
「またタイムループ系か」と、ちょっと食傷気味の映画ファンも多いだろう。一方で、「えーっ今度はどんな手で」と興味津々の皆さんもいると思う。
『ペナルティループ』
日本映画だけでも、2022年にはオフィスでタイムループ騒動が起きる作品『MONDAYS』、23年には京都の老舗旅館が襲われる『リバー、流れないでよ』、そして24年は本作と、毎年話題作が登場する。今やタイムループものは、ゾンビものと並んで、新たな映画“ジャンル”といっていい感じ。クリエイターなら一度はやってみたい、チェレンジ欲をそそられる題材なんだろう。
今回、これに挑戦したのは『人数の町』という“ディストピアミステリー”で長編デビューした、映画を包む独特の世界観が魅力の荒木伸二監督。本作が長編2作目である。
オリジナル脚本も書いた荒木監督は「気概としては “どのループものとも違う” 更には、“これ以上のループものは出てこないよね” というものを作るつもりでした」とインタビューに答えている。

ストーリーの大枠は、意外と単純で。
恋人を突然殺された主人公・岩森(若葉竜也)が、6月6日の朝を迎える。朝6時にタイマーされたラジオからアナウンサーの声が流れる。
「おはようございます。

いつものように、仕事用の作業着に着替え、黒いバッグを持ち、車に乗って勤め先の工場に出かける。彼の職場は、野菜の水耕栽培の工場だ。その工場で、彼は、恋人を殺した犯人・溝口(伊勢谷友介)を見つけ、昔風に言えば、“仇討ち”をする。
しかし突然、岩森は再び、ベッドの中で6月6日の朝を迎える。無限ループが始まったのだ。そして、来る日も来る日も、彼は殺人を続けるのだが……。

犯人の溝口は何者? 岩森の同僚なの? なぜ岩森の恋人を殺したの? そもそも岩森だって、何者?
無機的な、人けの少ない工場の中で起きていることは現実なのだろうか? そもそもこれは現代の話なのか?
様々な「?」が渦巻くのだが、ループが繰り返される中で、少しずつ、謎が解き明かされる。説明のないままの謎もかなりある。

ループものは、出てくる人間がそのループに気づいて、さあどうやって抜け出す?という展開が多いが、この映画の場合、その当事者である岩森の意識が何やら違う。どうやらループに確信を持って、何度も殺そうとしているようだ。
では殺される溝口の方はどうだ。何度も何度も殺されているうちに、何かおかしいぞ、と思い始めたようでもあり……。では、工場で働く他のひとはどうなんだ?

出てくる登場人物は少ない。それぞれ、どういう人間なのかを説明するシーンはほとんどない。だからこそ、興味をかきたてられる。
『ペナルティループ』というタイトルこそが、最大の謎ときの題材であり、核心なのかもしれない。
映画のチラシを見ると、「このループに」と書かれ、チェックボックスがあり「同意します」「同意しません」の選択肢が続く。これは、単なる宣伝文句ではない。

岩森を演じている若葉竜也は、主演作の『街の上で』をはじめ、『愛がなんだ』『ちひろさん』ほか今泉力哉監督とのコンビ作品や、『愛にイナズマ』などの石井裕也監督作品が印象的。日本映画界でいまイキがいいと言われる監督から声がかかる、まさに旬の役者である。
溝口役の伊勢谷友介は、3年ぶりの芸能界復帰になる。岩森の恋人・唯役は山下リオ。「謎の男」役を『ドライブ・マイ・カー』に出演した韓国俳優ジン・デヨンが演じている。『炎上する君』のうらじぬのも、ちょっとミステリアス。

岩森が住む家の、事務所のような佇まい。趣味なのか仕事なのかわからない、彼が手がける建築模型。福島にある水耕栽培工場で撮影された近未来的な風景。ループの中で、使われる殺人用の道具類。岩森が乗る“黄色”のコンパクトカー。……細部にいたるまでこだわりがあって、スタイリッシュ。そのどれにも意味がありそうだ。
ひとりで観るのはもったいない。
文=坂口英明(ぴあ編集部)

【ぴあ水先案内から】
中川右介さん(作家、編集者)
「……『人数の町』はダークなSFとして秀逸だった。その荒木伸二監督の新作となれば、期待してしまう。そして、その期待に十分に応えている。……」
中川右介さんの水先案内をもっと見る(https://lp.p.pia.jp/article/pilotage/350726/index.html)
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