夫婦どちらかの親が一人暮らしになり、さらに高齢となると、引き取って暮らさざるをえないケースも出てくる。親自身が老後の人生の青写真を描いていてくれればいいのだが、なかなかそうはいかないこともある。


■義母を「引き取るしかなかった」
「3年前、義父が亡くなり、足の悪い義母が田舎で一人暮らしになったんです。最初はあちらで介護制度を使ってケアしてもらっていたんですが、夫が見にいったら家の中は荒れているし、どうもうまくいっていない様子だと。

義母の栄養状態もあまりよくないと夫は受け止めたみたいです。義母は歩けないわけではないんですが、何をするにも時間がかかる。生活の全てをヘルパーさんに頼むのは、経済的にも精神的にも負担が大きすぎる。施設は嫌だと義母は言い張る」

ミチエさん(48歳)は、結局「引き取るしかなかった」という。なにより義母が息子一家と暮らしたがっていたし、足以外に悪いところはないのに栄養状態がよくないというのが引っかかった。

「私、料理関係の仕事をしているんですよ。食べ物にはもっとパワーがあるはず。なんだか職業意識もあってムクムクと意欲が湧いてしまい、私が義母を元気にするからと夫に請け合ってしまったんです」

義母とは離れて暮らしていたが、うまくやっていた。さっぱりした性格で言葉の裏を読まない真っすぐな人だから、ミチエさんも信頼していたのだ。二人の子どもたちが小さいころは泊まりがけでよく手伝いに来てくれた恩もある。


■自宅の買い手が見つからず
「いざ引っ越してくるというときに、夫が『実はおふくろにはほとんど貯金がないんだよ』と言いだした。まあ、それは仕方がないですよね。

でもさらに、自宅は売却すると聞いていたが、まだ売れていないと。場所が悪くて買い手が見つからない。年金は月に5万もない。え、じゃあ、ほとんど私たちが丸抱えなのと驚いたところで、義母が越してきました」

事前に手を回していたとおり、ケアマネがやってきてさまざまな調整を始めた。訪問医療や介護ヘルパーの手はずもついていた。その後、要介護2と認定され、デイサービスに週3日通うことになった。

「その間、急に体調が悪くなって入院したりもしました。大きな胆石がいくつも見つかったので手術もしました。義母は民間の入院保険などにも入っていなかった。健康保険からいくらか戻ってくるとはいえ、入院費もけっこうかかりましたね」

環境が変わったせいで、心身の調子を崩したせいもあったのだろう。
ようやく落ち着いたのが1年ほど前のことだ。

■家計に食い込む義母の生活費
胃腸が弱くて消化不良が日常的だった義母だが、この1年はとても元気になった。便秘も解消、デイサービスで「座ったままのヨガ」などを熱心にやっている。

「いつも悪いわね、あなたには迷惑ばかりかけてと、気遣いもできる義母なんですが、やはりお金がかかるんですよね……。介護関係で義母の年金はほぼ飛んでいく。食費や生活用品は全部、こちらもちです。赤身の牛肉が食べたい、鰻が食べたいとわがままも言う。全てを却下するわけにもいかないし、義母の笑顔も見たいからこちらも無理してしまう」

結果、食費や生活費が跳ね上がった。80歳近いが義母はスマホも使いこなす。その費用はミチエさんたちの家計費から飛んでいく。

「夫は一人っ子なんです。しかも彼は30代半ばで独立して会社を興したんですが、うまくいかずフリーランスで仕事をしています。
主な生活費は私が担ってる。それはいいんですよ。子どもたちは今、高校2年と中学2年。男の子二人だから食費はかかるし、塾などの費用もあるし。

本当は義母を引き取ってやっていける状況ではなかったのかもしれません。でも夫も頑張っているし、家族関係はとってもうまくいっていた。だから義母も仲間に入れたかった……でも、今はかなりキツいです」

■家族のバランスが崩れてしまった
日々、義母の物忘れも激しくなっている。時々、「さっきも言ったでしょ」と自分の口調が強くなるのが分かり、ミチエさんは自己嫌悪に陥ることもある。

「このままではジリ貧ですね。夫は最近、週に3回ほどアルバイトに出るようになりました。私はフルタイムだから週末は休むようにしていたんですが、今は週末も仕事があれば出ていきます。とにかくお金がなければ暮らしていけないので」

そうは言いながら、お金お金と言っている日常が嫌になることもある。
義母にもあまりぜいたくをさせず、食費も倹約するようにはしているが、それでも「義母がいなければ、経済的にも時間的にももう少し楽になる」と思うこともある。そしてそんな自分を情けないと感じてしまう。

「義母が一人入ったことで、家族のバランスが崩れてしまった。子どもたちも変に気を遣ったりしていて。先日、義母が言ったんですよ。『もっと早く死んだ方がよかったのかもしれないね』って。高齢の義母にそんなふうに思わせるのも忍びない」

たった一人の義母さえ、こんなに物価が高騰すると、余裕をもって面倒を見られない。こんなことになった今の境遇がせつないとミチエさんは涙ぐんだ。

文:亀山 早苗(フリーライター)
明治大学文学部卒業。女性の生き方を軸に、家族、夫婦関係、働き方などをテーマに取材・執筆を続ける。くまモンの追っかけ歴は長く、近著に『くまモン力』がある。
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