案の定、現場は悲惨な状況だ。
しかし、何よりも悲惨なのは、業界の男性だけでなく、ホワイトカラーの女性、さらには当事者である女性労働者たちまでもが、その悲惨な状況に気付いていないことにある。
そんな傾向が特に顕著なのが運送業界だ。トラックドライバーは日々会社を離れ、ひとりで仕事をするため、経営側はその状況を直接確認できず、本人の報告や申告に頼らざるを得ないことが問題の一因となっている。(本文:橋本愛喜)
「女性ドライバーの悩み把握している」事業者は6割
「自社に女性ドライバーがいるか」との問いに、「いる」と答える事業者の数は、毎年増加の一途をたどる。実際、全国のトラックドライバーの数は、これまでの3万人台から今年初めて4万人台になり、路上でも女性トラックドライバーを見かける機会が増えた。
続けて、事業者に「女性ドライバーの労働環境は整備されているか」「女性ドライバーの悩みを把握しているか」と問うと、こちらも「はい」と答える人がそれぞれ6割ほどに及ぶ。
一点の曇りもないその顔つきを見るに、各社が努力しているのは間違いないだろう。
しかし、その講じた対策の内容は毎度「女子トイレを作った」という程度にすぎない。また、企業役員のほとんどが中高年男性経営者という現状に、この業界の女性労働者に対する人権意識の低さを感じざるを得ない。
「女性の悩みはトイレ」を延々繰り返す業界の時代錯誤
運送業界ではこれまでずっと、女性ドライバーの悩みとして「トイレ不足」が繰り返し議論されてきた。運送業界におけるトイレ不足は、駐車場の問題と表裏一体だ。車体が大きいクルマはどこにでも停められるわけではないため、ドライバーはもともと「トイレを確保できない」という問題を性別問わずに抱えている。
しかし、こと女性においては、身体の構造上、男性ドライバーのようにペットボトルに用を足したり、(そもそも道義上は男性でも許されていないのだが)立ち小便したりすらできない。
男性以上にトイレ問題は深刻だと言えるだろう。
これほどインフラが整い文明が発展しきった現代において、生理現象すらまともに処理できない労働環境は、もはや人権問題でしかない。
が、「女性の働きにくさ」を議論する場において、いつまでも解決されない(本気で解決しようという気すらない)このトイレ問題ばかりが取り上げられることにより、女性ドライバーが抱く「本当の働きにくさ」が埋没しているのが現状で、もはや「臭いもので、臭いものにふたをしている状態」であることに、この業界は気付けていない。
現場の女性が抱える悩みや置かれている状況は、もうとっくに「トイレ」のフェーズにないのだ。
女性ドライバーの「本当の悩み」
筆者のもとには、毎月様々な悩みを抱えた運送事業者や現場労働者から20~30件ほどの相談が来る。なかでもこの5年ほどで急増しているのが、女性トラックドライバーからの相談だ。これまで対応した女性ドライバーは80名を超える。
とくに多い相談は「相談できる上司や先輩、仲間がいないこと」だ。
「身体にまつわる話は男性上司に相談しにくい」
「同僚の男性ドライバーからのセクハラを相談したら、セクハラで返された」
「男性上司に生理痛と言いにくく『体調不良』としたら自己管理がなってないと怒られた」
「結婚や妊娠、出産など、女性のライフイベントに対して知識・理解がない」
冒頭でも言及した通り、ひとりで仕事をするドライバーが抱える問題は、本人からの報告がない限り気付くことができない。しかし、周囲には中年男性上司ばかり。相談をためらう女性ドライバーをよそに、経営者の半分以上が「女性ドライバーの悩みを把握している」と自信ありげに答えてしまうのが現状なのだ。
ドライバー20人ほどをかかえる運送企業の役員から、こんな愚痴めいた相談を受けたことがある。
「ようやく30代の女性がドライバーとして1人が入ったと思ったら、2か月もしないうちに辞めてしまった。女性はやはり根性も体力も男性より足りていない」
聞けば運行管理者や事務職員にすら女性がいない完全男性企業。相当悔しかったのだろう。
「その“子”のために、“女の子用”のトイレだって作ったんですけどね」
その言葉に、「当然の結果だろう」と思わずにはいられなかった。
車内ドライブレコーダーがプライバシーを侵害する?
こうした女性管理者の不在は、時に女性ドライバーの大きな人権侵害になる恐れがあると感じている。それが「車内ドライブレコーダー」だ。現在、当たり前のように自動車に搭載されているドライブレコーダーだが、実は現在のトラックには、事故時の証拠を増やすべく、車外だけでなく「車内」の様子を記録するレコーダーが付いていることが多い。
しかし、このカメラがドライバーにダイレクトに向けられた車内レコーダーの設置には、「プライバシーがない」「鼻もほじれない」とドライバーからの不満が出ることが少なくない。
その記録は、事故時の証拠だけでなく、普段から勤務態度の確認や評価の材料として、役員たちに見られるケースがあるからだ。
これに対し、「最大のプライバシー配慮をしている」とする企業もあるが、何より懸念されるのが、女性ドライバーの映像を男性が確認しているという現状だ。
「プライバシー保護のため、役員しか見られないようにしている」と言いながら、その役員が全員男性なのは、プライバシーの保護になっていると言えるのだろうか。
男性ばかりの企業に所属する女性のドライバーからは「(同僚や上司から)『歌うまいね』と声をかけられた」「『運転中に言ってたひとりごと、あれなんて言ってたの?』って聞かれてゾッとしました」といった声が多く届いている。
なかでも最も問題なのが、着替えだ。
カメラはエンジンを切ればオフになる。布などで覆えば、当然姿は映らない。
しかし、たとえオフになっていたとしてもカメラの向こうに男性がいることを知ったうえで着替えなければならない環境は、女性にとって心的な負担になる。
運送企業には、女性用の更衣室がないところが少なくない。汗だくになり、途中で着替えたくなる労働環境下でもある。1日で帰れない場合は車中泊もある。
「記録を男性が見ていると考えると、超絶に気持ち悪いです。でも、その映像を見ている男性こそ、『気持ち悪い』と言わないといけない会社のしかるべき地位の人たちなので、どうしても言い出せず我慢しています」
おかしい環境に気付いていない
「声を上げられない」理由は他にもある。なかでもこの業界の女性に浸透しているのが、「そもそもその環境が、世間的にみるとおかしいものであることに気付いていない」という点にある。
作業服で仕事をする現場にもかかわらず、運送業界には女性用トイレどころか更衣室がないところが多い。
しかし、先に紹介した通り、業界には車内ドラレコを男性に確認される気持ち悪さを訴える女性がいる一方、「車内で着替えるから更衣室はいらない」「直帰するだけだからあっても使わない」とする人も少なくない。
更衣室があったら、少しでも自分の行動に対して選択肢が増えているかもしれないとは考えず、「今の環境」に順応してしまう。日々「超男性社会の現場」に対峙(たいじ)している人たちには、この業界の非常識に気付く余裕はないのだ。
先日ドライバーに行ったアンケートでは、転職回数で最も多かったのは「6回以上」。「転職を繰り返しているので世間のことはよく知っている」という声もあったが、同じブルーカラー間の転職という「横の移動」を繰り返しているだけでは、見える世界はそれほど変わらない。
「好きで入ってきたんだから」で我慢する女性
もうひとつ、女性ドライバーが不満を口にできない大きな要因に気付いたのは、最近聞いたある女性ドライバーのひとことだった。「男性ばかりの業界に、自らすすんで入ってきたので、不満を言いにくい」
個人的な話になるが、筆者は工場を経営していた父の急病がきっかけで現場の仕事を始めた。好きで始めたわけではなかったため、女性視点はもちろん、ブルーカラー全体にある「働きにくさ」をそのまま言葉にできたが、彼女たちは違った。
自ら男性社会に進んで足を踏み入れたがゆえ、それ自体が負い目になり、「働きにくい」と声を上げられないでいるのだ。
実際、女性が働きにくさを訴えると「ならば辞めろ」といった言葉が投げかけられる。
絶望的なのは、彼女たちにこうした根性論を押し付けるのが、男性だけではないということにある。
「セクハラ受けてナンボ」と笑う先輩女性ドライバー
女性ドライバーが多く集まるイベントで、セクハラ被害について質問をすると、毎度ベテラン女性ドライバーたちからこんな声が上がる。「セクハラ?ないない。セクハラと思ったらセクハラなんで」
「そんなもの笑ってかわせないと、この業界ではやっていけませんよ」
そんな大先輩の“武勇伝”を聞いて、誰が「セクハラされて辛い」と言えるだろうか。
ベテランドライバー自身も、間違いなく過去に女性としての壁を経験してきている。
超男性社会のなか、周辺男性からの女性蔑視にも聞こえないふりをしたり、セクハラも笑ってスルーしたり、この過酷な男性社会を必死に生き延びてきたはずだ。
しかし、こうした経験をプライドに変えてしまったクインビー(女王蜂)が根性論を語ることで、悩みを抱える新人女性は居場所を失う。
根性論に走ってしまうのはベテランだけに限らない。男性社会にうまく順応した若手の女性にも同じ言動が起こり、それが周囲の女性を萎縮させている。
「力こぶを披露(ひろう)する女性のせいで、この業界に入る女性は力持ちじゃないといけなくなる。同僚の男性から『あの子は酒も飲めて、手荷役も嫌がらず、業界の子って感じ。〇〇さん(自分)ももっと頑張りなよ』と言われた。業界は今、その力仕事を撤廃しようとしているのに」
ブルーカラー版「ガラスの天井」
現場に女性ドライバーを増やしていこうとするには、こうしたベテランドライバーたちが若手の悩みに耳を傾けなければならない。そして、何よりも現場の女性労働者を増やす前に、更衣室を作り、記録映像に対して「私が見ます」と言えるくらいの発言権のある役員クラスの女性を増やさなければならない。
しかし、ブルーカラー業界にある「ガラスの天井」は、「強化すりガラス」なのではと思うほど、頑丈でその先が不透明だ。彼女ら自身、自分が今どのくらいのポジションにいるかを見失っている状態だと言える。
とあるトラック関連の展示会が開かれた際、その隣の会場では、2日間にわたり50名以上の識者や運送企業経営者が座談会形式でセミナーを開催。どのプログラムも客側は老若男女満席に近い状態だったが、登壇者の側を見ると、SDGsや人手不足が論じられる会に、女性は4名しかいなかった。
何よりもこの業界の状況を象徴していたのは、数ではない。その4名は1つのプログラムにまとめられ、「私たちのヒミツの話し…そっと教えます♪」(原文ママ)なるタイトルが付けられていたことだった。
この構図は、もはや「女性にも話す場は与えてやったんだから、俺たちの邪魔をするな」というメッセージでしかない。
最後の音符のマークに、むしろ女性登壇者がゼロのほうがましだったとさえ思った。
セミナーの資料(撮影:橋本愛喜)
実際、男性ばかりの座談会を聴講すると、落胆度はさらに増す。
「うちの会社、女の子たくさん入ったよ」
残念なのは、こうして女性ドライバーが男性から「トラガール」や「女の子」といった、幼稚な言葉で呼ばれても、数少ない女性役員から「異論」が出ないことだ。
本人らも、自分の役割がいかに重要なのか、まだ気付いていない。男性と対等に話をさせてもらえていないことに気付いていないのかもしれない。
真っピンクのトラック
2013年、東京で開かれた「東京モーターショー」に、三菱ふそうトラック・バス株式会社(本社:神奈川県川崎市)が開発したトラックが展示された。そのトラックをはじめて見た時の衝撃と絶望感は、今でも胸に深く刻まれている。
車体は、全身「真っピンク」。水玉模様が施された荷台部分の「Enjoy Your Driving(運転楽しんで)」なる皮肉たっぷりのメッセージがさらに自尊心を傷付ける。
衝撃だったのが、これを開発したのは男性ではなく、女性だったという事実だ。
つまり、女性ならば偏見がないというわけではないことを物語る。
小型ハイブリッドトラック「キャンター エコ ハイブリッド Canna (カンナ)」(三菱ふそうのホームページから転載)
一方、国土交通省は同年、女性のトラックドライバーを受け入れるべく、ある取り組みを開始した。「トラガール促進プロジェクト」である。
そのウェブサイトには、前出のピンクトラックとともに、「近年少しずつではありますが、現場に華やぎを与える女性ドライバー(トラガール)が増えてきました」の文言が、こちらもピンク色の文字で記されていた。
このウェブサイトは4年前にようやく刷新され、ピンクのトラックは姿を消した。
しかし、その新しいウェブサイトに受け継がれた「ピンク色基調」と「トラガール」なる文字によって、同省の現場の女性に対する「現場の女性は幼稚性のある名称で呼びピンク色をあしらっていれば喜ぶ」なる固定観念の根強さを感じずにはいられないのだ。
国土交通省が2014年に立ち上げた「トラガール促進プロジェクト」の旧ウェブサイトから(画像は橋本愛喜が保存)
一方、川上にいる彼らには、意識・知識の変容も見えつつある。
東京モーターショーの後身として始まった「モビリティショー」。昨年は、ハイヒール・ミニスカート姿の女性コンパニオンが姿を消し、ユニセックスで近未来的なデザインの衣装を身にまとった男女が立つようになっていた。
ピンクのトラックを作成した当該メーカーのブースでは、子どもが参加できる空間をつくることで家族連れを誘い込むことに成功。多くの笑い声があふれていた。
数年前まで、出会うほとんどが男性だった国交省の官僚も、最近、女性の割合が明らかに増えた。
また、女性向けのイベントや講演会には女性官僚だけでなく男性官僚の姿も。地方の運輸局では、女性の局長なども誕生している。
女人禁制にするような時代もあったブルーカラーの現場。この業界を変えるには、長い時間と多大な労力が必要になることは間違いない。
しかし、「現場にだけ労働者を入れればいい」「労働者は男性社会に順応すればいい」という短絡的なやり方では、今後女性は定着しない。
まずは、ルールを決める側、労働者を管理する経営者側から変わる必要がある。
運送業界で働く女性ドライバー一人ひとりが、当たり前の労働環境を得られる日を切に願う。
■橋本愛喜(はしもと・あいき)
現ライター。元工場経営者・トラックドライバー。大型自動車免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。現在はブルーカラーの人権・労働に関する問題や、文化差異・差別・ジェンダーなどの社会問題などを軸に各媒体へ執筆・出演中。

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