
毎年9月の第3月曜日は、国民の祝日のひとつである「敬老の日」。今年は16日がこれにあたり、「国民の祝日に関する法律」では、その趣旨を「長年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う日」としている。
連日のように展開される“老害批判”
近年、若者と高齢者の世代間対立が、たびたび伝えられている。「シルバー民主主義」「暴走老人」など高齢者に批判的な言葉が多数生まれてきたが、特に盛んに使われているのが「老害」というワードだ。
小学館が発行する国語辞典「大辞泉」(デジタル版)によると、老害とは「企業や政党などで、中心人物が高齢化しても実権を握りつづけ、若返りが行われていない状態」と説明されている。しかし、今では単に高齢者を指すスラングとしても用いられており、メディアでは連日のように「老害」なる見出しが躍っている。
実際、8月下旬からのわずか3週間ほどで、「老害」という言葉を含んだ記事としては、以下のようなものが配信されている(あくまでごく一部です)。
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●爆笑問題・太田光、関口宏に〝直球質問〟「老害と言われて辞めたんですか?」(サンスポ 9月12日)
●「チッ!避けなさいよ…だと!」老害自転車ドライバーが右車線を堂々直進!(FORZA STYLE 9月9日)
●軽い気持ちで言ったらすぐ「老害認定」…部下、後輩に一瞬で嫌われる「ヤバいひと言」(現代ビジネス 9月6日)
●"老害"になるかどうかは50代が分かれ道…「仕事がデキる人」から「キレる高齢者」に変わってしまう人の共通点(プレジデントオンライン 8月25日)
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一方、総務省統計局で作成している2024年(令和6年)8月版の人口推計によると、総人口に占める65歳~85歳以上の割合は「29.2%」。WHO(世界保健機関)は高齢者を「65歳以上」と定義しているため、日本はおよそ3人に1人が高齢者という“高齢者大国”なのだ。
だが、まとめて老害扱いされては、高齢者もたまったものではないだろう。こうした現象を当事者世代はどのように感じているのか。
“おばあちゃんの原宿”と呼ばれるなど、高齢者が多く集う街の東京・巣鴨で60人以上に声をかけホンネを聞いてみた。
「老害とかいってひとくくりに……」
「老害とか言うけどさ、人ってのは長く生きるといろんな経験をするわけよ。そういうのを若者にも言いたいじゃない? 若い人もさ、今は学校も厳しくしないし、親も大事に育てるから、弱い部分はあると思う。
「時代が変わったからね。もう昭和は終わったから仕方ないのよ。でも、今は男らしい男もいないし、飲みに行こうって言っても来ないじゃない? もうちょっと上に歩み寄ってもいいと思うけどね」(72歳男性・自営業)
「時代の変化だからしょうがないけど、若者への扱いにうるさくなったよね。たとえば、上司がポンと肩叩いたらセクハラ、男の子にも彼女がいるのか聞いたらセクハラ、とかさ。ジェンダー平等とかもあると思うんだけど、でも、私たちの世代は『女性にはおごるもの』って風潮があって、結構それで得をしてきた部分もあるのよ(笑)。今の子は割り勘が多いんだよね。まぁ、男の子にとっては嬉しいんじゃない?」(70歳女性・主婦)
やはり、批判される当事者世代としては、老害と扱われることに対して思うところがあるようだ。また、どの時代にも下の世代にうるさい高齢者は存在しており、現代の高齢者だけ「老害」と批判するのはおかしい、とする声も聞かれた。
「今も昔も同じだよね。私たちも明治生まれの人から『今の若者は~』って言われてね。いつの時代も、上の世代は若い人にいろいろ言うの。
「結局いつの時代も、そうやって言う人はいるからね。昔はネットがなかっただけで、あったら昔だって老害批判されていたと思う。僕の上は団塊の世代なんだけど、その人たちも、僕たちにはとやかく言ってきたから」(73歳男性・自営業)
実際に遭遇した老害エピソードも
若者に“怒り心頭”のお年寄りの皆さま。だが一方で、若い世代からの老害批判を「仕方ない」と受け入れる高齢者も多かった。こうした人々は、むしろ「自分たちの世代が異常だった」とも感じている人も少なくないようだ。
「老害って言われるのも仕方ないわよ。昔は働き詰めが美徳だったけど今は違う、若い人だってそんなに出しゃばっているわけじゃない。言い過ぎたら言われたほうもいい気はしないから、上の世代も反省したほうがいいんじゃない(笑)。そういう“頑固オヤジ”みたいなのが減っていくのはいいと思う」(76歳女性・主婦)
「昔は先生に叩かれたり、休日返上で働かされたりしたけど、それがいい時代だったとは全然思わない。今とは価値観が全然違うし。逆に、こっちが若い人から教わることのほうが多いんじゃないかな。今は情報化社会だし、みんな賢いと思いますよ」(73歳女性・主婦)
こちらの女性は母娘で巣鴨を訪れていたのだが、40代の娘は、実際に「老害」と遭遇したエピソードも語ってくれた。
「妊娠しているころ、バスの優先席に座ったんだけど、そしたらお婆さんが『何で若いのが座ってんのよ!』『そこはお年寄りの席でしょ!』って怒鳴ってきたことがあって、そのときは『老害だ!』って思いました。
あと、今の若い子のほうが圧倒的にいい子ですよ。若い人にいろいろ言ってくるおじさんは、『自分たちが学生のころは未成年でタバコ吸っていた』とか口にしますけど、私の子どもが通っている学校では、タバコで怒られる子とかいません」(45歳女性・主婦)
さらに調査を続けると、直接遭遇したわけではないが、「老害だと思う人」について意見が飛び出す場面も……。
「私も高齢者だから老害なんて言われたら傷つくけど、二階俊博は老害だと思う(笑)。麻生(太郎)さんも85歳で“キングメーカー”とか言われているけど、もういい加減若手に譲るべきよ。ああいう人たちに対しては、『同世代でも頑張っている』とか全然思わない」(83歳女性・主婦)
「私はサークルに入っているんだけど、周りの高齢者はみんないい人。でも、町内会の人とかは結構嫌な人が多いかな。ちょっとしたことですぐ周りに噛みつくとか、そういう人は老害って言われても仕方ないかもね。
こういうのは、お孫さんがいるかいないかで分かれる気がする。やっぱりお孫さんがいると、子どもや孫の世代とも接するし、下の世代への物わかりもよくなって優しくなるから」(84歳女性・主婦)
老害批判への反発・理解とさまざまな意見が飛び出した今回の調査だが、68人中41人は「老害批判も仕方ない」といった理解を示す意見で、18人が「納得できない」といった反発する意見、9人が中立的な立場だった。
共通していたのは「時代が変わった」という認識だった。今後さらに時代が変わり、現代の若者が高齢者となったとき、世代間の認識はどのようになっているのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班