワーゲンのクルマをベンチマークにしているクルマは少なくない。Cセグメントのハッチバック車はもちろんそうで、メーカーが開発段階にゴルフを買ってバラし、徹底的に検証しているというウワサも聞く(ホンダのフィットやN WGNはポロがベンチマークだという)。世界のCセグメントに属するコンパクトカーが、ゴルフを横目に見て開発しているのも当然だろう。
とくに、ゴルフの完成形とも言えた7代目に至っては、ほぼ超えるのは難しいレベルの商品性に達していたように思う(デビュー当時)。

言い方を変えれば、フォルクスワーゲンのクルマは、たとえゴルフのような”大衆車”クラス(今ではけっこう上級車だが)でも、コストに関してまったく妥協していないということだ。それが、ベンチマークであり続けてきた理由のひとつであるはずだ。
では、本題に入ろう。新型ゴルフ8は、世界中のクルマのクォリティが飛躍的に高まった今でも、世界のCセグメント、コンパクトカーの基準であり続けるのだろうか。その独断的な答えを述べる前に、ゴルフ7に乗る者として、ゴルフ8に接した印象の、よくないほうから述べるとしたい。
ゴルフ7登場時ほどの感動は得られなかった部分も
まずは、ボディサイズが拡大していないことは良心的で褒められるとしても(一部ダウンサイズ)、パッケージ的な攻めがなく、前席頭上スペース、後席に家族や犬が乗る機会の多いわが家がゴルフ7の不満点として挙げている後席膝まわりスペースは、先代とまったく変わっていないし、後席頭上スペースは全高が低まったぶん、狭まっているのである(身長172cmのボクで150mmから130mmに)。ホイールベースを縮めたとはいえ、そこはパッケージングの魔法で、何とかしてほしかった、というのが本音である。

歴代ゴルフは、その時点で望める最高峰の乗り心地を提供してきたクルマだと思っている。バネ下だけをしなやかに動かし、バネ上、つまり乗員はフラット極まる快適で、長時間のドライブでも疲れにくい、クラスを超えた上質極まる乗り心地に満足できたものだ。とくに試乗して少し走っただけで購入を決めたぐらい素晴らしかったゴルフ7の乗り心地は秀逸さは、今でも忘れられないほど、感動に値するレベルにあったのである。
が、新型ゴルフは、16インチタイヤを履く、ゴルフ、ドイツ車らしからぬ!? 軽やかな走りが特徴のActive、17インチタイヤを履く、ゴルフ7に近い、いかにもフォルクスワーゲンのクルマらしいガッチリとした骨太な乗り味を示すStyleともに、乗り心地に関してはゴルフ7登場時ほどの感動は得られなかった。誤解のないように説明させてもらうと、乗り心地がよくない、という意味では決してない。

ちょっとガッカリしたのは、ボンネットの開閉操作だ。ゴルフ7では1本のダンパーが備わり、軽く開けることができ、閉める際にいきなりパタンとは閉まらず、操作性に優れていたのだが、新型では「つっかえ棒!!」で固定する昔ながらの方式に変わっている。しかも、ボンネットが思いのほか大きく重く、開閉ともにかなり重い操作を要するのだ。コストダウン、あるいは、多くのユーザーがめったに開け閉めしないから……という理由かも知れないが、これはどうかと思う。

また、ボディカラーが残念だ。グレー、レッド、ブルー、ブラック、イエロー、ホワイト2色の全8色だが、シルバー系がなく、ボディカラーの定番と言える、愛車のボディカラーでもあるリフレックスシルバーのような、ボディの作り込み、プレスラインをきれいに強調してくれるような、きらめきあるカラーがないように思えるのだ(個人的好みですが)。今後、ボディカラーの選択肢が広がることを期待したいところである。
と、ゴルフ7オーナーとして、ゴルフ8の不満点を言いたい放題言ってきたわけだが、しかしそれでも、最新のゴルフ、ゴルフ8は世界のCセグメント、ハッチバックモデルとして、ベンチマークになりうる資質を備えていると考える。
ライバルが一目置かずにはいられない存在であり続けるだろう
その理由として、まずは、全車、48Vマイルドハイブリッドを採用したことが挙げられる。ターボエンジンの低回転域のトルクをアシストし、出足のトルク感、スムースさをさらに増強するだけでなく、ゴルフ7.5(後期型)で改善されたとはいえ、ウィークポイントだったDSGの発進時の唐突感、クラッチングのギクシャク感が、モーターアシストによって見事に改善、克服しているのだ。DSGを採用するクルマの最大の欠点が見事に解消されたということは、ミッション、動的質感として完璧になったことを意味する。
もちろん、デジタルコクピットとなった2面のディスプレイの先進感、見映えも、このクラスとしてなかなかのものだ。先代も7.5からナビ画面を表示できるフルデジタル液晶メーターを採用しているが、スライダースイッチなどの先進性は、やはりクラスをリードする機能と言って間違いない。そしてこのクラスにして通信モジュールを備え、モバイルオンラインサービス(We Connect/10年間無償、We Connect Plus/3年間無償)を一段と強化したあたりも、これからのクルマに必要な要件をしっかりと満たしているではないか。

先進運転支援機能も文句なしで、クラスのベンチマークになりうるレベルにある。自動運転レベル2と言えるゴルフとして初搭載の「トラベルアシスト」は、0km/hから210km/hまでの速度域で、ACCとレーンキープアシストシステムによって、同一車線内全車速運転支援を実現。静電式になったステアリングに軽く手を添えているだけで(警告、解除されることなく)、レベル2の安全で安楽な運転支援に身を任せていられるのである。バックで出庫する際の安全性を高めてくれるリヤトラフィックアラート、そしてドアを開けクルマから下りる際、後方からのクルマや自転車が接近し、ぶつかる可能性がある場合にリヤレーダーセンサーが検知、警告してくれるエグジットウォーニング機能も、ユーザーメリット絶大のクラスをリードする安全性だろう。
そうそう、ドイツ車、フォルクスワーゲン、ゴルフと言えば、ドアの開閉にかかわる精密で上質なタッチ、重厚な開閉音が魅力だが、ゴルフ7と比較した場合、明らかに進化。細かい点だが、ここでも依然、クラスをリードし、ベンチマークになりうると思わずにいられなかった。

走行面では、とくに静粛性の高さの改善がポイントだ。このクラスの国産車、輸入車の多くは、Dセグメント以上のクルマと比べ、ロードノイズなどにあまり気を使っていないケースもあるのだが、新型ゴルフの車内の静かさは、先代後期型のゴルフ7.5にも増して向上している。高速クルージング中では、わずかな風切り音が耳に届く程度で、0.30から0.275へと向上した空気抵抗値、アクセルオフですぐにコースティングモードに入る制御、そこからエンジンがかかっても乗員に気づかせない高度な振舞い、2シリンダーモード(2気筒で走る)など、走行面、高速走行で伸びる燃費面でも、ライバルを真っ青にさせる技術も少なくない。

よって、ゴルフ7からの進化として、動力性能や乗り心地に関して大きな感動はないにしても(ゴルフ7時代から素晴らしく、あくまでボク個人の印象です)、それ以外の部分では、基本的な走行性能の高さ、48Vマイルドハイブリッド化やデジタルコクピットの進化、モバイルオンラインサービス、そして先進運転支援機能のフォルクスワーゲン・オールインセーフティの充実、「トラベルアシスト」の超実用性など、なるほど、新型のゴルフはここまで先進性を持って攻めてきたか!! と思わせる、世界のこのクラスのベンチマーク、スタンダードたる、ライバルが一目置かずにはいられない存在であり続けるであろう商品性をしっかりと身に付けてきた”新世代ゴルフ”と言っていい。そしてそれが、歴代ゴルフの誇りであり、新型に課せられた使命でもあるはずなのだ。