
骨がもろくなり、骨折しやすくなる「骨粗しょう症」。高齢女性に多い病気ですが実際は年齢や性別にかかわらず誰にでも起こる。
代表的な危険因子は4つ
骨粗しょう症は、誰もがなる可能性がある病気ですが、骨粗しょう症に「なりやすい」人はどのような人でしょうか。
代表的な危険因子は、「女性」「高齢」「骨密度が低い」「骨折したことがある」の4点があります。
まず「女性」について説明すると、日本骨代謝学会の調査によれば、40歳以上の骨粗しょう症有病率は腰椎で男性3.4%、女性19.2%。大腿骨で男性12.4%、女性26.5%。
腰椎か大腿骨のいずれかで骨粗しょう症と診断された人の数は日本全国で1280万人おり、その内訳は男性300万人、女性980万人。女性の患者さんが男性よりも3倍以上も多いことがわかっています。女性であるだけでも、男性より3倍以上、骨粗しょう症になりやすいと言えます。
「高齢」は、骨密度とは独立した危険因子で、たとえ同じ骨密度の人でも、年齢が高いほど骨折リスクは高まります。高齢者でなくても、40歳を過ぎたら要注意です。
「骨密度が低い」と骨粗しょう症になりやすいのは、言うまでもないでしょう。
たとえばTスコアといって、自分の骨密度の測定値がYAM(ヤム)(骨密度若年成人平均値)と比べてどの程度低いか、あるいは高いかを示した値があります。
骨密度測定の結果欄には、2つのパーセンテージが記載されていて、それが、「Tスコア」と、「Zスコア」の2つです。
「両親が大腿骨骨折」に要注意
検査を受けた人はご存じかもしれませんが、Tスコアとは、20~44歳までの健康女性の平均値(YAM値)を100として、その何%にあたるかを比べた数値。もう1つは同年代の平均値と比較したZスコアですが、重要なのは、Tスコアです。
骨粗しょう症と判定される基準は70%未満の場合で、70~79%なら骨量減少(骨減少症)、80%以上なら正常と診断されます。ちなみにYAM値は女性の平均値ですが、男性の診断にも用いられています。
また「骨折したことがある」人は、これまでに骨折したことがない人と比べて2倍、骨折リスクが高くなります。ちょっとした転倒や軽い衝撃でも骨折してしまうのは「脆弱性骨折」といい、骨粗しょう症のサインと言えます。
これら4大危険因子以外にも次のようなサインや生活習慣がある人は、骨粗しょう症のハイリスクグループです。
①痩せ過ぎている
一般的にはBMI(体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数)が低いほど、骨折リスクは高まります。
BMIの計算式
・BMI = 体重kg ÷ 身長mの2乗
・適正体重 = 身長mの2乗 × 22
日本肥満学会の判定基準ではBMI18.5未満が痩せ過ぎと判定されます。ただ、最近の報告から、BMIと骨折リスクの関係は複雑で、骨折する部位によって影響が異なることがわかっており、たとえば大腿骨近位部についてはBMIが低いほどリスクが高まりますが、上腕部の骨折はBMIが高い肥満のほうが高リスクになります。
②両親のいずれかが大腿骨近位部を骨折したことがある
両親のいずれかに骨折歴があると、骨粗しょう症性骨折のリスクは1.18倍、大腿骨近位部骨折のリスクは1.49倍もあります。また、両親の骨折歴を大腿骨近位部に限った場合には、骨粗しょう症性骨折のリスクは1.54倍、大腿骨近位部の骨折リスクは2.27倍に上昇します。
「毎晩深酒」も要注意
③若い頃よりも身長が低くなった
25歳の頃よりも2~4cm以上の身長低下がある場合には、椎体骨折(いつのまにか骨折)を起こしている可能性が高く、まだ起こしていない場合でも、椎体骨折のリスクは2.8倍もあります。日常的な症状としては、「洗濯物を高いところに干せない」「高い棚に手が届かない」といった不便を感じる方が多いようです。
④喫煙者である
喫煙は、女性ホルモン(エストロゲン)の働きを悪くしたり、腸管でのカルシウム吸収を抑制して、尿中への排泄を促進する作用があります。そのため、喫煙習慣のある人はない人に比べて骨折のリスクは1.26倍、大腿骨近位部の骨折リスクは1.84倍もあります。
⑤お酒の飲み過ぎ
過度の飲酒も喫煙同様、腸管でのカルシウム吸収を妨げ、尿中に排泄してしまい、骨粗しょう症のリスクを高めます。
1日3ドリンク=アルコール換算60g以上(アルコール度数が5%のビール中瓶1本500飲む場合、その5%にあたる25gにアルコール比重の0.8をかけて、「純アルコール量」は20gになります)の飲酒で、骨粗しょう症性骨折のリスクは1.38倍、大腿骨近位部骨折のリスクは1.68倍にアップします。
⑥45歳未満で閉経した
45歳未満で閉経を迎えることを「早期閉経」といいますが、女性の骨粗しょう症は特に閉経後に急増します。50代からは背骨の骨折、さらに70代以降では大腿骨近位部の骨折が多くなることが知られています。
理由は女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏。骨量は40歳以降、毎年0.3~0.5%が失われますが、閉経後はこれがさらに加速し、約5~7年間は約3~5%も失われていきます。
そのため同じ年齢でも、閉経している人は閉経していない人よりも骨粗しょう症のリスクが高くなってしまいます。
※参照:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015版、骨粗鬆症─ 筋骨格系疾患と結合組織疾患─MSDマニュアル プロフェッショナル版(msdmanuals.com)
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【目次より】
●1カ所の骨折が寝たきりと介護を招く
●「認知機能の衰え」も助長する骨粗しょう症
●男性は「骨質劣化型骨粗しょう症」で骨折しやすい
●骨粗しょう症であごの骨も劣化、歯も弱くなる
●骨粗しょう症から認知症まで一気に進行した80代女性
●最も多いのは、痛みを感じない「いつのまにか背骨骨折」
●「いつのまにか骨折」してはいけない! からだの中枢神経にかかわる「背骨」
●まずは「背骨」を守ることから始めよう
●身長が「2cm」縮んだら要注意、「4cm」で赤信号
●骨の質を決める「善玉架橋(R)」と「悪玉架橋(R)」
●生活習慣病なら骨粗しょう症も疑うべし
●骨粗しょう症には3つのタイプがある
●日本人の98%もが「ビタミンD不足」だった!
●日本人は白人よりも〝背骨が弱い〟という事実
●足は「運動してこそ」骨の強度を保てるようにできている