
本格的な夏到来で気になり始める汗のにおい。放っておくと、自分が気づかないうちに他人に不快な思いをさせてしまっているかもしれない。
コロナ禍が明けて、においに関する悩みは増加中
ーーまず、日本ではどれくらいの人が自分・他人のにおいに悩みを抱えているのでしょうか?
昨年の夏は平均気温が統計開始以来最高を記録するといった猛暑となりましたが、弊社でも2023年9月に20~50歳代の男女を対象に、汗とにおいに関する実態調査(※1)を行いました。
結果として、コロナ禍が明けてマスクを外した対面のコミュニケーションが増えたこともあり、約6割の人が「自分や他人のにおいが気になる」ということがわかりました。そのほかにも約5割の人が「自分の汗は臭いと思う」と回答するなど、昨今の酷暑やマスクのない環境によって、多くの人が自分や他人のにおいについて気になっていることが判明しています。
またにおいの気になる体の部位に関しては、「頭」や「首周り」「足の裏」などさまざまな項目がある中で、圧倒的に「ワキの下」のにおいに悩んでいる人が多いこともわかっています。
ーーたしかに昨今の厳しい暑さの中、汗のにおいが気になる人は増えている印象です。そもそも汗をかくことによって体臭が発生するメカニズムとは、どういったものなのでしょうか?
誤解している方も多いのですが、まず汗自体が最初からにおいを発しているわけではないんですよ。なぜにおいが出てしまうのかというと、簡潔に言えば、皮膚の上には常在細菌がいて、その細菌が分泌された汗と皮脂を食べて代謝し、排出されたものが体臭になるんです。
それ以外にも、大気中の酸素や過酸化脂質により酸化することでにおい物質が発生することもあります。
ーー「30代になって体臭が変わった」という男性の声をよく耳にします。これはどういうことでしょうか?
体臭は、年代によっても変化します。たとえば男性の場合、10~20代半ばには「汗臭(ワキ臭)」、30~50代半ばには「ミドル脂臭」、50代半ばからは「加齢臭」といったように、年代によってにおいの種類や強さのピークが変わるんです。
また、体の部位によって「においの材料」が異なるため、たとえば頭皮は油のようなにおいだったり、ワキはお酢やスパイスのようなにおいだったりと、それぞれ発生するにおいは変わってきます。
においの材料とは、2種類の汗(エクリン汗・アポクリン汗)と2種類の皮脂(皮脂腺から出る皮脂・角質層の中にある脂質)のことで、これらの組み合わせによって、発生するにおい物質が変化するのです。
30~50代男性は「ミドル脂臭」に注意
ーー汗臭とは、どういったものでしょうか?
汗臭は、主に脇の下を中心に、新陳代謝が活発な10代~20代半ばに強く発生するにおいです。ワキのにおいには、お酢のような「A型」やカレースパイスのような香りがする「C型」、ミルクのような香りの「M型」、蒸した肉のような「E型」など7種類のタイプがあります。
さらに人によって7種類の配分が異なります。A型だけという人はおらず、「A型が◯%、C型が◯%」といったように割合によってにおいの傾向が決まります。
ーーA型やC型といったにおいの比率は、食生活やリズムなどによって変わるものなのでしょうか?
もちろん体調や歳を重ねることで若干の変化はあるかもしれませんが、根本的に大きくは変わりません。ちなみに、日本人男性の汗臭の約8割が「A型」「C型」「M型」のいずれかの比率が高い、ということが研究で判明しています。
ーーでは、ミドル脂臭とはどういったものなのでしょうか?
ミドル脂臭は女性には発生しない、30~50代半ばの男性特有のにおいです。汗に含まれる乳酸を常在細菌が代謝し発生する「ジアセチル」を原因物質としており、それが皮脂臭(中鎖脂肪酸)と混ざることで、使い古した油のような不快なにおいが発生します。
ミドル脂臭は主に頭頂部・後頭部・うなじを中心に発生しますが、男性は30~40代になってくると、若いころよりも頭皮の脂が粘着質になってきて、シャンプーでも落としにくくなるんです。
そこにミドル脂臭が蓄積されてしまうと、洗ってもにおいが落ちづらくなってしまう。よく耳にする「お父さんの枕が臭う」という問題も、実はこれが原因です。
ーー加齢臭とは異なるのですね。
30代半ば以降の体臭は、すべて加齢臭だと思われている方もいらっしゃるかと思います。しかし2013年に弊社の研究により、加齢臭とは違う「第3のにおい」であるミドル脂臭だということが判明しました。
加齢臭は、50代半ば以降から本格化するにおいで、ミドル脂臭とはまったく別のものになります。加齢臭は皮脂成分が酸化することで、胸や背中など体幹部を中心に発生し、枯草のような香りが特徴です。
大切なのは「汗をかく前」のケア
ーー夏場は体臭が強くなりがちになると思うのですが、これはどういった理由なのでしょうか?
前提として、季節によって体臭の強弱が変化することはありません。ただ先ほども申し上げたとおり、汗はにおいの原因物質のひとつです。
夏場は汗をかきやすく、特にワキは汗が溜まりやすく菌が繁殖しやすい状態になるので、冬場に比べて体臭が気になるという方は増えるのかなと思います。
ーー夏場は特に出勤途中で汗をかいてしまうなど、自分のにおいが気になるシーンが多くなりますよね。たとえば、「朝必ずシャワーを浴びる」などで対策できるものなのでしょうか?
もちろん朝にシャワーを浴びるなどは大切な要素ですが、今の時期は移動中にたくさん汗をかいてしまいますよね。
なので対策としては、まずは朝にシャワーを浴びて汗や皮脂、細菌を除去して、体をキレイな状態にしていただきます。ポイントとしては、においの素となる汗をしっかり止めるために、そのあと制汗剤を使うことです。
汗が出る前の体が清潔な状態で制汗剤を使うことで、成分が肌にしっかり密着し、汗の発生を抑えることができるので、たとえば会社に着いたタイミングでも普段よりも汗の量を減らせて、そのぶんにおいの対策にもなります。
ーー汗が出始めたタイミングで処理をしても遅い、ということですね。
汗は体が動いている最中ではなく、止まったときにワッと出てくるんです。なので、大事なのは「汗をかいたあと」ではなく「汗をかく前」にケアをすることです。制汗剤には基本的に汗を止める成分だけでなく、殺菌の成分も入っているので、そういった意味でもにおいのケアにつながります。
※1 期間:2023年9月 手法:インターネット調査 対象:20~50歳代の男女(マンダム調べ)
図/マンダム「汗とにおい総研」より
文・写真/毛内達大