
現役東大生ながら歌舞伎町でホストとして働くえーすけさん。異色の経歴を持つ彼はまわりの友達がエリート街道を進むなか、ホストを続けていくことに一抹の不安を覚えているという。
ホストの道は「エリート街道」から外れることだった
現役東大生でありながら歌舞伎町でホストとして活躍するえーすけさん。日本最高学府に通いながら、日本最高峰の夜の歓楽街、歌舞伎町で働いている。だが、ホストを始めたことでこれまでの人生にはなかった不安を覚えるようになった。
それは「ルートから外れた感覚」だという。
「最近、まわりの友達が就職活動を始めるようになりました。これまで一緒に過ごしてきた友達が、リクルートスーツに身を包み、受験のころのようにゴリゴリに就活を行っています。外資系コンサルタントを目指している友達がフェルミ推定を勉強していたりするのを見ると、彼らと同じように就活をしていない自分に不安を感じてしまいます」
えーすけさんは高校時代は派手な遊びをすることもなく、ひたすら受験勉強に取り組み、東大理科一類に現役合格を果たしたいわゆる「エリート」だ。しかし、ホストという一般の東大生がまず選ばない仕事をバイトで始め、自身でも思っていなかったほどホスト業にのめり込むことができたこともあり、逆に自分が本来進むべき進路を外した感覚があったのだという。
「僕は高校時代、大学受験のために一生懸命勉強をしてきました。なので、その時期に真面目に勉強をしていない人や大学に行かなかった人に対して、『うわ…』と思っていたんです。だけど、ホストになって就活をしていない僕は、かつて自分が敬遠していた人たちと同じ側に来てしまったと思っています」
東大に進学すれば、大企業や官公庁などのいわゆるエリート街道に進むことが約束されたようなものだ。
「実は、大学受験の時に東大に入れなかったら自殺しようと思うくらい、気持ち的に追い詰められていたんです。当時は就活についても同じように感じていて、大手企業への入社は門戸が狭いこともあって、希望する会社に入れなかったら人生終わりだと考えていたと思います。それが今でも不安として残っているのかもしれませんね」
「ホストという仕事に救われている」
えーすけさんは現在の状況に不安を感じている一方で、ホストという仕事を通して得た学びもとても大きかったという。えーすけさんがホストの仕事を始めたことで出会ったのは、東大のキャンパスにいるだけでは絶対に関わることのない多種多様な経歴の人たちだ。
そうした人たちと交流できたことで、えーすけさんの価値観は大きく変化し、視野が広がったという。
ホストを始める以前、大学を出てフリーターになったり、会社をすぐ辞めてしまう人は“ヤバい”と思っていたが、ホストを始めたことでいわゆる「正規ルート」だけではない、多様な生き方の可能性を見いだすことができたそうだ。大学の友達が就活しているのを傍目に不安は募る一方で、有名な企業に入ることだけが人生ではないと思えるようにもなったという。
「基本的にネガティブ思考なので、常に不安はつきものです。ですが、ホストの仕事をしていると『頑張ろう』『成長しよう』という気持ちで取り組めるので、日々の不安を忘れることができますね。そういうときはすごく幸せだし、いい状態だなと思いますね。本当に、ホストという仕事に救われています」
いい大学に入って、いい会社に入るという、東大生のアタリマエを自分自身で突き破れたからこそ、東大にいるだけでは身につかない価値観を学ぶことができたのだろうか。
東大卒業後は何になる・・・
自分のことをネガティブだと語るえーすけさんだが、ホストを始めたことで心身ともに自信をつけることができたという。東大卒業後は大学院に進む予定だそうで、これからも学業とホストを両立させていきながら、「今後はなりたい自分を見つけるために頑張っていきたい」と将来の展望を話す。
「ホストを始めたことによって、生まれて初めて『本当になりたい自分を見つけたいな』と思うことができましたね。これまでは東大に入ることがゴールになっていたので、このようなことを考えることはほとんどありませんでした。
ですが、ホストという仕事を通じて視野が広がり、いろんな価値観を身につけることができ、なりたい自分を探そうと思えるようになりました。まずは、自分のなりたいものを見つけ、それに向かってできることをしていきたいですね」
東大には3年留年を繰り返したら「放校」という、強制的に退学をさせられる制度がある。実際に退学になってしまい、入学履歴が取り消される学生も少なからずいるのだとか。東大に合格することをゴールにしてしまい、達成後は何もやる気が起きず燃え尽きてしまうということが主な原因だそうだ。
もしえーすけさんがホストを始めなければ、目標が見つからないまま燃え尽き症候群になっていたかもしれないし、就活に追われてこれまで以上に自分を追い込んでいたかもしれない。えーすけさんにとってホストクラブは、勉強以外の大切な学びを与えてくれる場所だったのかもしれない。
「就活への不安はまだ残っていますが、将来的な到達点を考えるならば就職を急ぐ必要もないのかなと思っています。たとえ会社に入ったとしてもずっと会社員を続けるのも嫌なので。
ホストという仕事を通して、本当の意味で自分自身の道を歩み始めたえーすけさん。周囲と異なる道を進む不安を抱えつつも、今後もホストの仕事に真剣に取り組み、成長していくことだろう。
東大生としてもホストとしても、今後のえーすけさんの活躍から目が離せない。
取材・文/越前与