
今年1月17日、大手菓子メーカー・明治が、チョコレート製品の値上げや内容量の削減を発表した。さらに同時期には、同社の人気商品「きのこの山」「たけのこの里」に“ある変化”があったことが、ネット上で大きな話題となった。
「きのこの山」「たけのこの里」に異変発生!? 明治に問い合わせると…
チョコレートの原料であるカカオは、2023年頃から価格が高騰している。(♯1)従来は1トンあたり2,000~3,000ドル程度だったところ、一時は12,000ドルを突破し、史上最高値を更新した。
「カカオショック」とも呼ばれるこの現象は製菓業界を直撃し、街のカフェや洋菓子店は値上げなどの対応を余儀なくされている。また個人経営の店舗に限らず、ロッテや明治といった大手菓子メーカーも、近年は値上げや内容量の削減を繰り返している状況だ。
なかでも明治は、昨年10月以降、「アポロ」や「チョコレート効果」などの製品を最大約3割値上げし、「きのこの山」「たけのこの里」などは内容量を削減。しかし、それでも原材料価格の上昇をカバーしきれなかったようで、今年1月17日に値上げと内容量の削減を再度発表した。
この発表から間もない1月下旬、ネット上では「きのこの山」「たけのこの里」の“規格”が変更されたことが話題となった。
チョコレート製品は、カカオの含有率によって「チョコレート」「準チョコレート」と分類が異なる。含有率が減ると「準」表記になるわけである。両製品は従来「チョコレート菓子」だったが、「準チョコレート菓子」へと変更されていたのだ。
一体、いつから変更され、その理由は何なのだろうか。
同社に問い合わせたところ、「きのこの山」「たけのこの里」が準チョコレート菓子に変更されたのは「2024年9月生産分から」とのことだった。
しかし、一方でカカオの高騰は、同社にとって意外な好影響をもたらしているようだ。
専門店「あらゆるコストが、軒並み上がっている状況」
「原材料費が高騰しているため、カカオの配合が少なくても楽しめる新たなチョコレートブランドの開発を検討しております。
また、バレンタインにおける“手作り需要”も増加しています。百貨店などで販売される市販のチョコレートが高騰しているため、コストパフォーマンスよく大量に用意できる手作りチョコが人気を集めているようです。
弊社の調査によると、2023年に手作りチョコを贈った人は23.3%でしたが、2024年には33.4%と10ポイント以上増加しました。今年はさらに伸びると予想されており、手作りの材料としても使われる板チョコタイプの製品は、最需要期である1~2月に前年同期比5%増産、販売金額は20%増加しました」(明治・広報担当者)
ただし、手作り需要の増加などによる思わぬ追い風はあるものの、やはり大手であっても、カカオショックへの対策は容易ではないようだ。
となれば、明治ほどの規模を持たないチョコレート専門店は、さらなる工夫を強いられているはずだ。そう考えた取材班は、都内に3店舗を展開するチョコレート専門店にも話を聞いた。
訪れたのは、店頭販売に加え、全3店舗分の製造も手掛ける同店舗の旗艦店。ここも例に漏れず、カカオショックへの対応に苦慮していた。
「カカオの産地としては、コートジボワールが圧倒的に多いのですが、天候不順などの影響もあり、現在は価格が大幅に上昇しています。1キロ3~4000円だったものが、今では6000円とか、約2倍くらいの価格になっているんです。
あと、最近ヨーロッパでは環境保全の一環として『森林を伐採して作られたカカオ農園とは取引しない』という取り組みも広がっていて、より供給が不足しているんですよ」(都内チョコレート店店主、以下同)
さらに、高騰する原材料費に加え、人件費や光熱費の高騰なども重くのしかかっているという。
「チョコレートは輸入品のため、円安や燃料費高騰の影響を受けます。また、店舗の設備面では電気代の負担が特に大きいですね。チョコレートを扱っているため、各部屋の温度は季節を問わず低めに設定していますし、冷蔵庫や冷凍庫の台数も多いんですよ。
あと、最近ではコックコートのクリーニング代も値上げされてしまい……。あらゆるコストが、軒並み上がっている状況なんです」
専門店は“効率化”でコスト高を乗り切る
こうした影響を受け、同店は昨年、何度も製品の値上げを実施した。今後も値上げを視野に入れているのか尋ねたところ、機転の利いた判断により、いまだ持ちこたえている状況だという。
「昨年1年間で、卸業者の方で何度もチョコレートの値上げがあったんですが、いくつかの種類については、それほど価格が上がらないうちに、約1年分をまとめて仕入れておいたんです。そのおかげで、今は何とかしのげています。
でも、そろそろ在庫が尽きるため、高騰したチョコレートを仕入れざるを得なくなります。それに伴って、商品も値上げするかもしれません。
実は、本部では、自社でカカオ豆からチョコレートまで加工するか、あるいは工場を押さえて年間分を製造してもらう形にするかといった話が出ています。
同店は本部の方針により、大幅な値上げを極力避けている。その代わり、オペレーションの効率化によってコスト高を乗り越えているという。
「扱う商品数は減らしましたね。同じ商品を大量に製造したほうが、生産性が向上するので。具体的には、提供までに時間がかかるホットチョコレートは今季からやめました。
容器代がかさむプリンも、かなり前に販売を終了しました。プリンに関しては、コストを抑えるために安価なプラスチック容器を試しましたが、焼き上がりの仕上がりがあまりよくなくて……。
シュークリームも、以前は上下にカットしてクリームを挟むタイプでしたが、より効率化を図るため、底からクリームを注入する方法に変更しています」
同店は現在、製造機能を備えた新店舗の出店を関東地方で計画している。これが実現すれば、さらなる業務の効率化が進むと期待しているという。
「チョコレートをコーティングする機械があるのですが、中のチョコレートを入れ替える作業が大変で、結構手間がかかります。何リットルもあるうえ、味が混ざらないよう慎重に管理しなければいけなくて。
でも、製造機能を備えた店舗がもう1つできれば、一方ではビターチョコレート、もう一方ではスイートチョコレートというように分けて使用できるため、作業効率の向上が期待できます。
また、現在は焼き菓子にも力を入れていますが、フィナンシェやマドレーヌは、一度に作れる量が型の数に制限されます。その点、ボンボンショコラは1日に約1000粒を製造できるため、より効率的です」
「このままではチョコレートがセレブの食べ物になってしまうのではないか」という懸念について店主に尋ねると、「可能性としてはあり得るかもしれません」と同意していた。
日本では、終戦直後にチョコレートが一部の人の嗜好品として扱われていた時代があった。カカオショックの影響で、再びそのような時代が訪れることになるのだろうか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班