〈純金茶わん・窃盗〉「中学の頃は不登校」「大学に行きたくても金がない」逮捕された男の父親が独白60分。彼女も友達もナシ、親子二人“最底辺の生活”「金が貯まったら1度でいいから新幹線に乗りたいって…」
〈純金茶わん・窃盗〉「中学の頃は不登校」「大学に行きたくても金がない」逮捕された男の父親が独白60分。彼女も友達もナシ、親子二人“最底辺の生活”「金が貯まったら1度でいいから新幹線に乗りたいって…」

日本橋高島屋(東京都中央区)で開催中の「大黄金展」から約1000万円の純金茶わんを盗み出したとして警視庁に窃盗容疑で逮捕された堀江大容疑者(32)=江東区=。高卒後に北海道旭川市から上京したものの、病弱で定職に就けず、父親とともに生活保護でギリギリの暮らしを営んでいた青年は、どんな人生をたどってきたのか。

父親の激白を続ける。

「小学校の頃は野球部、高校では定時制に通った」

公園のベンチに腰掛けた堀江容疑者の父親は肩を落としこう話した。

「優しい子でクソまじめで、仕事があるときは『遅れないように』と始業より何時間も前に家を出ていた。本が好きで、英語も独学で10年ぐらいやってたからできると思うんだけど」

父がそう語る堀江容疑者は、心身ともにもろいところがあり、疲労がたまりやすく、すぐに体のあちこちが痛くなっては仕事を休み、長続きしなかったようだ。母親も病弱だったため、堀江容疑者が幼いころから父親が家事も仕事も両方こなしてきたが、脳梗塞の発作を2回経験し、今も薬が手放せないという。

「息子は体に痛みがあって、ひどい時はトイレにも這って行くくらいで、どうにもならないんですよ。救急車も3回くらい呼んでるんですけど、病院に行って1時間くらいしたら何ともなくて歩いて帰ってきたりすることもあるし。



原因も含めてよくわからないんです。普段、歩いていても突然、脂汗をかいてきて、だるくてすぐに座り込む。『どうしたね』と聞くと『ちょっと座る』とかね。(ここまでひどくなったのは)所沢に住んでガードマンの仕事をしてたんだけど、一昨年にそこを辞めてからだね」
 

堀江容疑者は4月に入って体調不良が続き、純金茶わんを盗んだ11日は久しぶりに外出できるほど体力が回復したのだそうだ。そんな堀江容疑者は、どんな少年時代を過ごしたのだろう。

「小学校のころは野球をやってたけど、体もちっちゃいし活発じゃないというか、鈍臭いとこがあるから、レギュラーにはなれなかった。

中学になると、理由がわからないんだけど、学校に行かなくなった。『なんで学校行きたくないんだ?』って聞いても、ただ「行きたくない」って。1年生の途中からで、その後ずっと行かなかった。

で、『これじゃだめだ』と思って、不登校の子どもを集めるところに連れて行ってちょっと通わせて。それでも高校は、定時制に入れたんですけど、本人もそこから休みなく4年間無事通ってくれて。この間は働かずに高校に行ってただけだけど、友達も4~5人できて何とか4年間すごしたみたいです」

「皆さんの税金で生かされていた…」 

不登校だった中学時代から打って変わって充実した高校時代を過ごし、大学進学を希望した堀江容疑者だったが…。

「勉強、できるんです。

できるから今度は『大学行きたい』って言い出したんだけど、こっちが『ええ?冗談じゃないわ。高校だけでもお前、(カネで)大変な目に遭ったのに』って。まあ仕方ないです。母親のアレ(治療費)もあるし。

で、息子は東京に出た。仕事が見つからないというより、ちっちゃいころからいろいろあったし、向こうは寒いしね」

しかし、#1でも報じたように、体調不良から定職に就くことは難しかったようだ。



「そうですね。体調悪いもんで。(1日に)1、2時間ならいいかもしれんけど。だから、仕事の紹介状を書いてもらうにしても、1、2時間でまず慣らして、次に3時間,4時間と延ばすという段取りにせないかんね、という話まできていたんです。ようやく。

それまではもう、きょう調子いいかと思うと次の日にはがくんときたり。
波がきつくて。ようやく最近波が少なくなってきたら…そういう(物を盗むような)子でなかったんだけれど、どうしたのかな…魔が差したのかな、何だろな…。その矢先なんですよね」

父親は4年前に上京して息子と2人暮らしを始めた。父の年金と、息子の生活保護だけで贖う最底辺の生活だ。

「今の住まいの間取りは2LDKで家賃は6万8千円。行政から出る住宅手当は6万ちょっとだから。

食事も外食なんてもってのほかで、一日2食のことが多い。朝、みそ汁つくって、ご飯にふりかけして食べて。みなさんの税金で生かされてるんだから、それで十分。息子は友達もいなし、彼女もいない。顔は悪くないと思いますけど結婚には金がかかるしね、まずは仕事しないと…」

「新幹線に一回も乗ったことがないんだ」

堀江容疑者は本は図書館で借りて読み、酒もタバコも一切やらない。黄金展についても父は「デパートに行ったらたまたまやってただけじゃないかな」と語る。美術館や博物館に出かけるようなこともなかったという。

「ないない。お城とか、(私が)新幹線くらいには乗ってみたいな、と言っていたんですけど。北海道からこっちに来た時は飛行機で来たもんで。『新幹線に一回も乗ったことがないんだ』と私が言ったら、息子が『こんど貯金でもたまれば一回、小田原でも近くでもいいから一回乗ればわかるから』とね」

さくらと一郎のヒット曲「昭和枯れすゝき」を想起させる父との倹しい生活とは対極にある「大黄金展」の会場で、息子の脳内はバグってしまったのだろうか。

会期を翌日までに控えた14日の日曜日、同展の会場には中年の夫婦や年配の男性客などが訪れ、スーツ姿の販売員が「ご案内いたします」とひとりひとりに声をかけ、催事場エリアへ誘導していた。

売り場の入口付近には大きな金色の龍の置物が飾られており、ひときわ来店客の目を引く。金製品を収めたショーケースがずらりと並び、警備も兼ねてかスーツ姿の男女のスタッフも5人以上が立ち、緊張感を漂わせていた。

堀江容疑者は警察の調べに対し「盗んだ茶わんでお茶を飲もうとおもったが、換金した」とも話しているという。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班