完成検査は70年の歴史を持つ
日本の公道を走るためには、少なくとも保安基準を満たしていることを証明する「車検」をクリアしている必要がある。その検査業務を担っているのが、各地の運輸支局や検査登録事務所で、かつての組織名を用いて、いまでも「陸運局」と総称されていたりする。ここでは陸運局という通称を使って話を進めていこう。
ユーザー車検などでいわゆる陸運局を訪れたことがあればわかるだろうが、その検査キャパシティは意外に少なく、ここですべてのクルマの車検を行なっているとは思えない。それは事実で、多くの車検検査は「指定工場」によって実施されている。大きめのディーラーに併設されている整備工場は指定工場と認められていることが多く、いちいち陸運局に持ち込まずに車検を通すことができるようになっている。
では、クルマが最初にナンバーを付けるときはどうしているのだろうか? 登録車の場合、なんらかの方法で新車を陸運局に運び、保安基準を満たしていることを検査で確認した上で、ナンバーをつけ封印を取り付けてもらうというのが本来のやり方だ。これを新規検査というが、この方法では陸運局のキャパをオーバーしてしまうことは火を見るよりも明らかだ。
そのため、ナンバーを取得したのち、ディーラーでナンバーを取り付けて、陸運局に代わって封印をすることが認められている。その際に重要な書類が「完成検査終了証」である。

これは自動車型式指定制度によって大量生産された自動車において、完成車メーカー自身が保安基準を満たしているかを検査するというもので、保安基準を満たしていることを証明するのが「完成検査終了証」だ。
そして、完成検査終了証の提出をもって現車の新規検査を省略することができる。こうした仕組みは、道路運送車両法によってしっかりと定められているもので、その歴史は1951年まで遡ることができる。先人たちが、しっかりと検査して終了証を出すことで、その仕組みの信頼性を高めてきた方法でもある。
そうした信頼関係を壊してしまったのが、数年前にいくつかの完成車メーカーにおいて発覚した完成検査不正であることは記憶に新しい。
完成検査にAIを用いることなどが検討されている
生産直後に、有資格者によって完成検査をすることで完成車メーカーは完成検査終了証を出すことができ、それによって新規検査を省くことができるので、いちいち陸運局に持ち込まずともナンバーを封印することができるという信頼によって構築されたモデルを、メーカー自身が壊してしまったのが、完成検査不正事件だった。
とはいえ、いまの生産技術において一台一台、車検のような検査を行なうというのは現実的ではない部分もある。現在、その対応としてより現実に即した、さらにAIなどを駆使した完成検査に手法に進化させるべく、各所で検討が進んでいるところだ。

ちなみに、完成検査終了証には9カ月という期限があり、それを超えると陸運局に持ち込んで新規検査を受ける必要が出てくる。趣味人であれば希少なクルマにはナンバーを付けずにガレージに保管しておくというのは憧れかもしれないが、そうしたクルマにいざナンバーを付けようとすると、たとえ工場出荷状態のままだとしても、あらためて車検を受ける必要があるのだ。
そうした手間をすべて省くのが完成検査終了証というわけだ。
そして余談めくが、登録車のリヤナンバーに封印をする作業は、陸運局でなくても委託を受けた業者であれば可能だったりもする。それを封印取付け受託者と呼ぶが、その受託者は3パターンにわけられる。

ひとつが、完成検査終了証のある自動車を販売する者、すなわち新車を扱う自動車ディーラーだ。そして、中古車販売業においても特定の団体の会員であるなど諸条件を満たすことで封印取付け受託者となれる。
意外に知られていないのが、行政書士も封印取付け受託者となれること。引っ越しや名義変更などによってクルマのナンバーを変える際に、行政書士に依頼すると平日に必要な手続きをした上で新規にナンバーを取得してくれ、それをユーザーの都合のいい休日などに自宅や駐車場で取り付けて封印作業まですることができるのだ。