「このままだと農業滅びるぞ!」30台のトラクターと農家ら4500人が都心に集結…“令和の百姓一揆”を掲げるコメ農家たちの叫び…デモを見た原宿の若者たちの反応は
「このままだと農業滅びるぞ!」30台のトラクターと農家ら4500人が都心に集結…“令和の百姓一揆”を掲げるコメ農家たちの叫び…デモを見た原宿の若者たちの反応は

コメ価格の異常高騰や備蓄米放出など、長年の農業政策の失敗に起因する一連の問題(#1~#11を参照)を受けて3月30日、全国のコメ農家や酪農家たちが一斉蜂起した。「令和の百姓一揆」と題する緊急行動で、東京都・青山公園南地区広場には一般消費者らも混えて約4500人が結集、約30台のトラクターとともに桜満開の都心をデモ行進してさまざまな課題を訴えた。

 

「“農じまい”こんな事を農家に言わせてはならない」

全国の「百姓」を自称自認する農家に加え、幅広い年齢層のさまざまな人たちが集まった。中高年層が多いものの、若者や幼い子どもを連れた家族の姿も目立ち、農政の課題と消費者問題が完全にリンクしたことを実感させた。

「一揆」の実行委員会代表で山形県の専業農家・菅野芳秀さん(75)は、「山形県では私が農家の期待の“若手”のホープです」と自虐的な挨拶に続いて、こう訴えた。

 「農民が消え、このままだと間違いなく農業は滅びゆく。そう言っても言い過ぎではないと思います。農業が滅んで困るのは私たちではなく国民です。だからこそ、まだ農民が残っている今、日本の国民とともに農業を変えていかなきゃならないと思っています。

農家の間では墓じまいならぬ“農じまい”、そんな言葉があります。こんなことを農家に言わせてはならない」

ヒートアップして「そうだ、そうだ。現状を見せつけろ」と強い口調で声を上げる聴衆や、指笛でエールをおくる男性の姿もあった。

「一揆」はこの後、午後2時半にトラクターのデモ隊が出発。続いて午後3時20分、発起人の元農林水産大臣・山田正彦さん(82)が決意表明を述べ、ホラ貝の合図とともに人々のデモ行進が始まった。

「農家を守ろう」「おコメを食べよう」のスローガンを繰り返し、練り歩いた 

トラクターのデモは明治通りから恵比寿を経て渋谷、神宮前、表参道、原宿駅前から代々木公園という距離5.5キロのコースを取った。一方、徒歩でのデモはゴール地点は一緒だが、やや短い3.2キロのコースとなった。

徒歩隊はトラクター1台が先導したが、運転席に乗り込んだのは♯10で紹介した静岡県浜松市のコメ農家・藤松泰通さん(44)だった。

「ついに始まったという心境です。こんなにも多くの人が集まってくれたというのも驚いています。私は農業を守るということは、食の安全を守ることだと考えています。それは子どもたちの未来を守るということにも繋がっていると思っています。

これはまだ始まりにすぎません。この始まりの一歩が次に繋がり、農業のあり方が変わっていってくれたらと思います。神聖なことだと思っていますので、しっかりトラクターにしめ縄を巻いてきました」

こう意気込む藤松さんに率いられたデモ隊は「農家を守ろう」「おコメを食べよう」「牛乳を飲もう」「野菜を食べよう」「果物食べよう」などのスローガンを繰り返し、都心の目抜き通りを練り歩いた。

先頭の隊列には山田元農水大臣らがいたこともあり、「あれ、元大臣の人じゃん」と指差す通行人がいたり、後方の隊列の中には、れいわ新選組代表の山本太郎氏の姿もあった。

沿道にはトラクターが車道を走っているのに驚いて二度見する人や、コンビニでアルバイト中の男性店員が外に出てきて様子をうかがったりもしていた。

いかにも農家という雰囲気の人だけでなく、こんにゃくの着ぐるみを着た人やおにぎりのかぶり物をした人などもいて、最初は何のデモ行進なのかわからない人もいたようだ。

実際に原宿で信号を止めてデモ隊が交差点を通る際に、信号待ちしていた若いカップルは「何? 信号なげえな。

デモ?」と当初は迷惑そうな反応だったが、「牛乳を飲もう」のコールに「牛乳? なんのデモ?」と苦笑。しかし、東京都心では見慣れないトラクターを見つけると「うお、トラクター。百姓のデモって書いてある。すげー」と笑顔を見せていた。

デモ隊は表参道の車道を進み、代々木公園を目指したが、数あるハイブランド店の前にいるショッピング客も何事かといったように視線を送っていた。 

「あんまり考えたことないんで、よく分からないです」原宿の若者たち 

約1時間半のデモ行進の間には、農家の“本音”がこぼれ出し、「農家を守ろう」のコールが「農家に嫁を」「農家に婿を」「農家に金を」と次々とシュプレヒコールが“進化”する一幕も。

こうしたデモ行進に、部活帰り風の中学生の団体は「おコメを食べよう」「おにぎり食べよう」とみんなで笑い合い、一見コワモテ風のストリートファッションの男性グループは「トラクター実家にあったわ」と笑顔を弾けさせていた。

信号待ちの若者たちもトラクターが東京の車道を走っているのが珍しいのか、スマホを向けて撮影していた。

原宿で取材に応じてくれた若者たちは、こんな反応だった。

「野菜とかコメとかが高くなったって母親が言っているのはよく聞きますけど、あんまり自分はよく分からないです。『ご飯お替り自由』だった定食屋とかが『ごはんお替り一杯まで』とかになって、なんとなくコメが手に入らなくなったんだろうなとは思いましたが、野菜はよくわからないです。農家の生活がキツいっていうのも記者さんに今言われるまであんまり考えたことないんで、よく分からないです」(20代男性)

「私はですけど、(デモについて)正直うるさいなとしか思わないというか……。

あと、ああやって大きな声で何とかかんとか言うのに何か効果あるのかなと思ってしまいますし。それこそSNSとか使ってやったほうがいい気がしますけど。

みんなスマホで写真撮っている? たしかにとりあえず珍しいから撮っておこうって感じで拡散されるから意外と意味があるのかも。そもそもあれ何のデモなんですか? 農家? 私はあまり分からないです。でも、『百姓』って言い方はなんかいい感じですね」(20代女性)

後半の♯13ではデモ参加者のさまざまな声を紹介する。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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