
新潟県三島郡の「出雲崎レトロミュージアム」。多くの来館者でにぎわったこのミュージアムには、昭和の懐かしいおもちゃが数千点以上展示され、大人から子どもまで幅広い層に親しまれてきた。
「今の子どもたちに昭和のおもちゃを体験してもらいたい」という思いで開館
新潟県三島郡出雲崎町の「出雲崎レトロミュージアム」。昭和のレトロなおもちゃを数千点以上展示する同ミュージアムは、2023年12月に開館した。
それ以来、多くの来館者でにぎわったが、わずか1年で閉館することとなった。一部の来館者によるマナー違反行為があったという。詳しい経緯をミュージアム館長の中野賢一さんに聞いた。
――「出雲崎レトロミュージアム」はどういう経緯で開館したのでしょうか。
中野賢一館長(以下同) もともとは岐阜県高山市で「飛騨高山レトロミュージアム」(2018年11月開館)を経営していました。私自身が集めた昭和の懐かしい品々を展示した博物館で、年間10万人のお客様が来館しました。
そうこうしているところに私が国の指定難病を患い、医療施設や治療のことも考えて、妻の出身地である新潟県に移住しました。次第に体調もよくなり、おもちゃをダンボールにしまっていても仕方ないと考え、2023年に出雲崎に開館しました。
新潟には屋内で遊べる施設がほとんどなかったので、せっかくだから、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんが子どもの頃に遊んでいたおもちゃを、今の子どもたちに実際に体験してもらえたらと考えました。
――展示されているおもちゃは、ご自身が趣味で集めていたのですか?
私が30年以上かけて集めたものです。全国の昭和レトロをテーマとした博物館の館長とは交流があって、たとえばあるおもちゃ屋さんの店主が高齢でやめられるといった話を聞くと、お店に行って中にあるおもちゃをまるごと一括で購入させてもらったりと、そういう形で集めてきました。
高山の施設にあったものは置いてきて、自宅とか個人の倉庫に置いてあったものだけをトラックで持ってきました。
人によっては、おそらくミュージアムの建物内にあるだけでも8000万円相当くらいになるのでは、と言う方もいます。高価なものだと、ブリキのおもちゃで400万円ほどするものあります。
親から「子どもが触れるような状態にしておくのが悪い」と言われ…
――開館当初はどんな客層を想定していたのでしょうか。
飛騨高山の時と同じで、20代後半から40代のファミリー層がターゲットでした。家族で来てもらって、1970年代~80年代のおもちゃでお父さんお母さんと一緒に遊んで楽しんでほしいと。
テレビゲームで遊ぶ今の子どもたちにとって、初めて見るアナログなおもちゃは新鮮に映るようで、夢中になって遊んでいました。
ほかにも、ソフビやブリキのおもちゃなどは全国にコレクターがいるので、夏休みなんかはそういった愛好家の方たちが全国から訪れてくれてました。
――ただ、一部マナーの悪いお客さんがいたと……。
私が閉館を決めたきっかけとなったのは、親子連れのお客さんで、おもちゃの扱いがひどい方がいて。私も注意しながら見ていたのですが、途中でお子さんがかんしゃくを起こし、おもちゃを手で全部落としてしまったんです。
私が注意をしたら、親御さんに「子どもが触れるような状態にしておくのが悪い」と言われ、最後には退館されてしまった。子どもたちに楽しんでもらおうとやっているのに、と心が折れてしまいました。
他のお客さんに壊されたものだと、展示品の中には実際にシートに座り、ハンドルを握って運転するようなおもちゃがあるのですが、レバーを壊してしまったり、シートをはがしてしまったり。そういうこともありました。
「被害額は数百万円はいっているのではないか」
――親御さんは子どもに注意しないのでしょうか?
親御さんも懐かしさからおもちゃに夢中になってしまい、お子さんから目を離した隙に子どもたちは次々と場所を移動してしまうんです。「触ってはダメ」となっているものを触って壊したり、そういうことが横行してしまって…。
ミュージアムの入口にも「これを必ず読んでから入ってください」と注意書きを掲示しているのですが、それを子どもに向けて復唱しながら入る親もいれば、読まないで入ってしまう方もいました。
被害額は何万円、何十万円ではなく、数百万円はいっているのではないかと思います。
地元のお客さんが多く、また、新潟には昭和レトロをテーマとした施設がないので、お客さんも慣れていなかったのかな、と思います。
――開館からおよそ1年となる2月3日に閉館されるとのことですが、どんなお気持ちですか。
ミュージアムの公式SNSにもあげていますが、何度か来館してくれた女の子が私に手紙を書いてくれたんです。問題なく遊んでくれる子はたくさんいました。
――今後のリニューアルオープンのご予定はありますか。
私はおもちゃよりも昭和の博物館を得意分野にしているので、大人向けの施設に変える予定です。閉館したら少し休んで、コツコツ作っていこうかなと。春休みくらいにはなんとかしようかなと考えています。
30年以上かけて展示品を集めてきたという中野館長。普段見る機会が少ない貴重なものだからこそ、見る側がつい夢中になってしまうのは仕方のないことかもしれないが、だからといって、どんな行為でも許されるというわけではないだろう。
リニューアルオープン後は訪れる人が静かに体験できる施設になることを願うばかりだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班