春の甲子園は夏とは別モノ! 春特有の戦略が求められるセンバツで「波乱が起きにくい理由」と「優勝校の2つの特徴」
春の甲子園は夏とは別モノ! 春特有の戦略が求められるセンバツで「波乱が起きにくい理由」と「優勝校の2つの特徴」

球春到来とともに、センバツ(選抜高等学校野球大会〈春の甲子園〉)の戦いが始まった。一般的に、センバツは夏の前哨戦のようなイメージを持たれがちだが、意外にもこの2つの大会では求められるものが大きく違う。

過去出場校のチーム傾向から今春の戦いを占う。

ポテンシャルも大事だが…

球児たちはこの冬、厳しいトレーニングで技術の向上だけでなく、春の頂点を目指してチーム戦術の精度を磨き上げてきた。

とはいえ、夏の戦いが終わり、3年生が引退しての新チーム。秋季大会を経たとはいえ、センバツの段階では戦術や連携面の完成度がまだ十分に整っていない。

この時期は、チーム全体としての組織的な戦略や戦術よりも、個々の選手のポテンシャルに依存することが多い。そのため、圧倒的な能力を持つ投手や打者がいるチームであれば、その選手の活躍によって勝ち上がることが可能となる。

昨年のセンバツでいうと、優勝した健大高崎の佐藤龍月と石垣元気や、準優勝した報徳学園の今朝丸裕喜と間木歩はWエースとして大会前から注目度が高かった。

しかし、どれほど選手の個の力が際立っていても、勝ち抜くためには基本的なプレーの精度が求められる。例えば、勝負どころでの犠打の失敗や守備の乱れといった課題を抱えているチームは、これらが敗因となり僅差の試合の勝率が下がる。

そのため、秋季大会からセンバツにかけては、選手の能力だけでなく、最低限の基礎力や守備力が備わっていないと勝つのは難しい。チームとしての成熟度が高くなくても、守備の精度や小技の遂行能力が一定以上あれば、ポテンシャルの高い選手を中心に据えてまわりが脇を固めた戦い方で勝ち進むことができるのだ。

センバツが勢いだけで勝てない理由

センバツは前年の秋季大会の成績をもとに選出されるため、秋の時点で一定以上のポテンシャルや完成度が高いチームが出場している。

加えて、試合日程が比較的余裕を持って組まれていることから、大会の日程に合わせた戦略やピーキングがより重要で、 夏の甲子園と比べて格段に波乱が起きにくい。

さらに、厳しい練習が課せられる冬明けの時期ということもあり、選手のコンディションもピークに達しておらず、派手な打撃戦よりも、守備の安定や綿密な作戦が勝敗を分ける傾向が強い。

つまり、夏の甲子園と比較して、投手力や守備力を軸とした “ミスを最小限に抑える緻密な野球”が求められる大会といえるのだ。

そしてもうひとつ、センバツの大きな特徴は「勢いだけで勝ち進むことがほとんどない」ということ。その背景には、大会の性質やメディアの影響力の違いがある。

例えば、2023年夏の甲子園で優勝した慶應。実力があったことはもちろんだが、「エンジョイベースボール」といったスタイルが注目を集め、メディアの後押しを受けた。そして甲子園でも“圧倒的ホーム”という状況を創出した結果、大会を勝ち抜いたのだ。

しかし、センバツではこうした甲子園ならではの熱狂的なムードが生まれにくく、純粋にチームの戦力や完成度が試される場となる。実際、慶應は夏を制した年のセンバツで初戦の仙台育英戦で敗れている。実力に差はなかったが、球場でのプレッシャーの有無は非常に大きかったと筆者は見ている。

こうして見ると、センバツは勢いに乗ったチームが一気に駆け上がるケースは少なく、各チームの実力がそのまま結果に表れやすいと言えるだろう。

センバツはエースのフル稼働も可能

投手運用にもセンバツ独特の戦略がある。

センバツは早い日程で登場したチームは、遅い日程で登場したチームより試合間隔があくため、「1週間で500球以内」という球数制限の影響を受けにくい。

これにより、夏の甲子園とは異なり、センバツ大会の日程によってはエースの“フル稼働”が可能となる。

実際に2023年のセンバツを制した山梨学院が登場したのは大会初日。この日程のめぐり合わせもあって、エースの林謙吾が6試合に登板して4完投を記録している。林の大会での総投球数は696だが、「1週間で500球以内」という球数制限は守っている。

では、センバツで勝ち上がるために求められる投手の資質とは何か。それはゲームメイクが計算できる「制球力」と言えるだろう。夏とは異なり、決勝までプランニングできる投手が軸にいることが、チームにとって何よりの戦力となる。

山梨学院の林もその類の投手だった。夏に比べて打者もまだまだ仕上がっているとは言えない段階にある上、昨年から低反発バットが導入されているので、力で抑えられるポテンシャルよりも安定感が求められるのだ。

果たして今年のセンバツはどんな投手、チームが輝くのか。各校の適応力やチームカラーなどに注目していきたい。

文/ゴジキ

 

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