この記事をまとめると
■アストンマーティンDB5は「007」のジェームズ・ボンドの愛車として有名だ■当初、小説版ではジェームズ・ボンドはベントレーに乗っていた
■ジェームズ・ボンドがアストンマーティンへと乗り換えるきっかけは読者からの手紙だった
007=アストンマーティンという公式ができるまで
「007」こと、ジェームズ・ボンドにとって、アストンマーティンは彼を象徴するアイコンのようなクルマ。最新作「ノータイム・トゥ・ダイ」でもお馴染みのDB5をはじめ、DBS、ヴァルハラ、V8サルーンなど総動員かってくらい登場しています。
ですが、イアン・フレミングによる原作の中でアストンマーティンが登場するのは7作目の「ゴールドフィンガー」でのお話。

結局、このベントレーは処女作「カジノ・ロワイヤル」と「死ぬのは奴らだ」「ムーンレイカー」で登場し、最終的にはカーチェイス中に大破することに。ちなみに、当初フレミングは、「死ぬのは奴らだ」のなかでこのブロワーベントレーを1933年モデルと書きましたが、じつは31年で生産は終了しており「ムーンレイカー」のなかでわざわざ1930年モデルだと書き直すことになりました。
アストンマーティンが登場するのは、前述のとおり1953年上梓の「ゴールドフィンガー」で、DB3がボンドカーとして登場しています(作中ではじつにあっさりと描かれ、印象は薄いかもしれません)。これは、読者からフレミングにあてた手紙で「世界をまたにかける大物スパイが、いくら趣味とはいえ戦前のクラシックカーに乗るのはいかがなものか」と指摘されたことが理由とされています。

それでも、フレミングは「ボンドの趣味としてDB3はいかがなものか」という心残りでもあったのでしょう。アストンマーティンDB3は個人的なクルマではなく「社用車」としてボンドに乗らせることにしたのでした。
開発中の新型を映画に提供して世界一有名なクルマが誕生
さらに、ベントレーに執着でもあったのか、「ゴールドフィンガー」に続く「サンダーボール作戦」で再びベントレーが登場。さすがにアップデートされマークIIコンチネンタル、しかもマークⅣのエンジン搭載というカスタム好きなボンドらしい設定となっていました。この後、「女王陛下の007」にも登場し、次いで「007は二度死ぬ」でもベントレー・コンバーチブルを所有と、フレミングの「意地でもベントレー」感がひしひしと伝わってくるようです。
それもそのはずで、やっぱりフレミングはベントレー大好きだったようで、アメリカ人の友人アイヴァー・ブライスにあてて、自らカスタムオーダーした1953年モデルのベントレーRタイプ・コンチネンタル・ファストバックをプレゼントしたほど。

ちなみに、このフレミングが仕立てたコンチネンタルは長らく行方不明だったのですが、数年前にカリフォルニアのガレージで保管されているのが発見され、およそ140万ドル(≒1億6千万円)でオークションにかけられたそうです。
それにしても、フレミングさんはいくら友人とはいえ気前のいいプレゼントをしたものですが、じつはブライス氏のミドルネームは「フェリックス」。察しのいい方なら、アメリカ人、フェリックスときたら原作でも映画でも準レギュラーキャラたるCIAのエージェント、「フェリックス・ライター」を思い浮かべるはず。フレミングはブライス氏のイメージからフェリックス・ライターを創りあげたとされており、小説が売れたお礼でもあったのかもしれませんね。
さて、映画版007にアストンマーティンが登場したのは1964年の「ゴールドフィンガー」のDB5ですが、前述の通り原作ではDB3だったはず。じつは映画化が決定した時点で、製作会社とフレミングともに「いいかげんDB3じゃ古いだろ」と考えていました。たしかに1957年デビューのDB3では7年落ちとなり「ちょい古」感も否めません。

そこで、製作サイドは当時のアストンマーティン社長のデビッド・ブラウンに「DB4貸してくんないかな」と打診したのです。すると返答は「いまね、ちょうどDB5って新型を開発中! よかったら、それ使ってよ」と、いわゆるとんとん拍子。これこそ007&アストンマーティン、運命の車輪がまわり始めた瞬間だったのです。

その後、アストンマーティンは数々のボンド映画で活躍するのはご存じのとおり。
こうして振り返ると、必ずしもアストンマーティンが007にピッタリというわけでもなく、旧弊なベントレーに乗るベテランスパイの姿もまた悪くないと思うのですがね。