
2023年9月のM&A件数(適時開示ベース)は77件と前年を28件下回り、7カ月ぶりに前年比マイナスとなった。前年9月(105件)はリーマンショック前の2008年3月(111件)以来14年半ぶりに月間100件を超える高水準だったことから、反動減の影響が出た形だが、前月比でも18件減っており、ペースダウンが否めない。
一方、9月の取引金額(公表分を集計)は3030億円にとどまった。1000億円を超える大型案件は3カ月連続で途絶えている。大型案件を牽引する海外案件をめぐっては、ここへきての円安の再加速などから、先行きに慎重姿勢が広がるおそれがある。
“貯金”減らすも、年間1000件ペースを保つ
上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。
1~9月の件数累計は前年比54件増の747件。9月単月で“貯金”を大きく減らしたものの、それでも年間1000件の大台をうかがうペースを保っている。
9月の総件数77件の内訳は買収65件、売却12件(買収側と売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は13件で、日本企業が買い手のアウトバウンド取引9件、外国企業が買い手のインバウンド取引4件だった。
海外案件は1~9月累計で143件(アウトバウンド94件、インバウンド49件)。前年118件(アウトバウンド69件、インバウンド49件)を25件上回り、コロナ前の2019年142件(アウトバウンド110件、インバウンド32件)とほぼ並ぶ。

トップ3はそろって国内TOB案件
金額上位3件には国内企業によるTOB(株式公開買い付け)案件が並んだ。
トップは医療データサービスのJMDCを子会社化するオムロンで、最大855億円を投じて現在31%余りの持ち株比率を50%超に引き上げる。オムロンは血圧計などのヘルスケア機器で得られる日常生活下での健康データを持ち、JMDCはレセプト(診療報酬明細書)、健康診断などに基づく医療ビッグデータを保有する。両社のデータを相互活用し、予防医療や介護予防のサービスを強化する。
オムロンは2022年2月に資本業務提携。これに伴い、ノーリツ鋼機からJMDCの株式30%以上を約1100億円で取得し、持ち分法適用関連会社としていた。
DCMホールディングスは、同業でホームセンター中堅のケーヨーに対して完全子会社化を目的にTOBを実施する。買付代金は最大523億円。DCMは株式約32%を所有するケーヨーの筆頭株主。DCMは2017年1月にケーヨーと資本業務提携し、商品、物流、販促面で連携を進めてきたが、子会社化で一体的な運営を可能にする。
ケーヨーは関東を中心に東北、甲信、東海、近畿地区に「ケーヨーデイツー」の名称で164店舗を展開する。2023年2月期売上高は955億円。一方、DCMは2006年にホーマック、カーマ、ダイキの3社が経営統合して発足。2023年2月期売上高は4768億円で、ホームセンター業界でカインズに次ぐ2位。
DCMは2020年に中堅ホームセンターの島忠を子会社化するためにTOBを始めたが、途中参戦したニトリホールディングスによる対抗TOBに敗れた経験を持つ。
NTTは傘下のNTTドコモを通じて、市場調査大手のインテージホールディングスをTOBで子会社化する。
7~9月金額は8499億円と振るわず
1~9月累計の取引金額は6兆777億円で、前年を27%上回った。四半期別にみると、1~3月の2兆5910億円、4~6月の2兆6367億円に比べ、足元の7~9月は8499億円と低調だった。7~9月は1000億円超の大型案件がゼロに終わり、9月のオムロンによるJMDC子会社化の855億円が期間中、最も大きかった。
日本テレビ、ジブリを子会社化
9月に話題を呼んだのが日本テレビホールディングスによるアニメ制作会社「スタジオジブリ」(東京都小金井市)の子会社化だ。ジブリの設立は1985年。世界的にも知られる日本のアニメ界を象徴する存在だが、高齢となった創業者の宮﨑駿監督(82)、プロデューサー・社長の鈴木敏夫氏(75)の後継者問題を理由に、日本テレビの傘下に入ることになった。
日本テレビはスタジオジブリの株式42.3%を取得(10月6日付)する。取得金額は非公表。所有割合は50%を下回るが、社長を派遣し、実質支配力基準によりジブリを子会社化する。日本テレビはジブリ作品のテレビ放映に加え、映画製作への出資や、「三鷹の森ジブリ美術館」(2001年開館、東京都三鷹市)設立の支援など、長年緊密な関係にあった。
日本テレビとしてスタジオジブリは今年3件目の買収。9月初めにeスポーツ大会運営のJCG(東京都江東区)の子会社化を発表したほか、5月にはファッションEC(電子商取引)サイト大手のla belle vie(ラベルヴィー、東京都港区)を傘下に収めた。
DMG森精機、同業の倉敷機械を子会社化
工作機械メーカー中堅のTAKISAWAに対するニデックのTOBは予告通りに9月14日にスタートした。モーター大手のニデックがTAKISAWAに買収を予告したのは7月半ば。TAKISAWAは当初、賛否を示さず、敵対的買収に発展するかどうかが注目されていたが、TOB開始前日に買収の受け入れを表明した。ニデックにとってこの2年余りで国内工作機械メーカーの買収は3社目となる。
こうした動きに触発されるかのように、工作機械トップのDMG森精機はクラボウ傘下で同業の倉敷機械(新潟県長岡市)を子会社化すると発表した。倉敷機械の全株式を10月末に45億円で取得する。DMG森精機は業界最大級の品ぞろえを持つが、倉敷機械が主力とするCNC(コンピューター数値制御)横中ぐり盤は手がけていなかった。
実は、DMG森精機がM&Aを手がけるのは8年ぶり。2015年に旧森精機製作所が約2200億円を投じて欧州最大手の独ギルデマイスター(DMG)を子会社化して以来で、この大型買収が業界トップに立つ原動力になった。
工作機械業界では9月、もう一件あった。中堅の岡本工作機械製作所が産業機械・生産設備製作の大和工機(宮崎県都城市)を子会社化することになった。九州で半導体関連装置の新たな製造拠点として活用する狙い。
焼津水産、東洋建設…TOBの帰趨は?
TOBの帰趨に注目が集まったのはTAKISAWAの案件だけではない。その一つが焼津水産化学工業。国内投資ファンドのJ‐STAR(東京都千代田区)は焼津水産に実施中のTOBについて、9月19日だった買付期間を10月18日まで延長した。焼津水産の株価が買付価格1137円を上回る1300円前後の高値圏で推移し、成立が困難となっていたためだ。
株価上昇の発端は旧村上ファンド系投資会社、南青山不動産(東京都渋谷区)による焼津水産株の10%近い大量取得。加えて、シンガポール投資ファンドの3Ⅾインベストメント・パートナーズによる約10%の株式保有も明らかになっており、TOB成立に望みを託すには買付価格引き上げが避けられない情勢にある。
海洋土木大手の東洋建設と任天堂創業家の資産運用会社ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリーオフィス(YFO、東京都港区)の1年半にわたる攻防戦は9月末、新局面を迎えた。YFOは買付価格を従来の1000円から1255円に引き上げると発表。今後の協議を経て12月下旬のTOB開始を目指している。
東芝の非公開化を目指す日本産業パートナーズ(JIP、東京都千代田区)など国内企業連合によるTOBは9月20日に終了。78.65%の応募(買付総額1兆5729億円)があり、成立条件の66.7%を上回った。JIP陣営は今後、TOBに応じなかった株式の買い取りを進めて東芝を完全子会社化する。
◎9月M&A:金額上位(10億円以上) ※HDはホールディングスの略
1 オムロン 医療データサービスのJMDCをTOBで子会社化 855億円 2 DCMホールディングス 同業でホームセンター中堅のケーヨーをTOBで子会社化 523億円 3 NTT 傘下のNTTドコモを通じて、市場調査大手のインテージホールディングスをTOBで子会社化 470億円 4 星光PMC 米投資ファンドのカーライル・グループによるTOBを受け入れて株式を非公開化 279億円 5 住友林業 集合住宅開発の米国JPIグループを子会社化 235億円 6 システム情報 米投資ファンドのベインキャピタルと組んでMBOで株式を非公開化 181億円 7 レスターホールディングス 都築電気傘下の都築エンベデッドソリューションズ(東京都港区)など4社を子会社化 129億円 8 大塚ホールディングス 次世代向精神薬開発のカナダMindset Pharmaを子会社化 91.5億円 9 DMG森精機 クラボウ傘下の工作機械メーカー、倉敷機械(新潟県長岡市)を子会社化 45億円 10 東京建物 インドネシアにおける不動産開発の合弁企業2社を子会社化 43.6億円 11 学研ホールディングス ジェイ・エス・ビー傘下で高齢者向け介護サービスのグランユニライフケアサービス(京都市)を子会社化 42億円 12 ジーエヌアイグループ 米国Elutiaからオーソバイオロジクスの受託製造事業を取得 22億円 13 NexTone 音楽配信サービスのレコチョク(東京都渋谷区)を子会社化 15.5億円 14 エリアリンク LIFULL傘下でトランクルーム運営のLIFULL SPACE(東京都千代田区)を子会社化 11.5億円 15 プラップジャパン ソーシャルワイヤーを第三者割当増資の引き受けで子会社化 11.3億円 16 キャリアインデックス 会計・人事を中心とするDXコンサルティング事業のSales X(東京都港区)を子会社化 10.3億円 17 INEST 光通信傘下でデジタルコンテンツ配信のZITTO(東京都豊島区)を子会社化 10億円文:M&A Online