〈ソフトドリンク・お水で長居をされるお客様が増えたため、廃止致しました。
30分毎最低1杯制とし、お連れ様含め飲まれない方はお会計を出すのでご退店お願いします。

先日、都内にある居酒屋が上記のルールを設けたことがXで報告された。これをきっかけに、「居酒屋は原価率の低いドリンクで支えられているから、お酒を飲めない人も酒飲みと同じペースでソフトドリンクを頼むべきだ」「そもそも酒を飲めない人が居酒屋に行くべきではない」という旨の主張が相次いだ。
上記に対して「お酒と同じペースでソフトドリンクを飲み続けることは難しい」「車の運転をするなど飲めない事情を持つ人もいる」といった反論も提起され、議論が起こっている。
近年では、アサヒビールが「スマドリ」を推奨するなど、外食の場でも飲酒しないライフスタイルが広がっており、厚生労働省もアルコール健康障害への対策を推進している。こうした時勢のなか、客が酒を頼むことを前提にしている昔ながらの居酒屋の営業形態に、法的な問題はないのだろうか。

「ハウスルール」が有効になる条件とは

そもそも、客の注文に関するルールを店側が一方的に設定することは、法律的に認められるのだろうか。
飲食業法務の専門家であり、自身でも飲食店を経営している石﨑冬貴弁護士によると、私法上の「契約自由の原則」(民法521条)から、飲食店と客は原則として互いに対等な立場で自由な内容の契約を締結することができる。
そのため、店側が「ノンアルコールのみの注文はNG」「30分に1回はドリンクを注文する」といった店舗独自のルール(ハウスルール)を設けること自体も、公序良俗や法令に反しない限り認められている。
そして、客側がハウスルールを承諾したうえで入店しているのなら、店側はルールに従わない客に対して退店を要求することや、ルールに反して注文されなかったドリンク分の損害賠償を請求することなどが可能だ。
さらに、極端な場合には、ルールに反した客の行為が刑法上の不退去罪(刑法130条)や業務妨害罪(同234条)に該当する可能性もあるという。
ただし、ハウスルールが客に対して法的な拘束力を持つためには、「入店前または注文前に店側からルールを明確に提示されており、客側がそのルールを承諾して店を利用した(=契約が成立した)」という事実が必要となる。
具体的には、看板やメニューにハウスルールを分かりやすく明記する、入店時に店員が口頭でルールを説明する、といった方法が「ルールの明確な提示」にあたる。加えて、店の公式サイトや外部の予約サイトなどにルールを明示することも望ましいだろう。

ロードサイドの店でも「ノンアルNG」は認められる?

ひとくちに「居酒屋」といっても、徒歩や電車で店を訪れる人が多い都心部の店と、地方のロードサイドにある店とでは、「ノンアルコールのみの注文はNG」というルールの意味合いは変わってくるように思える。後者の場合は、客のグループのなかに車のドライバーが含まれていることも多いからだ。
また、客が車を運転すると知っておきながら店側がアルコールを提供することは、いわゆる酒類提供罪(道路交通法65条3項)に該当するため、一般的に居酒屋は「ドライバーには酒類を提供しません」と店内に明示している。
しかし、そもそもロードサイドの居酒屋が「ノンアルNG」というルールを作って集客できるのかというビジネス面での問題はともかく、法律的には有効であるという。
ロードサイドであるとはいえ、客側には「自家用車で店に行かない」という選択肢が存在することから、「ドライバーには酒類を提供しない」という法律上必須のルールと、「ノンアルNG」というハウスルールは両立すると考えられるためだ。
「ただし、現実問題としては、ノンアルNGのハウスルールが客の飲酒を促す可能性があることは否定できません。
店側のコンプライアンスや危機管理、地域における風評などを考慮すれば、ノンアルNGルールの導入には慎重な検討が必要になるでしょう」(石﨑弁護士)

「ノンアル時代」に、店と客に求められること

「お酒を飲まない」という選択肢が人々に広がっている昨今、「ノンアルコールのみの注文はNG」というルールを設ける以外の方法で、アルコールドリンクの注文の少なさに困っている居酒屋が取れる対策とは何だろうか。
そもそも、「ノンアルNG」というハウスルールが導入されるのは「利益率の高いアルコールドリンクを注文してほしい」という、店側の経営上の理由に由来する。
そのため、「ソフトドリンクを含むワンドリンク制にする」「席料・チャージ料やサービス料を設定する」「時間制を導入する」といった施策によって客単価や人時売上(※)をコントロールする、という方法が検討できる。
※従業員1人が1時間あたりに生み出す売上高
これらの施策はさまざまな飲食店ですでに一般的に導入されていることから、多くの客の理解を得られやすい、と考えられるためだ。
また、クラフトドリンクやノンアルコールカクテルなど新しいメニューを導入することで、アルコールに依存しない利益を作る、という施策も検討できる。
石﨑弁護士は、「ノンアルNGのルールが導入される背景には『酒場として、しっかりお酒を楽しんでほしい』という目的もあると思います」と認めつつ、以下のように語った。
「大事なことは、客のニーズや社会常識も多様化するなかで、店は『居酒屋なんだから酒を飲むのが当たり前だ』、客は『客が何を頼もうが自由だ』と突っ張るのではなく、互いに満足できる『合意の形成』と『選択肢の提示』を事前に行い、歩み寄ることではないでしょうか。

双方がお互いの事情を想像し合い、あらかじめ示されたルール(契約条件)に納得したうえで、客が店の暖簾(のれん)をくぐるという、成熟した関係性を築いていくことが極めて重要だと考えます」(石﨑弁護士)


編集部おすすめ