
2022年から成年年齢は18歳からになったが、やはり大人の仲間入りといえば20歳(ハタチ)、というイメージはまだまだ強いだろう。そんな中、2023年10月に20歳の誕生日を迎えた俳優・窪塚愛流に“ハタチ”を迎えた気持ちや大人になったと思った瞬間を聞いた。
20歳の誕生日を盛大にお祝い
──2023年10月3日に20歳の誕生日を迎えられましたが、“ハタチ”に対して特別な思いはありましたか?
10代のころは、“ハタチ=輝かしい大人”というイメージを自分の中で勝手に作り上げていました。20歳になってからできることも多いので、漠然とした憧れはありました。
例えば、友達と「レンタカーでフェラーリを借りて運転してみよう」と盛り上がったことがあって、いざお店に電話してみたら「運転免許を持っていても20歳以上じゃないと責任を取れないから貸せない」と言われて「確かに」と思いました。
「まだ子どもだから」という逃げ道がなくなったことで、すべてのことを自分で判断して責任も伴うのが20歳。自分を取り巻く環境が大きく変わろうとしていることに気づきました。

──20歳を迎えた瞬間は誰とお祝いを?
友達がサプライズパーティを開いてくれました。大阪に帰省していたのですが、友達が神戸のバーに連れて行ってくれたんです。お店に入った瞬間、クラッカーでパーンって(笑)。20人くらい地元の友達が集まってくれていました。
幼なじみのKen Francisとyel Dalemっていうラッパーふたりが歌ってくれたり、僕の好きな数字をジーパンに刺繍してプレゼントしてくれたり。ふだんはみんな腰が重いのに、わざわざ大阪から電車で1時間くらいかけて集まって祝ってくれたことが本当に嬉しかったです。
終電ギリギリに駅まで走って帰っていくみんなの後ろ姿を見ていたら、泣きそうになりました。同じ時間を過ごしてくれたことが何よりのプレゼントでした。

──20歳を迎えて数か月が経ちますが、「大人になったな」と実感する瞬間はありますか?
10代は苦手なことを避けて生きてきたので、もっとできることを増やしたくて、面倒くさいと思うことをまずは行動に移すようになりました。家でゴロゴロしたいと思っても、結局、後で洗濯をしなきゃいけないことに変わりはないじゃないですか。
だから、気持ちを切り替えて洗濯したり、皿洗いをしたり、部屋をちょっと片付けたり。自分が逃げたいと思うことを率先してやろうと思っています。身の回りの小さなことからしっかりクリアしないと、多分、大きなことも成し遂げられないと思うから。
ちゃんとしてるほうがかっこいい
──20年間のたくさんの思い出の中で、一番印象に残る衝撃的な出来事を教えてください。
小学5年生のとき、父が出演する映画の撮影で訪れていた小笠原諸島でサメに遭遇しました。しかも両腕を広げたくらいの大きなサメで、まずはみんなに知らせなきゃと思って「サメー!」と叫んだんです。
父曰く、そのときの僕は膝ぐらいまで海から飛び上がっていたみたいです(笑)。今までの人生で一番びっくりした思い出です。

──では、今の窪塚愛流さんに大きな影響を与えた出会いは?
僕の土台を作ってくださったのは、高校の校長先生です。高校3年生に上がる直前に、正門で身だしなみを注意されたんです。
「お前はよくも悪くも目立つから、身だしなみだけはちゃんとしろ」って。
それまではブレザーの下にパーカーを着たり、ネクタイを下げて締めたり、漫画に出てくるようなチャラい感じで着崩していたんです。
でも、校長先生に注意されてからは「確かに制服ってネクタイをビシッと上まで上げて、模範的な着方をした方が格好いいな」と気づいて、それまでの自分がダサく感じて制服の着方を変えました。
それまで友達口調で話していた先生にも、しっかり敬語を使うように心がけたり、学校や生徒たちの役に立ちたくて生徒会の副会長に立候補もしました。自然と先生からの頼まれごとも率先して行うようになりました。

──ものすごい急変ぶりですね!
20歳になった今も、校長先生から言われたことは今の僕の基盤になっています。怠けていた時期と、いろいろなことに真摯に向き合えた時間を経験できたことは、いま俳優の仕事をしていく上での糧にもなっています。
俳優の仕事はいま一番自分を幸せにしてくれる
──2024年は、3本の映画公開が控えています。『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』(1月26日公開)では、家族のためにワクチンを求める藤丸礼司役を演じています。
登場人物ひとりひとりに純愛や家族愛、どろっとした自己愛など、愛にまつわるテーマを持っているんです。登場する人たち全員の気持ちに共感できるし、誰もが愛おしく思える作品だと思います。劇場版から初めて観る方でも内容はしっかり伝わりますし、とにかく目が離せない怒涛の展開が続きます。観る前にはトイレを済ませておいてください(笑)。
──『愛のゆくえ』(3月1日公開)も“愛”にまつわる映画ですね。
僕が演じたのは、幼い頃に父を亡くし、母からの愛も受けられなくなってしまった14歳の宗介。いろいろな経験をしていくなかで、両親からもらえなかった“愛”を追い求めていくストーリーです。難しい役どころだったので、役を腑に落とすために何度も何度も宮嶋監督と相談して、精一杯演じました。この映画を観客の皆さんがどう受け止めてくれるのか、楽しみです。
──そして主演を務めた映画『ハピネス』(5月17日公開)では、余命1週間の恋人に寄り添う17歳の雪夫を演じています。
僕はこの映画を通して、いま生きている世界のひとつひとつの出来事に感謝の気持ちを持てるようになりました。とても切ないお話ではありますが、観終わった時にあたたかい気持ちになってほしいなと思って演じました。ロリータファッションや、蒔田(彩珠)さん演じる由茉の強さにも注目していただきたいです。

──愛をテーマにした作品が続きますが、窪塚さん自身のお芝居への愛は?
俳優になろうと決めて、上京してから1年半が経ちました。いろいろな人に出会い、さまざまな役と向き合うなかで気づいたことは、僕がこの世界を生きていくなかで一番楽しめる職業が俳優だということです。俳優は自分のことをもっとも幸せに導いてくれる仕事だと思っています。
──注目度も上がっています。現状をどう受け止めていますか?
本当に感謝しています。だからこそ、天狗にならず謙虚な気持ちを持っていたいと思っています。この世界にいるとメイクをしてもらったり、服を着せてもらうことは当たり前のことじゃないですか。でも僕は、初めてスタイリストさんに靴を履かせてもらった時に驚いたんです。
もちろんスタイリストさんからしたら仕事のひとつだけど、今まで自分で靴を履いてきた僕からしたら全然当たり前のことじゃない。
そういう些細なことにも毎回「ありがとうございます」という感謝の気持ちを伝えたいですし、謙虚な気持ちを持って過ごしていたいと思います。

取材・文/松山梢 撮影/恵原祐二