「元〇〇」という過去の経歴を売りにするセクシー女優が増えているなか、ひときわ異色を放つ女優がいる。それが、吉川はすみんさん(27)だ。
コロナ禍の激務にパワハラ…自衛隊を辞めたワケ
吉川はすみんさんは企画単体で活動するAV女優。高校卒業後に防衛医科大学校看護学科に入学後、2016から2019年まで大学に通い、卒業後は3等陸尉として自衛隊福岡病院に勤務という経歴を持っている。そんな彼女が自衛隊を志したのは、家族に医療関係者が多かったのがきっかけだった。
「防衛医科大看護学科には首席で合格しました。当時は、自衛隊で一生看護師を続けるくらいのやる気をもっていたので、辞めるつもりは一切ありませんでした。学校生活では勉強はそこそこに、水泳や演劇、ダンスなどありとあらゆる部活動に手を出しまくっていました」
4年後、無事に大学校を卒業した吉川さんは自衛隊に入隊。自衛隊福岡病院に配属されることとなった。名古屋出身の吉川さんにとって、福岡はそれまで知る文化とは違う異国の地。慣れない環境と新しい職場での仕事についていくことができず、一時は不眠症になりかけたという。
そんな吉川さんのメンタルに追い打ちをかけたのが、2020年より猛威を振るったコロナ禍だった。
「看護師の仕事をしながら、自衛隊の訓練も同時に行なわないといけなかったので、体力もメンタルも常にぎりぎりの状態でした。
過度なストレスによってメンタル不調を起こしてしまった吉川さん。毎日眠れなくなったり、休みの日は涙が止まらなくなったりといった症状が出てしまい、うつ病一歩手前の適応障害に陥ってしまったそうだ。その後、吉川さんは夜勤のない病棟に異動となったのだが、次の職場も問題だらけの環境だった。
「異動先は発熱外来だったのですが、そこはパワハラチックな環境で、まともに働ける場所ではありませんでした。自分の成長のために厳しく叱られるのであれば乗り越えられたのですが、ただストレスの捌け口にされているような感じで怒られるばかりでした。そして、若者への仕事の押し付けが横行していて、組織のためにも患者のためにもならない行為が続いている職場でした」
償還金400万円を稼ぐため、こっそり吉原で勤務
パワハラと仕事の押し付けが横行する職場環境についていけず「ここでは成長できないな」と感じた吉川さんは、自衛隊の退職を決意した。しかし、ここで問題が生じる。防衛医科大学校には「償還金」という、卒業後6年以内に自衛隊を退職した場合には学費の返済義務が発生するという制度が存在する。
自衛隊に3年しか勤務していなかった吉川さんは、退職の際に400万円の学費返済を求められる事態になってしまった。
「償還金は退職の翌月に一括返済する義務があり、延滞すると14.5%の年利がかかります。ですので、退職後に少しずつ返済することもできなくて。もちろん、当時は400万円なんて大金は持っていなかったので、なんとか稼いで捻出しないといけませんでした。
400万円の支払い義務を抱えた吉川さんは、2020年8月に東京都世田谷区の陸上自衛隊衛生学校の訓練生になったと同時に、東京随一の風俗街・吉原のソープランドに勤務を開始。スマートフォンを2台持ちして職場や知り合いに知られないような工夫を凝らし、風俗勤務を続けたそうだ。
退職を決意してから1年数カ月、自衛隊と風俗の両方の仕事をこなしながら順調にお金を貯め、無事に400万円の償還金を返済。自衛隊を退職することができたという。
「償還金を払い終えたあとも風俗を続けながら鼻を整形したり、ピラティスに通ったりしていました。ある日、渋谷でとある有名なスカウトの人と出会い、『モデルの仕事に興味ない?』と声をかけられて、ついていきました。
実際はAV女優のスカウトだったんですけどね(笑)。ですが、そこは蒼井そらさんをはじめとした有名な女優さんの事務所だったため、そこから AVデビューをすることにしました」
そうして、無事にAVデビューを果たした吉川さん。現在は企画単体女優として、元自衛官だったという経歴を売りに活動を続けている。
AV新法に異議申し立て。政治家も目指す吉川さん
吉川さんは現在AV女優として活躍するかたわら、ハラスメント撲滅などを掲げて政治家を目指して活動中だ。
「私の1年目のギャラは、たったの40万円でした。AV新法のおかげで制作会社が潰れたり、制作本数を少なくしたりしたことで、新人女優の出演機会が少なくなっています。私もこのあおりを受け、仕事が入らない状態が続いています。このままでは私だけでなく、AV業界全体がなくなってしまう恐れがあります。だからこそ、現場の私たち女優が声を上げる必要があるのです」
AV新法では「契約してから1か月は撮影してはいけない」「すべての撮影の終了から4カ月は公表をしてはいけない」「出演者は契約に問題がない出演作であっても、映像の公開から1年間は(法律施行後2年は2年間)無条件で契約解除ができる」などの規定が設けられている。しかし、法律と制作現場の実態と合っていないことが問題となっており、業界存続の危機となっている。
「AV新法においては、現場の意見や実態に即した形での改正が必要だと主張しています。女優を守るための法律は確かに必要ですが、国がすべてをがんじがらめにするのでは、ただただ業界が廃れてしまうだけになります。
出演者が互いに話し合って、被害を最小限にする形で存続できるようにするなどして、『業界のトラブルは業界内で解決する』仕組みを整えることが重要だと、私は考えています」
AV女優として、そして政治家予備軍としてキャリアを築いている真っ最中の吉川さん。AV新法に異議を唱えていくとともに、今後は区議会議員への立候補を目指しての政治活動を続けて行く予定だ。
取材・文・写真/越前与