「ライバルはディズニーランド」ドンキ大躍進の背景にあるのは「テーマパーク化」と「地方の祭り化」? 創業者がいち早く見抜いていた未来
「ライバルはディズニーランド」ドンキ大躍進の背景にあるのは「テーマパーク化」と「地方の祭り化」? 創業者がいち早く見抜いていた未来

止まらない物価高にもかかわらず、35期連続増収という日本の企業としては異例の成長を見せている「ドン・キホーテ」。その背景にはドンキの「テーマパーク化」と「地方の祭り化」があるとチェーンストア研究家の谷頭和希氏は指摘する。

 

近年の都市の変化について論じた『ニセコ化するニッポン』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち1回目〉

ドンキの快進撃を支える「地域ごとの多様性」

「驚安の殿堂」として知られるドン・キホーテだが、現在は35期連続増収という、日本の企業としては異例の成長を見せている。ドンキといえば、ごちゃごちゃした店内、うず高く積まれた商品、派手な宣伝POP、などがイメージとして思い浮かぶかもしれない。

しかし、こうしたイメージは、ドンキの一部分しか表していない。このあたり、私は、『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』という本で詳しく書いたのだが、ドンキの快進撃を支えているのは、明らかに「地域ごとに異なる姿を持っていること」だと思う。

どういうことか。

初期のドンキは、多くの人がイメージとして持っているような、ギラギラした、迷宮のような猥雑な空間を持っていた。けれども、2000年代半ばぐらいから、少しずつそうではないドンキが生まれてきた。

きっかけは、総合スーパー(GMS)である長崎屋を買収し、「MEGAドンキ」と呼ばれるGMS業態を作り始めたあたりからだ。多くのドンキは「居抜き」で店舗を拡大してきた。もともとスーパーマーケットだった長崎屋の什器などをそのまま生かす形で、「スーパーマーケットのようなドンキ」が生まれてきたのである。

全国各地のドン・キホーテの店舗を巡ってみると、いわゆるドンキらしくないドンキが数多く存在していることがわかる。

また、近年ではさまざまな業態開発にも積極的で、Z世代向けの「キラキラドンキ」や、お酒だけを扱った「お酒ドンキ」(コロナ禍での「宅飲み需要」に特化した店舗だった)など、さまざまな店舗を作っている。



なにより、こうした店舗の多様性は、その商品に表れている。例えば、池袋駅西口のチャイナタウンに近い店舗では中国食材が売られていたり、その地域にとって必要なものが精選されて置かれている。

これは、ドンキが初期から採用している「権限委譲」というシステムに依るところが大きい。ドンキでは各店舗、さらには各売場に応じてその担当者が仕入れや売り方を工夫できる「権限委譲」を取り入れている。

これによって、その地域の、もっといえばその売り場に来る人にとってもっとも必要な商品を揃えたり、アピールできる売り方を工夫したりすることができる。これによって、それぞれのドンキはそれぞれの店舗で異なる、その地域に特化した空間を持つことになる。

ローカル向けテーマパークとなったドンキ

ここまで聞くと、ドンキがきわめて特殊なやり方で「選択と集中」をしていることに気が付かないだろうか。

そう、ドンキでは、各店舗での利用者を徹底的に「選択」しているのだ。権限委譲というシステムによって、その地域の顧客の満足度をもっとも高める「集中」が行われているのである。

こうした結果によって、ドンキはドンキ全体としてなにかのイメージがあるというよりも、それぞれの店舗でそれぞれ異なるテーマパーク的空間が生まれているようにも感じる。

それこそ、東京都心部にある秋葉原店や渋谷店、銀座店などは訪日観光客が多いためか、きわめて観光地的な「ニッポン」を見せるような作りになっている。まさに、「ニッポン・テーマパーク」的なものが生まれている。

逆に住宅街や、地方の駅前に行くと、その地域に根付いた空間が、そこには現れる。

その地域の人々にとって必要なものがあり、その地域に住んでいる人々が働き、「ローカル」が煮詰めに煮詰められたのがドンキとも言えるのだ。ある意味、「ローカルのテーマパーク」みたいなものなのだ。

実はドンキ創業者の安田隆夫は自著の中で「われわれの究極のライバルは、もしかしたらウォルマートではなく、ディズニーランドなのかもしれない」と書く(『情熱商人 ドン・キホーテ創業者の革命的小売経営論』)。ドンキそのものも、テーマパークを強く意識しているのだ。

かつて知り合いと話していたとき、ドンキの空間は、地元のお祭りに似ている、と言っていた。確かにそうかもしれない。

「地元の祭り」は、その地域以外の人にとっては入りづらい雰囲気を持っている。その、いわば土着的ともいえる雰囲気をドンキは持っている。ちなみにドンキ創業者の安田はその店舗づくりにおいて重要なのは「お祭り」のような空間だと書いている(同書、p.123)。まさにローカルが煮詰めに煮詰められた異空間を全国各地に作っているのがドンキなのではないだろうか。

こうした意味において、ドンキでは、各店舗において、全く異なる「選択と集中」が行われ、それぞれ全く異なる姿での「テーマパーク」が生み出されているといえるのだ。

ドンキの店舗としてのあり方は非常に特殊である。

この背景には、ドンキが本格的に出店を拡大した1990年代には、すでにロードサイドをはじめとして多種多様な小売店が存在していたことがある。

そんな中で、どのように生き残っていくのかを考えた末、ある意味必然的に、「それぞれの地域住民に合わせる」方向に進んでいったのかもしれない。生き残るために必然的に「ローカルのテーマパーク化」が進んでいったのである。

文/谷頭和希

『ニセコ化するニッポン』

谷頭和希
「ライバルはディズニーランド」ドンキ大躍進の背景にあるのは「テーマパーク化」と「地方の祭り化」? 創業者がいち早く見抜いていた未来
『ニセコ化するニッポン』
2025/1/301,650円(税込)248ページISBN: 978-4041155127

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