子連れ居酒屋はアリ?「見ていて不快」「ママだって息抜きしたい」たびたび起こる議論の背景にある飲食店の倒産事情と子育て概念の格差
子連れ居酒屋はアリ?「見ていて不快」「ママだって息抜きしたい」たびたび起こる議論の背景にある飲食店の倒産事情と子育て概念の格差

SNSでは度々、「子連れで居酒屋に来るな!」「子連れ居酒屋最高!」といった “子連れ居酒屋アリ・ナシ”論争が起こっている。居酒屋での過ごし方は個人の自由とも言えるが、実際に「子連れで居酒屋へ行くこと」についてみんなはどのように思っているのか。

専門家の意見を交えて、さまざまな声を聞いた。 

「居酒屋はメニューも多く、子どもも多少騒げてメリットが多い」 

未婚でシングルマザーの筆者(39歳)の場合は、我が子(1歳6か月)を連れて居酒屋へ行くこともしばしばある。妊娠する前にも、居酒屋でよく飲んでいたというのもあるが、純粋にお酒を嗜むのが好きだからということもある。

そんな筆者が“子どもを産んで母になった”という理由で、家以外での飲酒を禁じられたらと考えるとゾッとする。「たまには母親も外でお酒を飲みたい!」と思うのが素直な意見だ。

しかし、筆者も周りの“子連れ居酒屋賛成派”のママ友も、その意向をあまり他人にオープンにしていない。

なぜなら世論としては「子どもを居酒屋になんて連れて行くな!」という風潮が強いように感じているからだ。

都内で18歳と12歳の子どもを育てる野崎瞳さん(39歳・仮名)は「いや、普通に行くでしょ? 居酒屋くらい」と話す。

「親たちの息抜きという前提もあるけど、実際に居酒屋のメニューは種類も豊富だから、子どもが複数人いても、好き嫌いに対応できますしね」

もともとはママ友付き合い=ファミレスや、子どもOKのカフェが前提だったと話す野崎さん。たまたま仲良くなったママに「私、お酒好きなんだけど居酒屋でも一緒にどうかな?」と声をかけてもらったのが子連れ居酒屋デビューのきっかけなんだそう。

実際、ママ友家族と子連れで居酒屋に行ってみた野崎さんは、「控えめに言って最高です!」と笑顔で語る。今ではママ友家族と一緒に「月に3回以上」は、子連れで居酒屋を利用しているという。

個室やキッズスペース利用でファミレスより快適な空間に 

「もちろん値段が高いお店には行きませんし、静かな店も選びません。基本的に安くて賑やかでキッズスペースもある居酒屋を選びます。

最近は子連れでの居酒屋の利用に寛容なお店が増えていて、個室も多い印象です。お酒を飲まなくても、ファミレスの広めの席よりも、居酒屋の個室の座敷席のほうが居心地もいいなと思うこともあります。子ども同士で多少はしゃいで会話していても、迷惑をかけることもないので、メニューが多い以外にも子連れにはメリットが多いです」

と、子連れでの居酒屋利用賛成派の野崎さんはこうも語る。

「もちろん子どもを第一に考えているので、夜中まで飲むことはありませんし、深酒することもないです。

自宅では大変な揚げ物とか準備が大変な料理を肴に、仲良しのママ友と気楽に話しながら軽くお酒を嗜むことで心と身体の休息にもなっているんだと思います」

また「子連れ居酒大好きです」という井上美香さん(45歳・仮名)も賛成派の一人だ。 

「私が出産した10年前は居酒屋に子連れなんてあり得なかったけど、行きたかったなぁと思っていたので、ママの息抜きにもいいのではないでしょうか? 

ただ、子どもが大泣きしたり、暴れ回っても放っておく親はダメなんじゃないかなと思います。迷惑をかけないように親が対応しているなら楽しめる場所ではないかなと…」 

子連れ居酒屋反対派の意見

そんな野崎さんや井上さんとは真逆で「子連れで居酒屋なんてもってのほか!」と話すのは水木里奈さん(39歳・仮名)だ。

「言語道断です。いかなる理由があっても子どもを居酒屋には連れて行きません」

そもそも水木さんは「子どもの前で飲酒したことがないです」と、キッパリ。

「親が子どもの前でお酒を飲むこと自体、教育上よくないと考えています。ましてや、酔っ払った他人と子どもが同じ空間にいることなんてありえません」

水木さんには、中学生と高校生の娘さんがいるが、どちらも私立中学に通っているそうで、今まで「ママ友から居酒屋に誘われたことはない」そうだ。

「受験では子どもの成績だけではなく、育て方や親の品性も見られます。とあるご家庭では『民度が低い』とファミレスにも連れて行かないです」

「見ていて不快。
店側がOKでも控えて欲しい」

水木さん同様、居酒屋に子連れで来るのを反対する佐藤ユキさん(36歳・仮名)は「テンションが下がるのでやめて欲しい」と話す。

「店側がOKならいいんでしょうけど、できれば控えていただきたいです。座敷でも『すみません!』と、子どもがこちらの陣地に侵入してきたり、少しでも可愛がる大人がいると子どもを野放しにする親がいます。そういった状況は、見ていて不快です。

私のような子どもが欲しくない、子どもが苦手な大人もいることを忘れないでいただきたいです」

最近では「子連れ不可」の店を探し、よく行くお店にも子連れ客と時間が被るようなら行かないんだとか。

子連れ居酒屋について改めて議論が交わされるべき時期? 

子連れで居酒屋に行くことに対して、いろいろな意見があるが、グルメジャーナリストの東龍さんはこう話す。

「居酒屋は居“酒”屋であるだけに、お酒を飲める年齢以上、さらにいえば、お酒を飲む方の利用が前提となっている業態です。したがって、お子様連れの客層は、店の造りや経営的にも、メニューの構成やサービス的にも、本来であれば想定されていません。

ただ、2024年における飲食店の倒産は全国で894件となり、これまで最多であった2020年の780件を上回り、過去最多を更新しました。(※帝国データバンクより引用)

総務省の日本標準産業分類で倒産件数を区分けすると、居酒屋が含まれる「酒場、ビヤホール」は212件で最も多く、お酒を主力とする業態は厳しい状況に直面しています。

お酒をメインとする飲食店が不況に陥っていたり、“女性の社会進出”が背景にあるなか、母親が子どもを連れて、使い勝手のいい居酒屋に訪れるケースは増えているようです。

居酒屋のほうも昔よりもお子様連れに対して寛容的になっており、周囲からも子連れ客はより理解されています。

働きながら子どもを育てる女性が多くのストレスを抱えていることは確かなこと。私もお酒が大好きなので、お酒を飲む母親がたまには居酒屋に訪れたい気持ちは十分に理解できます。

現代の日本では、海外への輸出が伸びているお酒、少子化における子ども、GDP向上に寄与する女性の活躍が、極めて重要。居酒屋の子連れ利用について、改めて議論が交わされるべき時期が訪れているのかもしれません」

時代の背景とともに変わりゆくのは居酒屋だけではない。親たちの価値観もともに変わっていく。“子連れ居酒屋アリ・ナシ“論争はまだまだ終わりそうにない。

取材・文/吉沢さりぃ  

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