将来を有望視されていた女性お笑いコンビ・ハイツ友の会が3月31日に突然、解散を発表した。その理由をめぐって、「顔ファンではないか?」とのコメントや報道が相次出いる。
顔ファンのせい? ハイツ友の会の解散に衝撃
3月31日、女性お笑いコンビ・ハイツ友の会が解散を発表した。清水香奈芽は芸人を引退、西野はピン芸人として活動していくという。将来が有望視されていたコンビの突然の解散は、お笑いファンに衝撃を与えている。
2019年4月にコンビを結成し、独特な世界観のネタで人気を博していた実力派のハイツ友の会。M-1グランプリでは、2021年に準々決勝、2022年に準決勝、2023年に準々決勝と、女性コンビの中ではトップレベルの結果を残しており、昨年放送された『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)では決勝に進出。センスのあるネタが審査員たちから称賛された。
ファンも芸人たちも、「ハイツ友の会はいずれM-1の決勝に…!」と思っていた矢先の突然の解散。その理由を2人はそれぞれコメントで発表している。
2人のコメントは基本的に共通しており、活動する中でさまざまな辞めたい要因が積もってしまったこと、そしてこのまま続けていても、賞レースで優勝するのは難しいと考えていたことを解散の理由としてあげている。
西野は自身のXにて、〈様々なことが重なり昨年の春頃に芸人を辞めたい気持ちが閾値を超えました。それから気持ちの上がり下がりはありましたが一定閾値を超えた状態での上がり下がりでした〉〈賞レースの決勝まではいけても優勝できる気がせず、特にこの1年間本当に苦しかったです。さまざまな言葉をかけていただきますが、今の漫才やコントの形を変えると自分たちのやりたいネタではなくなります。
〈私たちを応援してくださる方は女性が多くいてくださったように思います。とても嬉しかったです。女性の皆さんありがとうございました。本当に“お笑い”が好きな男性もありがとうございました〉と意味深な感謝の言葉をつづっている。
これを受けてSNS上では、「“顔ファン”の男性に悩まされたのでは?」という指摘も多い。実際、女芸人には、ネタを見ずにルックスだけで応援するようなファンがつくことは多い。
さらにそういったファンは出待ちなどをした挙句、謎の上から目線でアドバイスやダメだしをしてくることもあるそうで、こういった被害をヒコロヒーが告白していたこともある。
いったい、ハイツ友の会は何に苦しみ、解散に至ったのか。女芸人の難しさについて『女芸人の壁』(文藝春秋)の著者、西澤千央さんに見解を聞いた。
「昔は楽屋でメイクするのが怖かった」女芸人の悩み
「『本当に“お笑い”が好きな男性もありがとうございました』という文章の真意は西野さんにしかわからないですが、『本当に“お笑い”が好きな男性』の対義語が“顔ファン”というのも少し違うのではないかと個人的には思います。芸人は言葉や表情や動き、体全体で表現するのが仕事なので、“顔が好き”というファンがいても当然だし、そこは否定されるものではないかと。
しかし、女性芸人を何人か取材して感じたのは、芸人界においては“女性”であるというだけで必要以上に“女性”を意識させられるということ。
Aマッソの加納さんが『昔は楽屋でメイクするのが怖かった』と話していたんですね。たしかハインリッヒの彩さんも『髪の毛を巻けるようになったのは最近』だとラジオで言ってました。メイクや巻き髪を女性的なアイコンとして捉えられてしまうことに必要以上にピリピリせねばならなかったのではないでしょうか。実際に一部の男性ファンに嫌気がさしていたのもあるのでしょうが、メディアも含めた『女性芸人の「女性」の部分ばかり見てくる(求めてくる、立たせてくる)』風潮全体のことを言ってるのかなぁと思います」(西澤氏、以下同)
また、今回ハイツ友の会が解散をしたことで、女性コンビの解散率の高さも指摘され始めている。アジアン、少年少女、はなしょー、根菜キャバレー、ねこ屋敷…そして、ハイツ友の会と同じく、今年の3月31日に尼神インターも解散を発表した。いずれも、テレビ仕事があったり、賞レースのファイナリスト経験であったりと、人気を博していた中での解散だ。
また、ピン芸人の中でも、ブルゾンちえみ、田上よしえが芸人を引退。ほかにも、活動場所をお笑い以外のフィールドに移した女芸人は多い。なぜ女芸人の解散・引退率は高いのだろうか。
Aマッソ加納が語る女芸人の難しさ
「『女芸人の壁』に掲載されている対談で、加納さんが『ワタナベエンターテインメントの芸歴10年以上の芸人が出るライブに女性がほとんどいない』と話していました。『売れなくても続けていればいつか…』みたいな幻想を持たない女性芸人が多いこと、直近でそういうモデルとなるような女性コンビがあまりいないことなどが理由にあるんじゃないかと考察されてましたね。
では、なぜ『続けていればいつか…』とならないのか。
西澤氏によると、女性が芸人という職業に就いた場合、「なんで“女”がこんなネタしてるの?」「“女”が芸人やってるの?」といったことをまず解説する必要があり、わかりやすいキャラ(デブ、ブス、非モテ、ババア、ギャル、やさぐれetc)が求められるという。
「ハイツ友の会はそのキャラづけを拒否して自分たちがおもしろいと思うネタだけでやっていきたかったのだと思いますが、それを貫くのは相当キツかったのではないかと。またキャラでブレイクしても、そのキャラに自分自身が苦しめられて辞めていく女性芸人も少なくないです。“売れる”という観点でいえば、男性コンビと比べて女性コンビのほうが可能性は高いかもしれませんが、それは“ガラスの天井”に近いものなのかなと思います」
最近では、男性優位な芸人界においても女性が増えてきており、女芸人だけが出場できる賞レース『女芸人No.1決定戦 THE W』なども設立されて、活躍の場を設けようと業界も動きはじめている。
「賞レースが芸人の一生を極端に左右してしまう」
今後、女芸人がさらなる活躍をするために、そして、ハイツ友の会のような悲しい解散劇が起こらないように、我々のするべきことはなんなのだろうか。
「厄介なことするファンって、自分が厄介なファンだとは微塵も思っていないので、ハイツ解散でこんなに議論が起こっても、そこにはまったく届いてないでしょうね。となるともう、わかってる人たちがちゃんとしていくしかないのかと…。私は西野さんのステイトメントで『今の形のままでは優勝できない』という一文もショックでした。
賞レースが芸人の一生を極端に左右してしまうことが、芸人界にとって果たしていいことなのだろうかと思いますし、そうでなくても“情報量の多い”女芸人が、フラットにおもしろさを審査してもらえるのだろうか。そういう構造の歪さも、ハイツ解散の一つの要因だと思いました。
人々の意識、芸人界の構造が変わっていくのは10年、20年スパンかもしれないが、それでも彼女らが今戦っていることが、この先の明るい未来に繋がっていると信じたい。
取材・文/集英社オンライン編集部