
今月いよいよメジャーリーグが開幕する。今年は日本人選手が集結したロサンゼルス・ドジャースに注目が集まる。
佐々木朗希メジャー1年目の成績予想
2024年、ワールドシリーズを制し、球団8度目の世界一に輝いたドジャース。
史上初のシーズン50本塁打/50盗塁という偉業を成し遂げ、自身三度目の満票MVPに輝いた大谷翔平と投手史上最高契約で海を渡り、途中離脱はあったもののシーズン7勝、ワールドシリーズにも登板した山本由伸――ふたりの日本人の活躍は、日本でも大きな注目を集めた。
そして2025年、王者・ドジャースにもうひとり、日本人が加わった。「令和の怪物」こと佐々木朗希だ。ドラフト1位でプロ入りし、NPB5年目を終えた23歳でのメジャー移籍は、奇しくも大谷と同じルート。
その一方で、NPBでは一度も規定投球回に到達せず、主要タイトルも獲得していないことから、移籍時には「本当にメジャーで通用するのか」「日本でしっかりと実績を作らずに移籍するのは時期尚早ではないか」といった声も多く聞かれた。
果たしてMLBで1年目の佐々木は、一体どんな成績を残せるのか――。ドジャースのチーム事情やMLBにおける若手投手の起用法、佐々木自身が持つポテンシャルから、今季の「期待値」を考察する。
まず、現時点でマイナー契約の佐々木にとって、このままスプリングトレーニングで故障せず、さらに結果を残すことでメジャー契約を勝ち取ることが当面の目標となる。
今季、ドジャースは開幕から約1カ月間は先発5人でローテを回すと予想されているが、仮に佐々木がメジャー契約を勝ち取ったとすれば、そのメンツは以下の通りだ。
ブレイク・スネル(サイ・ヤング賞2回)
タイラー・グラスノー(昨季9勝)
山本由伸
佐々木朗希
トニー・ゴンソリン(昨季全休、2022年に16勝)
MLB屈指の先発3投手に、山本、佐々木をくわえた豪華布陣だ。ここに、5月をメドにリハビリ明けの大谷やサイ・ヤング賞3回を誇るレジェンド、クレイトン・カーショーらが加わってくる可能性が高く、5月以降は先発ローテが6人体制になると言われている。
そこで気になるのが、佐々木の起用法だ。NPB時代は万全な状態であれば原則、中6日で登板していたが、メジャーの先発ローテは中4~5日が一般的。4月に関しては日程的に余裕があるので5人ローテでも中5日で回し、5月以降、日程が過密になってくるタイミングで6人ローテにシフトするというのが、現時点での算段とされている。
とはいえ、中5日であっても年間通しての起用となれば佐々木にとっては未知の世界。多くの識者、ファンが「メジャーの過酷なローテを1年間守れるのか」と疑問を持つのは納得できる。
佐々木に課せられるローテノルマは?
先に結論から言うと、おそらくドジャースは今季の佐々木に「中5日で1年間、フルでローテを守ってほしい」とは考えていない。現在23歳の佐々木は、MLBでいえばまだ「プロスペクト=有望株」に該当する。規定投球回である年間162イニング~200イニング弱を投げることが求められる「ローテの中心」という立ち位置ではない。
ここで参考にしたいのが、昨季MLBで新人王を獲得したピッツバーグ・パイレーツのポール・スキーンズだ。スキーンズは2002年生まれで佐々木の1学年下にあたるが、平均98.8マイル(約159キロ)の剛速球を武器に11勝3敗、防御率1.96を記録。投球のクオリティ自体はすでにMLBトップレベルと言われる「怪物」だ。
そんなスキーンズでも昨季は5月のメジャー昇格後、23試合に先発して投球イニングは133回に抑えられた。マイナーでの投球を加算しても、年間イニング数は160回1/3。
おそらく佐々木も、今季はスキーンズと同様、年間130~160回未満をベースに、体への負担を考慮されながら起用されるだろう。これは別に佐々木を「特別扱い」しているわけではなく、MLBではたとえ有能な投手であっても、ルーキーイヤーは投球イニングに制限をかけることが一般的だからだ。
5月以降はたとえばリハビリ明けの大谷や36歳のベテラン、カーショウとイニングを「シェア」するようなイメージで、ローテを飛ばす、間隔を空けるといった起用法も考えられる。
1年目は「規定投球回」に達しなかったとしても、あくまでも計画通り。MLB流の起用法だと考えていい。そのうえで、佐々木に求められるのが投球のクオリティだ。制限された投球イニングの中で、どれだけのインパクトを当て与えられるかが、1年目のカギを握るだろう。
メジャーでも佐々木の武器になりそうな球種
まず、NPB最速記録でもある165キロを誇るストレートに関してはMLBトップレベルと言っていい。佐々木の昨季ストレート平均球速は156キロ。前年よりやや低下したとはいえ、NPB先発投手では断トツ。MLBでもトップレベルに該当する。
さらに大きな武器になりそうなのが、独特の変化をするフォーク(スプリット)だ。ロッテ時代、佐々木と史上最年少コンビでの完全試合を達成した松川虎生から、こんな話を聞いたことがある。
「フォークはスピードがある中でも不規則に落ちるので、ビックリしました」
NPB時代の佐々木は、剛速球とフォークで三振を量産したが、いわゆる「真っすぐ落ちる」フォークだけでなく、スライダー気味に落ちるフォークを投げることもあった。本人は投げ分けていたわけではないらしいが、この「特殊球」がMLBでは大きな武器になりうる。
データ化が進んだ現在の野球界では、投手の投げるボールの変化量、スピード、変化方向などすべてが可視化される。これにより、打者はこれまで以上に投手のボールを「イメージ」しやすくなる。ただ、たとえば同じフォークであっても、他の投手と違う変化をする=特殊球である場合、イメージがしにくい。
昨季で言えば、今永昇太(シカゴ・カブス)のストレートも、MLB平均値を大きく上回るホップ成分を有した「特殊球」として、抜群の効果を発揮した。
NPB時代後半はスライダー気味に落ちるフォークが減ったようにも思えるが、実はこの球種こそ、佐々木の生命線になりうるのではないか――。
MLBでもトップレベルのストレートに、打者が見たことのない変化をするフォーク――。この2球種で、移籍1年目からMLBを席巻する佐々木朗希の姿が見られることを期待したい。
取材・文/花田雪