
「学校カメラマン」は、入学式、卒業式、運動会、修学旅行などの学校行事を撮影し、かけがえのない学生時代の思い出を写真に残す重要な役割を担っている。しかし近年、この学校カメラマンの不足が深刻化している。
高齢化とコロナの影響で学校カメラマンが激減
昨年、撮影会社が小・中学校の入学式を撮影するカメラマンをX上で約100名募集したことが大きな批判を呼んだ。
保護者からは「素性のわからない人に子どもの撮影を任せるのは怖い」という懸念の声が多く寄せられた。この心配はもっともだが、そのような対応を取らざるを得ないほどスクールフォト業界では人材不足が深刻だ。
事実、今年も3月末の取材日時点で、都内の入学式へのカメラマンの派遣依頼が殺到しており、数百人レベルでカメラマンが足りていない状況だという。
スクールフォト業界の人材不足は、高齢化が主な要因となっている。個人経営の写真館が受注や発注を請け負うことが中心となるこの業界では、若手の参入が少なく、事業継承が困難な状況に陥っている。また長年撮影に携わっていたベテランカメラマンたちが体力的な限界を迎え、事業継続を断念するケースも増加している。
この状況に追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスだ。運動会や遠足などの学校行事の自粛により撮影機会が激減し、多くの業者が廃業に追い込まれた。その後、学校行事は再開されたものの、カメラマン不足の問題は解決されていないまま、深刻化した。
カメラマンのマッチングプラットフォームAMI PHOTOを運営する藤井悠夏氏が言う。
「スクールフォト事業は従来、毎年卒業アルバムを制作し、その収益で成り立つ安定した事業モデルでした。しかし、少子化による収益減少に加え、スマートフォンの普及で写真撮影が手軽になったことで、卒業アルバムなど高額な写真の購入を希望する保護者が減少しています。
現在は、オンラインでの写真販売が主流となり、1枚単位やダウンロード形式での提供が一般的になった流れから、卒業アルバムの集金も写真館に任されるケースも増えています。しかし、保護者からの支払いが滞るケースも発生しており、多くの会社が集金に苦慮している状況です」
低賃金と過酷な労働環境で若手の参入が進まず
卒業アルバムなどが保護者に売れないこと、運動会など保護者が参加できる行事では各自のスマートフォンやカメラで撮影することから、スクールフォトの需要が低下、学校側はコスト削減を進めている。
学校カメラマンが不足しているにもかかわらず、このコスト削減の影響もあり、報酬は低水準にとどまっている。その結果、コロナ禍が収束した後も、低賃金が原因で若手カメラマンたちのスクールフォト業界への参入は進んでいない。
「スクールフォト撮影の案件は、ほかの撮影業務と比較して待遇が著しく劣っています。遠方からカメラマンを招く場合でも交通費が支給されず、拘束時間が30分であっても1日であっても一律2万円という非合理な報酬体系も目立ちます。フリーランスのカメラマンは増加傾向にありますが、条件のいい仕事に人材が集中している状況です」(藤井氏、以下同)
カメラマンは機材の購入・維持費に加え、機材運搬用の車両費などの経費もすべて自己負担が基本となる。旅費も支給されないことが多く、一見、日給としては悪くない金額でも、実質的には採算が取れないケースも多い。
若手の参入が進まないもう一つの要因は「過酷な労働環境」である。行事によっては拘束時間が非常に長く、とくに修学旅行では重い撮影機材を持って2~3日間同行し、朝から晩まで撮影を続けなければならない。
撮影時には特定の生徒に偏ることなく、全員をまんべんなく撮影する必要があり、高度な注意力が求められる。さらに撮影が終わったあとも、業務は終わらない。
「小学校低学年や幼稚園の撮影で、とくに注意が必要なのが下着の写りこみです。写真を購入できるサーバーには全員がアクセスできるため、センシティブな写真は排除しないといけない。そのため、1日に撮影した何千枚もの写真に不適切なものが写っていないかを細かくチェックし、修正する必要があります。クラスごとの仕分けを求められることもあり、非常に労力を要する作業です」
善意の上に成り立つ、スクールフォト業界
需要は低下傾向にあるものの、学校カメラマンは今なお不可欠な職業である。
スマートフォンでの撮影が可能とはいえ、保護者がすべての学校行事に参加はできるわけではない。我が子が友人たちと過ごす表情や、真剣に行事に取り組む姿を記録する写真は、現代でも変わらぬ価値を持っている。
だが、同時にセンシティブな写真も扱うため、カメラマンには高い倫理観が求められる。このまま待遇の改善、特に報酬の見直しがなければ、質の低下を招くおそれがある。これは保護者にとっても望ましくない事態であろう。
事実、事業の継続は学校カメラマンの善意に支えられている面が大きいという。
「カメラマンの多くは、収入以上に人に喜んでもらうことを第一に考えて仕事をしています。学校撮影では子どもたちの大切な時期を記録に残せることに喜びを感じている方も多く、そうした使命感に支えられて成り立っている側面があります」
藤井さん曰く、この状況を打開するには、事業構造自体を見直し、DX化を推進することが有効だという。
「DXによる管理コストの削減を通じて、カメラマンへの報酬の還元を実現することが重要です。下着の写り込みなどの写真修正や確認作業をAIでデジタル化することで、必要な工数を大幅に削減できると考えています。
当社の例でいえば、従来電話で行なっていたアサインをGoogleカレンダーと連携させ、空き状況を効率的に管理できるシステムを導入しました。管理コストの削減を突き詰めることで、最終的には中間業者を介さずに学校とカメラマンが直接やり取りする形が理想的です。
スマホで気軽に撮影ができる今でも、プロのカメラマンにしか撮れない我が子の表情に感激してくださる親御さんは多いので、なんとかこの業態を日本に残したいと思っています」
取材・文/福永太郎
写真/shutterstock