男性のムラ社会の制度やルールのまま女性に活躍を促すとどうなるか…女性の管理職比率の上昇だけを目指すことが招く悲劇
男性のムラ社会の制度やルールのまま女性に活躍を促すとどうなるか…女性の管理職比率の上昇だけを目指すことが招く悲劇

コンプライアンス、ジェンダーといった企業を取り巻く環境が変わり続けている昨今、時代に対応しようとするために、本質を見失い、手段が「目的化」してしまっているケースが多発していると警鐘を鳴らすのが経営コンサルタントの小笹芳央氏だ。特に「女性の管理職比率」の上昇だけを求めることは誤っていると指摘する。


書籍『組織と働き方の本質』より一部を抜粋・再構成し、会社で働く人々が属するレイヤーの違いについて解説する。

女性の「男性化」を促すことの大罪

女性の活躍を推進する施策を考える時、「会社はひと昔前まで、男性のムラ社会だった」ことを考慮に入れる必要があります。

なぜなら、男性のムラ社会の制度やルールのまま女性に活躍を促すと、女性の「男性化」を促すことになるだけだからです。

ひと昔前までの男性のムラ社会とは、主要な業務はすべて男性が担い、入社から定年退職まで、ただひたすら朝から晩まで仕事に勤しむ企業社会のことを指します。そして大抵の場合は、年齢と共に右肩上がりに給料も上がりました。

これが実現できたのは、家事や育児など、家の仕事を主に女性が担ったり、時には祖父母に協力してもらったりすることで、男性はあまりライフステージの変化に向き合うことなく、仕事に専念することができたからです。

こうした男性のムラ社会時代の制度やルールのままの会社は、現在でもたくさんあります。

そんな会社で働く女性は、結婚をしても出産には二の足を踏みます。なぜなら、出産と育児で仕事を長期間休んでしまったら、復職後は仕事がなくなっているかもしれないと考えるからです。

つまり、男性のムラ社会的な企業が変わらない限りは、女性の活躍を推進することは結果として女性の「男性化」を促してしまうことに繋がってしまうのです。

少子化の原因は経済的背景などを筆頭に多岐にわたると思いますが、こうした男性のムラ社会企業に勤める女性が出産に消極的になってしまっていることも少なからず関係するのではないかと、私は考えます。

では、どうすればよいのか。

女性の活躍を促すのであれば、女性には出産という大きなライフイベントがあり、キャリアが中断する期間があることを前提に、会社の制度やルールを刷新することが不可欠となります。

役割期待の握り直し

たとえば、私は「役割期待の握り直し」と呼んでいるのですが、働き方を柔軟に改められるようにする。そして給与形態もそれに準じて変える。

それまではバリバリ働いていたとしても、出産前の時期に少しずつ業務量や業務時間を減らしていく。それに準じて給料も減っていく。あるいは、育児の状況を見ながら、今度は復職を目指して少しずつ業務量や業務時間を増やしていく。そうなると、給料も少しずつ増えていく。

完全に復職する際にも、以前のようにバリバリ働く道を選ぶのか、少し抑えた仕事量にするのか、給与形態も含めて「役割期待の握り直し」を行う。つまり働く側に複数の選択肢を提供することです。これは女性に限ったことではなく、男性が育児や介護にシフトする際にも、適用すべきことだと思います。

こうした柔軟な制度があれば、女性はライフイベントがあっても、キャリアを継続でき、男性化することなく働き続けることができます。

女性管理職比率や女性役員比率の数値目標を設定し、その実現を義務化するよりも、こうした女性の働き方を支援する柔軟な制度の導入を義務化するほうが、女性活躍によほど資すると私は確信しています。

女性でも男性でもなく「個性」が輝く社会へ

そもそも現代は、「女性」でも「男性」でもなく「個性」を重んじる時代だと私は考えます。

少し理屈っぽくなりますが、とても大事な観点なのでお付き合いください。

ここでは、3つのレイヤーで説明します。

まず、第1のレイヤーは、「男性/女性」です。つまりXYの染色体を持っているのかXXの染色体を持っているのかの「生物学的レイヤー」です。

このレイヤーには本人の意思は反映されません。生まれながらに定まった生物としての特性です。アメリカのトランプ大統領の「性別は2つしかない」という発言は、このレイヤーでのものです。ただ、組織や社会の発展・継続のためには「One for all,All for one」の視点が欠かせません。そこで第2・第3のレイヤーで考えてみます。

第2のレイヤーは、「男性/女性/LGBTQ+」などの「性の自己認知のレイヤー」です。これは、「One for All,All for One」の「One」(=個人)の視点からのレイヤーです。このレイヤーでは、個人の指向性や感性を示します。そして、それらは尊重されるべきです。

最後に、第3のレイヤーは、「社会的レイヤー」です。

「One for All,All for One」の「All」(=社会)からの視点です。このレイヤーでは、男性/女性/LGBTQ+は関係なく、「個々人の『個性』」が輝くことで社会全体の活力向上や発展を目指すことがテーマです。

ところが、おかしなことに女性管理職比率目標というのは、この第3のレイヤーに、唐突に第1のレイヤーの「性別」を持ち込んでしまっているのです。この論理矛盾を指摘する発言が企業社会であまり聞こえてこないことを、私は不思議に感じています。

結論から言えば、「女性の管理職比率」について各企業に一律に数値目標を課すのではなく、1人ひとりの「個性」を大事にする社会、1人ひとりが自分の「個性」をいかんなく発揮できる社会にするために、どんな施策が考えられるのかを本来は議論すべきなのです。

さて、あなたの会社の女性管理職比率はどれぐらいですか? 女性管理職は輝いていますか?

あなたは管理職を目指したいですか? それとも専門職を目指したいですか?

あなたの会社では1人ひとりの個性が大事にされていますか?

写真はすべてイメージです 写真/shutterstock

組織と働き方の本質 迫る社会的要請に振り回されない視座

小笹芳央
男性のムラ社会の制度やルールのまま女性に活躍を促すとどうなるか…女性の管理職比率の上昇だけを目指すことが招く悲劇
組織と働き方の本質 迫る社会的要請に振り回されない視座
2025/4/111,980円(税込)224ページISBN: 978-4296122950

【内容紹介】
「人的資本経営」「パーパス経営」「ジョブ型雇用」
「自律分散型組織」「女性管理職比率」……
トレンドワードに捕らわれず“核心”を捉えよ!
組織変革の第一人者が、経営・マネジメントの“あるべき姿”を解説。


本書は、日本の組織変革の第一人者である著者が「会社とは、いったい何か」「組織は、どうあるべきか」という“本質”を主軸に、経営やマネジメントの在り方を解説するものです。

近年、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化を続けており、今後の予測が極めて困難なため、「経営の中長期的な見通しがつかない」と言われるようになっています。その影響で、「各企業は世の中の潮流に乗るためにバズワードに飛びつくものの、いつの間にかその本質を見失い、『手段』が『目的化』してしまっているケースが多発している」と、著者は警鐘を鳴らしています。

「人的資本経営」「パーパス経営」「ジョブ型雇用」「自律分散型組織」「働き方改革」「女性管理職比率」「ダイバーシティ」……。実に多様なキーワードが広まり、国や社会からの要請も増えています。しかしながら、それらの本質を見抜くことなく、当面の対応をしがちになり、従業員の時間と労力は会社の見えないコストとして生産性を押し下げ、また対応した人間の仕事への効力感や誇りを奪っているケースが散見されると、著者は分析。



「このままでは、経営者や管理職層、働く人々が徒労感や無力感に襲われてしまうのではないかという憂いと、日本企業の国際競争力がさらに低下してしまうのではないかという危機感を抱くようになりました。私の過去の経験や現在の立場上、どうしてもこのまま世の風潮に対して沈黙していてはいけないという感情に突き動かされたのが、本書を執筆することになった理由です」と著者は語ります。

著者が経営する会社は、経営学・社会システム論・行動経済学・心理学などの学術成果をもとにした基幹技術「モチベーションエンジニアリング」を開発し、国内最大級の社員クチコミデータベース(約1,860万件)や、組織状態データベース(延べ12,650社、509万人)、人材育成関連データベース(延べ11,640社、148万人)など、膨大なデータを蓄積してきました。

本書は、それらをもとにした統計的なファクトデータやコンサルティングの豊富な実例を交えながら、トレンドワードの本質に迫り、組織変革のあるべき姿を描き出します。

経営者や管理職のみならず、人事・経営企画・IR・広報担当者などのコーポレート部門、さらには次世代を担うビジネスパーソンにとっても企業変革のための示唆に富む一冊です。

【目次】

第1章 会社・組織・マネジメントの本質
1「会社」とは、いったいナニモノなのか
2「組織」の成立要件と存続要件
3「マネジメント」の本質的な役割

第2章 社会的要請の本質
1「女性管理職比率」の罠
2「人的資本経営」の真相
3「働き方改革」の困惑
4「日本版ジョブ型雇用」の正体

第3章 個人の働き方の本質
1「働く個人」は「投資家」である
2「ワークライフバランス」の落とし穴
3「キャリアデザイン」の幻想
4「副業・兼業」の是非

第4章 組織変革の本質
1「自律分散型組織」の限界
2「パーパス経営」の成否
3「ダイバーシティ」を深掘る
4「組織変革のメカニズム」を解き明かす

第5章 環境変化適応の本質
1「テクノロジーの進化と仕事」の未来を展望する
2「労働市場適応」のサバイバル
3「均衡状態に安住する」+「手段の目的化」という病

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