有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)材料や樹脂材料などを手がける保土谷化学工業<4112>のM&Aを活用した成長戦略が、再び動き始めた。
2011年に韓国SFCを子会社化し、スマートフォンやテレビなどのディスプレーに使われる有機EL材料事業を、グループの収益をけん引する柱に育てたものの、これに続く新たな収益の柱の確立が遅れ、事業ポートフォリオが硬直化したとの反省が背景にある。
すでに2026年8月にはハンガリーの化学メーカーFramochemを子会社化し、特殊化学品事業の強化に乗り出しており、今後もM&Aや提携を積極的に活用して事業ポートフォリオの変革を進める方針だ。
韓国SFCへの出資が転機に
保土谷化学工業は2010年に、SFC株式の33.8%を取得し、翌2011年に追加取得して子会社化した。
SFCとは出資後、有機EL材料の研究開発や営業で共同展開しており、有機ELの主要市場である韓国で開発・生産・販売面の連携を強化する狙いがあった。
子会社化後は、韓国での研究開発や生産体制の強化に力を入れた。
2012年にはSFCの新本社・研究所を新設し、2018年にはSFC株式を追加取得したほか、有機EL材料の精製を手がける韓国のREXCELにも出資した。
その後も投資を進め、2023年にはSFCが、バイオ事業の研究開発・生産拠点となるBio Parkを竣工した。
こうした取り組みが実を結び、保土谷化学工業は事業の振り返りで、韓国SFCへの集中投資によって有機EL材料事業がグループの収益をけん引する柱に成長したことを「大きな成果」と位置付けている。
SFC子会社化後はM&Aが減少
保土谷化学工業はSFCへの出資前後には、複数のM&Aを手がけていた。
2008年には子会社の保土谷建材工業が、セメント系防水材の販売を手がける日本バンデックスを子会社化したほか、子会社の保土谷UPLが三共アグロから殺虫剤のイソキサチオン剤事業を取得した。
2011年には住友化学<4005>から家庭園芸向け農薬事業を取得した一方、2012年にはウレタン原料を手がける日本ポリウレタン工業の全株式を東ソー<4042>に譲渡した。
その後は韓国を中心とする既存事業への設備投資や研究開発投資が目立ち、企業や事業を丸ごと取り込むM&Aは少なくなった。
この間、有機EL材料は大きな収益源に成長したが、それに続く収益の柱の確立は遅れた。
こうした事業ポートフォリオの硬直化が経営上の課題となる中、再びM&Aが動き出した。
同社は2026年3月に、ハンガリーの化学メーカーFramochemを子会社化することを決め、同年8月に買収手続きを完了した。
取得額は8700万ユーロ(約160億800万円)で、アドバイザリー費用など約6億円を加えると約166億円となる。
Framochemはホスゲン(樹脂材料や医薬・農薬など幅広い製品の製造プロセスで広く用いられる反応剤)を主原料とする医薬品原料や中間体、ファインケミカル製品を製造・販売する。
保土谷化学工業も1926年にホスゲンの製造を開始し、医薬品や化粧品向けの特殊化学品事業を展開してきた。
Framochemの買収で獲得した欧州の生産拠点と顧客基盤を生かし、ホスゲン誘導体を日本と欧州の2拠点で展開する体制を構築する。
SFCを取り込んで有機EL材料を収益の柱にした保土谷化学工業が、特殊化学品事業の強化に向けてM&Aを再び成長戦略の前面に出した形だ。
機能性色素が売上高の過半
保土谷化学工業の起点は、1915年に現在の横浜市保土ケ谷区に設立された程谷曹達工場にさかのぼる。
同年に電解法苛性ソーダの製造を開始し、翌1916年に東洋曹達(現郡山工場)を設立し、1939年には現在の保土谷化学工業に社名を変更した。
その後、1993年には化学品の分析・研究開発を受託する保土谷コントラクトラボを設立したほか、1994年には住友化学工業(現住友化学)と共同出資し、農薬の製造・販売を手がける保土谷アグロス(現保土谷アグロテック)を設立した。
さらに1997年には倉庫業や貨物運送取扱業を手がける保土谷ロジスティックスを設立し、化学品から農薬、物流まで事業を広げた。
技術面では、染料からイメージング材料、有機EL材料へと展開し、現在は有機ELで培った技術を生かして核酸医薬分野や半導体材料など新たな領域への展開を進めている。
2026年3月期の売上高は480億4000万円(前年度比1.1%減)、営業利益は37億1100万円(同23.9%減)だった。
売上高構成比は、有機EL材料や色素材料などを手がける機能性色素が54.2%と過半を占める。
機能性樹脂は16.0%、基礎化学品は15.1%、アグロサイエンスは10.6%、物流関連は3.7%、その他は0.3%だった。
Framochemで機能性樹脂の存在感高まる
傘下に収めたFramochemの2024年12月期の売上高は89億6600万円(前年度比4.1%増)、営業利益は19億4400万円(同19.7%増)だった。
これに対し、保土谷化学工業の2026年3月期の機能性樹脂セグメントは、売上高77億200万円(前年度比8.8%減)、営業損失5億8900万円(前年度は5100万円の営業損失)だった。
Framochemは売上高だけで同セグメントの規模を上回り、利益面でも大きく上回る。
両社の直近業績を単純合算すると、Framochemの取り込みによって機能性樹脂の比重が大きく高まる一方、機能性色素の比重は低下する計算になる。
実際の連結業績は取得時期や為替、連結調整などによって異なるが、Framochemの取り込みによって、機能性色素の比重が高い事業構成は変わる可能性がある。
同社は2031年3月期に売上高800億円、営業利益100億円の目標を掲げている。
2026年3月期実績からは、売上高で319億6000万円、営業利益で62億8900万円の上積みが必要となる。
Framochemの2024年12月期実績を単純比較すると、売上高はこの上積み分の28.1%、営業利益は30.9%に相当する。
Framochemの子会社化は、目標に向けた大きな一歩ではあるが、達成までにはまだ距離がある。
また保土谷化学工業は、有機EL材料に続く第2・第3の柱として、核酸医薬CDMO(受託開発製造)事業と半導体関連材料事業を位置付けている。
核酸医薬CDMO事業では、有機EL事業で培った技術を応用したバイオ材料分野の技術や、韓国SFCのオリゴ核酸合成技術などを生かし、原料素材からGMP(医薬品の製造管理・品質管理基準)に準拠した製造まで一貫対応する体制を構築する。
半導体関連材料事業では、有機EL材料事業で培った超高純度精製技術や精密有機合成を強みに、前工程のレジスト材料から後工程材料まで展開する方針だ。
同時に同社では、M&A・提携の推進も成長投資の項目の一つに掲げており、2031年3月期までの5年間で、Framochem買収を含む成長投資に約390億円を配分する。
Framochem買収後も、事業ポートフォリオの変革にM&Aが活用される場面はありそうだ。
文:M&A Online記者 松本亮一
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