だが、ポスターの認知度の割には、「おい!小池」と呼ばれ続けたこの人物がどのような事件の容疑として指名手配されたか、認識している人は意外に少ないのかもしれない。長く未解決事件として記憶された当該事件は、いかなるものだったのか?(ライター:ミゾロギ・ダイスケ)
父子2人が殺害された残虐事件
2001年4月20日午後2時10分ごろ、徳島市の5階建て県営団地の一室から出火し、38平方メートルの室内のうち17平方メートルが焼けた。警察は6畳間の布団の上から、この部屋に住む松田優さん(66)とみられる男性の遺体が見つかったと発表した。遺体の頭部には傷があり、そばには紐状のものも落ちていたことから、警察は殺人の可能性があるとみた。この時点で、優さんと同居していた38歳の長男とも連絡が取れなくなっていた。
司法解剖の結果、遺体は松田優さんのものと判明し、死因は首を絞められたことによる窒息死と断定された。頭部には鈍器で殴られた痕も数カ所あったことから、地元の徳島東署は殺人事件として捜査を進め、何らかの事情を知っているとみられた長男の行方を追った。
この種の事件では、まず同居家族に疑いの目が向けられやすい。しかし、この長男は犯人ではなかった。
翌21日深夜、兵庫県津名郡五色町(現・洲本市)の別荘造成地の草むらで火災が発生し、その焼け跡から遺体が発見され、それが優さんの長男の松田浩史さんだと断定されたのだ。浩史さんも鈍器のようなもので頭を殴られたうえで、絞殺されている様子だった。
5月1日の朝刊各紙では、警察が同じ手口による同一犯の犯行だとみて捜査にあたっていること、そして、優さんと浩史さん名義の預金通帳と印鑑がなくなっていることを伝えている。
犯人は金銭目的で短絡的に父子を殺害し、遺体に火を放ったということだろうか。
父子のパチンコ仲間が捜査線上に浮上
優さんは勤めていた会社を定年退職して年金生活、浩史さんは母親ががんを患ったことから、看病のために仕事をやめていた。母親は亡くなり、以後は父子2人暮らしで、浩史さんは再就職していなかった。優さんの家から火災が発生する2日前には、父子が家の網戸を掃除している姿が目撃されている。捜査本部は、2人が何らかのトラブルに巻き込まれ、浩史さんの遺体だけが徳島県徳島市から兵庫県の五色町に運ばれたのではないかとみていた。2つの現場は、神戸淡路鳴門自動車道を通れば約40分程度で行き来できる。
ただし、その時点では現金は引き出されていなかった。父子の口座には合計で約4000万円の預金が入っていた。
5月1日、徳島県警と兵庫県警による共同捜査本部は、父子の周囲にいた疑わしい人物の存在を把握した。それは、優さんのパチンコ仲間であり、以前、金の貸し借りがあり、その時点では行方がわからなくなっていた男だった。
小池俊一(こいけとしかず)を全国指名手配
5月24日、捜査に大きな進展があった。姿を消していた父子のパチンコ仲間の男(40)が淡路島にクルマを乗り捨てており、そこから検出された血痕や毛髪が浩史さんのものだとDNA鑑定されたのだ。事件の数日前には、父子が「金を貸しているのだが、(男が)今日は来ていないか」とパチンコ店の他の客に尋ねていたこともわかった。共同捜査本部は大鳴門橋(おおなるときょう)などを通るクルマの走行状況を徹底的に調べ、男が乗り捨てた乗用車に行き着いた。
5月28日、父子名義の預金口座から数百万円が引き出されていたことが判明した。さらに、金融機関の監視カメラには、逃走中の男の姿が映っていた。捜査本部はその後、この男を指名手配した。
小池俊一(容疑者)……のちに「おい!小池」のポスターで知られる男である。
小池容疑者は以前、淡路島の洲本市に住み、数年前までは五色町内の会社に勤務していたというが、事件当時は徳島市内のマンションに住み、無職とされた。ギャンブルなどで借金が2000万円におよび、返済も滞っていたとの報道もあった。小池容疑者の足取りは、マンションを出たあと、淡路島の岩屋港近くに乗用車を乗り捨てたところで途絶えている。
なお、この時点で固まっていたのは、息子の浩史さんに対する殺人、死体遺棄容疑だけだった。小池容疑者が住んでいたマンションからは、浩史さんのものとみられる血痕も検出された。浩史さんはマンションで殺害され、遺体は五色町に遺棄された疑いが強まった。一方、優さんは徳島市の自宅の県営住宅で殺害され、その場で放火されたとみられた。
8月には徳島東署内に専用のフリーダイヤルが設けられ、情報提供を呼びかけられたが、決定的な情報は得られず。
徳島県警が「おい!小池」ポスターを制作
2004年4月20日及び21日、被害者父子の死体遺棄・死体損壊容疑の公訴時効が成立したが、強盗殺人事件としての捜査は続いた。そして2004年、徳島県警は膠着(こうちゃく)した広域捜査の打開策として、ある奇策を編み出す。奇策の生みの親は、のちに「リーゼント刑事」として知られる秋山博康氏だった。
秋山氏は、従来型の指名手配書では人の目を引けないと考え、大阪芸術大学でデザインを教えていた人物にコピーの考案を依頼した。こうして生まれたのが、小池容疑者の顔に「おい!小池」という文字を大きく載せたポスターだった。このポスターが各地の交番などに掲示されることで、以後は多数の情報が寄せられるようになったという。
一方で、全国の小池姓の家庭からは「子どもがいじめられる」といった苦情も相次いだ。有罪が確定していない被疑者を呼び捨てで追及するこの表現は荒っぽく、無罪推定の原則に反するという見方も示された。また、小池容疑者という姓は強く印象に残った一方、俊一という名前は記憶されにくい側面もあった。
この年の秋、優さんの兄が、小池容疑者の逮捕につながる有力情報に対し、懸賞金200万円を私的に支払うと発表した。この時点でも、容疑はまだ浩史さんに対するものに限られていた。
ラジオでの呼びかけ、競輪場の大型モニターでの表示、阿波おどり会場でのうちわ配布、インターネットでの告知――。
その結果、事件前に麻雀に興じていた際の小池容疑者の肉声を収めた音声が寄せられ、一般に公開された。それでも警察は小池容疑者の行方をつかめなかった。
小池容疑者はどこで何をしているのか? 2010年9月、この事件は警察庁の捜査特別報奨金対象事件に指定され、上限200万円(のちに300万円)の公的報奨金も加わった。
また、同年には刑事訴訟法が改正され、殺人既遂や強盗殺人など、法定刑の上限が死刑となる罪の公訴時効が廃止された。これにより、小池容疑者は時効まで逃げ切るという道を失った。
逃走が長引く間に、捜査の対象も広がっていく。公開情報からは、東日本大震災発生直後の2011年4月に、優さんに対する強盗殺人・現住建造物等放火容疑で逮捕状が出たことが確認できる。
不自由すぎる逃亡生活の現実
「おい!小池」のポスターは掲示され続け、小池容疑者の顔とそのコピーは多くの人の記憶に刻まれた。2011年11月には、「おい!小池!」に「そろそろだ!」という文句を加えたポスターも制作された。おそらく小池容疑者は相当の圧迫を感じていたはずだ。だが、逃亡生活を縛ったのは、そうした心理的圧力だけではない。いささか横道に反れるが、ここで、当時の日本において逃亡中の指名手配犯の生活がいかに不自由かを考えてみたい。
まず、個人情報の提出や保証人が求められるので、賃貸住宅を借りるのは極めて難しい。仮に知人宅か、身元確認の甘い住み込みの職場の寮などを拠点にできても、逃亡中の身では転入届や転居届も出せず、現住所を証明できない。
金融機関の口座も大きな制約だ。もともと持っていた本名名義の口座に手を付ければ、所在を把握される手がかりになる。当初から偽名で新たに口座を開くことは簡単ではなく、2003年1月の本人確認法(※)施行後は道が完全に塞がれた。
※金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律
警察に追われる身で、それまで使っていた携帯電話をそのまま使い続けることはできない。プリペイド携帯が逃げ道になった時期はあったものの、それも規制が厳しくなった。自動車やオートバイを運転していれば、路上で免許証の提示を求められる場面がある。
また、免許の更新は事実上不可能だ。働くことも容易ではない。本人確認を受け、給与の振込先を示すという手続きを通れないため、働けるのは、身分を問われず、その場で現金を受け取る仕事に絞られる。新たに旅券を取得する手段はなく、指名手配後に正規ルートで海外へ逃れることは現実的ではない。
医療を受けるのも大きな壁だ。本名の健康保険証を使えば受診記録が残る。更新された健康保険証は受け取れず、それ以前に保険料も継続的に払えない。健康保険証がなくても通院や入院はできるが、医療費は全額自己負担になる。別人の健康保険証で外来受診をごまかす余地はあるものの、医療機関から足が遠のき、健康状態を損ねやすい環境となることは確かだ。
のちに明らかになる小池容疑者の逃亡生活は、こうした見立てと大きく離れたものではなかった。
逃亡11年の末に岡山で死亡…小池俊一の潜伏生活と最期
その翌年、2012年10月20日に「小池俊一」の名前がメディアに躍った。逮捕されたのではない。死亡が確認されたのだ。警察の発表によると、19日夜、岡山県で67歳の女性から「同居中の男がトイレで倒れている」と119番通報があった。搬送された「小笠原準一」と名乗る男は、病院で死亡が確認された。その後、葬儀業者が本人確認できないと訴えたことから、警察が指紋などを照合した結果、小池容疑者だと判明した。
15歳年上の同居女性の事情聴取や家宅捜索などから、逃亡中の小池容疑者の生活の一端が明らかになった。小池容疑者は2002年ごろから、同居女性が働いていた飲食店の常連客で、やがて親密な関係になった。小池容疑者はホテル住まいだと話していたが、女性に誘われ、2005年ごろから岡山市内の女性が住むマンションで同居するようになった。
当時から小池容疑者は定職に就いておらず、女性が働いて衣食住の面倒を見ていたほか、小遣いも渡していたという。2人に婚姻関係はなかった。死亡時、小池容疑者の年齢は52歳だったが、本人は55歳と偽っていたようだ。「小笠原準一」という偽名は、名前を名乗らないことから、女性がつけた仮名だった。
小池容疑者が使っていた携帯電話も押収されたが、それは女性が自分名義で契約したものだった。そこには十数件の携帯電話番号が登録されていた。つまり、小池容疑者は家にこもっていたのではなく、外部との接触を保っていたことになる。
女性は、小池容疑者が指名手配中の容疑者だとは知らなかったと話した。なお、司法解剖の結果、死因は心筋梗塞によって血管が破れ、心臓の周囲に血液がたまり圧迫される「心タンポナーデ」だとされた。やはり、健康診断も受けにくい逃亡生活が長く続いたことが災いした可能性はある。
同年12月5日、徳島県警は小池容疑者を被疑者死亡のまま書類送検した。
小池容疑者は裁判にかけられることはなく、父子殺害や死体遺棄、放火について有罪だったと法的に断定することはできない。事件の真相、犯行の詳細が法廷で明らかになることもなかった。被疑者の死亡が判明するまでの約8年間で、「おい!小池」のポスターは約108万枚が配布された。
■ミゾロギ・ダイスケ
昭和文化研究家、ライター、編集者。スタジオ・ソラリス代表。大学の文学部を卒業。スポーツ雑誌、航空会社機内誌の編集者を経て独立。『週刊大衆』をはじめ、各媒体で執筆活動を続ける。犯罪、芸能全般、スポーツ全般、日本映画、スキー、プロレスなどを守備範囲とするが、特に昭和文化研究はライフワークだ。著書に『未解決事件の戦後史』(双葉社)。

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