【選挙とフェイク】石破首相の“恫喝”動画の拡散でテレビ局にも動き…専門家が指摘するフェイクニュースを見抜く簡単なポイント
【選挙とフェイク】石破首相の“恫喝”動画の拡散でテレビ局にも動き…専門家が指摘するフェイクニュースを見抜く簡単なポイント

7月20日の参議院選挙を前に、各党やその支持者たちが壮絶なアピール合戦、そして足の引っ張り合いを繰り広げている。さらにSNSでは真偽不明の情報が飛び交うまでに発展し、選挙戦の空気は混沌としている。

テレビ番組のCM中にアナウンサーを恫喝?

今回の選挙では、与党である自民党の大幅な議席減が予想される一方で、野党勢力の勢力図は刻一刻と変化している。ここにきて一気に注目度を高めている政党や候補者もいる。

その背景にあるのが、SNSの爆発的な影響力だ。演説動画や政策まとめ、さらには「この人は実はこんな発言をしていた」といった“告発系投稿”までが連日投稿され、X上では膨大な「いいね」やリポストで拡散されている。

たとえば最近話題となったのが、石破茂首相がテレビ番組『news every.』(日本テレビ系)のCM中に「舐めない方がいいですよ。今50代の人達ね」と発言している切り抜き動画。

この映像が「アナウンサーを恫喝する石破茂」というコメントとともに拡散されると、11万以上の「いいね」、3000万を超えるインプレッションを記録し、「パワハラ総理だ!」と批判が続出した。

だが、動画のフルバージョンを見ると、これは社会保障制度に関する発言であり、団塊ジュニア世代(現在の50代)が高齢化したときの財政的負担について、「甘く見てはいけない」という文脈で放った言葉であることが判明したのだ。

ネットの反響を受けて、日テレ側も同番組で「誤情報である」との声明を出すことになり、これは大きな物議を醸すことになった。

「石破首相を好きじゃないけれど今回は同情する」

「石破さんが恫喝してた動画、あれフェイクだったの!? あんなことされたらどんな候補者も落とせると思う。怖い」

今回のケースは「切り抜き」による誤解だが、今や言葉だけでなく音声や動画そのものがAIで捏造されてしまうことも珍しくない。誰もが簡単に巧妙な動画や画像を制作できるようになった今、SNS上には過激な言葉や敵対候補のネガキャンが溢れ、それらが「ソース不明」のまま拡散されている。

なぜ私たちは、こんなにもフェイクに引っかかってしまうのだろうか。

学習院大学非常勤講師で情報社会学を専門とする塚越健司氏に、その背景を聞いた。

「多くのフェイク情報は、強い感情を引き出すように設計されており、そうした投稿に接して感情が動くと、普段はぼんやりと感じている程度の“怒り”や“不安”の感覚が強く刺激されます。

こうして感情が強化されて信念が補強されると、自分の信念や感情に合致した情報を信じやすくなり、逆の情報は目に入りづらかったり、無視する心理が働きやすくなります」(塚越氏、以下同)

これは「確証バイアス」と呼ばれるもので、本人が冷静だと思っていても、実際には感情の影響によって、本来なら理性的に判断できるはずのことが難しくなるという。その結果、他者との議論が噛み合わなくなってしまうことも少なくない。

フェイクニュースを見抜くポイントは「感情」

さらにやっかいなのは、フェイクニュースに騙されまいと意識していても、それを完全に見抜くのはもはや不可能になっている点だ。

「誰であれ、フェイクニュースを100%見抜くことはできないという認識を持つことが必要です。大切なのは、騙されないことではなく、『自分も騙される可能性がある』と理解しておくこと。そうすれば、仮に誤った情報を信じたとしても、後から修正する柔軟さを持てます。

そのうえで、感情を大きく揺さぶられるような投稿を見かけたときには、一度立ち止まることが有効です。真偽を判断する前に、『これは感情を刺激するための情報ではないか?』と、自分に問いかけてみる。それだけでも、フェイクに巻き込まれにくくなります」

こうした視点を個人が持つだけでなく、社会全体で共有することが、フェイク情報の拡散を防ぐ大きな力になるという。そして今後、対策として有効になるのが、「感情に着目した仕組みづくり」だと塚越氏は指摘する。

「たとえばXでは、未読の記事をリポストしようとすると『まず記事を読んでみませんか?』と表示され、ユーザーに注意を促す仕組みがあります。これと同様に、感情を強く刺激する投稿に対しても注意を促す仕組みを構築することは、技術的には実現可能です。

もちろん、どのような投稿を対象とするかといった判断基準には慎重な議論が必要ですが、フェイクへの対応を“事実か否か”だけでなく、“感情”に着目して設計する視点は、今後はますます重要になると思います」

フェイクに引っかかってしまうのは、決して“騙されやすい人”だからではない。誰もがその可能性を持っている。それだけ、現代の情報技術は巧妙で、判断が難しい時代になっているのだ。

特に選挙のように、一票の重みが大きい場面では、いつも以上に、情報との向き合い方に細心の注意を払いたい。

取材・文/集英社オンライン編集部

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