
1月14日、「強制退園」というワードがX(旧Twitter)でトレンド入りを果たし、話題となった。このワードが注目を集めた背景には、東京ディズニーリゾートにおける入園時の独特な文化が関係しているという。
園内を走ると“強制退園”に? 東京ディズニーランドの注意喚起が話題に
ことの発端は、東京ディズニーランド開園前の列に並んでいた来園者が、注意喚起を行なうキャストの様子をXに投稿したことだった。
その投稿によれば、キャストは「走らないでね」と書かれたプラカードを掲げながら、「今日走った方は強制退園していただきます」とアナウンスを行ない、来園者に注意を促していたという。
こうした背景には、実は東京ディズニーリゾートでは、オープン時間と同時に入園し、走りながら目的地へ向かう来園者が昔から一定数存在していることがある。
彼らの目的は、「待ち時間が長い人気アトラクションを空いているうちに乗りたい」「朝イチでパレードの場所を確保したい」「売り切れ必至の限定グッズを手に入れたい」など、さまざまだ。
この行為は「開園ダッシュ」と呼ばれ、多くの良識ある来園者からも問題視されてきた。ディズニーのみならず、テーマパーク内を走る行為は、どの時代においても基本的に「バッドマナー」だ。
実際、SNS上でも以下のような批判の声が多く寄せられていた。
《昔、後ろからダッシュしてきた人に体当たりされ、そのままゴミ箱にぶつかって、家から持ってきた新品のポップコーンバケットが真っ二つに割れたことがあります》
《開園ダッシュ問題は昔からずっと言われている悲しい事案。キャストさんが一生懸命に歩くよう注意しても無視される。普段どんな教育を受けているのかとイライラしてしまいますね》
《ずっと問題視されているのに消えない。むしろ当たり前の光景になりすぎて、誰も指摘しなくなった気がします》
さらに東京ディズニーリゾートの公式サイトでも、「お断りしている行為」として「他のゲストのご迷惑となる行為やパークおよびその関連施設の営業または運営の妨げになる行為、ならびにこれらのおそれのある行為」と明記されており、「具体的な例」として「パーク内で走る等の危険行為」が挙げられている。
「開園後は競歩大会みたい」実際の様子を東京ディズニーランドで確かめてみた
こうした行為について、東京ディズニーリゾートに頻繁に通うファンに話を聞いたところ、「はたから見ると滑稽」だと語ってくれた。
「園内で走るのは禁止なんですが、みんな目的の場所に早く着きたいので、競歩大会みたいになるんですよ(笑)。彼らとしては必死なんでしょうけど、はたから見ると、おかしくて笑っちゃいますね。
特にここ数年は、限定グッズの販売初日になると、多くの“転売ヤー”が押し寄せ、園内を我先にと猛ダッシュする光景が話題になっています。園内を競走している様子は、“運動会”と揶揄されていますよ」(30代男性・ディズニーファン歴12年)
しかし、「走る行為の禁止」というルールが以前から存在しているのであれば、東京ディズニーリゾート側が改めて周知させる必要はないようにも思える。それにもかかわらず、このタイミングで強制退園を含む厳しい措置に踏み切ったのは、いったいなぜなのだろうか。
あくまで仮説だが、大きな理由として考えられるのは、SNSで話題になった14日が、特に混雑が予想される日だったことである。
同日、東京ディズニーランドでは、翌15日から始まる新イベント「ディズニー・パルパルーザ“ヴァネロペのスウィーツ・ポップ・ワールド”」のパレード先行公開が行なわれ、いち早く新しいパレードを目に焼きつけたいファンが殺到することが予想されていた。
こうした背景から、パーク側は強い表現を用いてでも混乱を未然に防ぎたかった、と考えられる。
先行公開の段階でこのような状況ならば、イベント初日にはさらに多くの人出や混乱が発生するのではないか。そう予測した取材班は、1月15日、新イベント初日の開園の様子を調査するため、東京ディズニーランドへと向かった。
訪れたのは朝8時過ぎだったが、ゲート前はすでに多くの人であふれていた。
9時の開園を待つ一般客と、8時45分から入園可能な「ハッピーエントリー」を利用するディズニーホテル宿泊客が、それぞれ列を作っている。
一般客の列では、前方でレジャーシートや折りたたみ椅子を用意して開園を待つ人々の姿も確認できた。話を聞いてみると、なかには深夜から待機していた者もいたという。
なお、公式サイトでは「パーク入園時のお願い」として「入園をお待ちいただく際、レジャーシートやお荷物等による場所取りはご遠慮ください」と明記されている。
アプリ予約がほぼ必須なのに、“回線混雑”で苦戦することも
そうこうしているうちに、「ハッピーエントリー」の入園時刻である8時45分を迎え、ホテル宿泊客の入園が始まった。
新イベント初日とあって、一目散に目的地へ駆け出す混乱が起こるかと思われたが、予想に反して、落ち着いた様子だった。
続いて9時の一般客の入園でも特段の騒ぎは起きず、一部で速歩きが確認できる程度にとどまった。
園内のスピーカーからは「すべてのお客様にお楽しみいただけますよう、パーク内は走らずお進みください」といったアナウンスも流れており、来園者はこれをきちんと守っている様子。
強制退園も辞さない東京ディズニーリゾート側の強い態度、そしてこれを周知させた前日のSNSトレンド入りは、“抑止力”として十分に機能したようだ。
入園の様子を確認した取材班は、その後、入園ゲートに続く保安検査場の外で、パーク内から出てくる来園者を待ち、話を聞いた。
なぜ彼らは開園間もないタイミングで、一時退場するのだろうか。
「売り切れが予想されていた欲しいグッズがあったので、早めに入園してアプリ経由でスタンバイパス(入店予約)を取りました。
現在、東京ディズニーリゾートでは「スタンバイパス」というシステムが導入されており、人気施設を利用するには、入園後に公式アプリから予約を取ることがほぼ必須となっている。
だが、イベント初日となると開園直後から争奪戦がすさまじく、さまざまな苦難を強いられるそうだ。
「入園したら、ほとんどの人がまずスマホを操作して、目当てのスタンバイパスを取るためにアプリを開きます。
ただでさえ競争が激しいのに、人が密集しているせいで回線が重くなり、本当に“争奪戦”という感じです。チケットサイトにアクセスが殺到する人気アイドルのコンサートみたいですよ」(同前)
実際にアプリを操作してみたところ、たしかに動作はもっさりとしている印象。画面の切り替えにも時間がかかり、ミッキーのマークだけがしばらく表示されるなど、かなりストレスを感じた。
このあたりは通信会社にもよるのかもしれないが、予約のために局地的にアクセスが集中し、通信速度低下でさらなる争奪戦を招く、といった事態が起こってしまっているようだ。
この日、東京ディズニーシーでも新イベントの初日を迎え、多数の新グッズが販売開始されていた。一部のグッズはオンライン限定での販売となり、“転売対策”として注目を集めていたことも話題となった。
後編では、同日の東京ディズニーシー側の様子について詳しく取り上げる。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班