【ダブルインパクト】芸人の墓場から見据える二刀流の王者…スタミナパン「終わったおじさんとか、行くとこない人が最悪入れる事務所にいまして…」
【ダブルインパクト】芸人の墓場から見据える二刀流の王者…スタミナパン「終わったおじさんとか、行くとこない人が最悪入れる事務所にいまして…」

7月21日放送の「ダブルインパクト 漫才&コント二刀流No.1決定戦」(日本テレビ)に出場するお笑いコンビ・スタミナパン。昨年、M-1グランプリで連覇達成した直後の令和ロマン・髙比良くるまが自分たち以外で面白かったコンビを聞かれると、「スタミナパンさんです」と答えるなど、その実力が高く評価されている。

ともに現在36歳のボケの麻婆とツッコミのトシダタカヒデ。同学年コンビの素顔とは。(前後編の前編)

ダブルインパクト決勝への秘策は…

—ダブルインパクト決勝進出おめでとうございます! 決勝メンバーが発表されたときの率直なお気持ちを教えてください。

麻婆 ありがとうございます。そうですね……なんかもう嬉しいというよりびっくりが勝った感じですかね。正直(準決勝)21組の中から7組だったので、いけたらなと思ってたんですけど。僕ら最後だったんですよ、呼ばれたの。

—最後だったんですか!

麻婆 そうなんです。だからもうないなーって思って。すでに6組が呼ばれて、残り何組かウケてたのに呼ばれてないコンビもいたんで。

トシダ ネタやってるときに思ったより反応ないっていう手応えだったんですよ。ネタ終わってすぐ、諦めじゃないですけど「いや今回はねえかなぁ」とか思ってました。でもいざ発表されて呼ばれて「え、マジっすか」みたいな。



麻婆 うん。

トシダ 喜びとかでもなかったよな。ただただ「マジっすか」みたいな感じですね。決勝のメンツもすごい方ばかりでしたし。審査基準はよくわかんないですけど、漫才とコントの大会なんで、もしかしたら両方いい感じだったのかなとは思います。バランスよく両方そこそこ点高かったのかな、なんとなく。

—記者会見では“言い切る男”のななまがりの初瀬さんに「6位」と言い切られていましたが、決勝を勝ち抜く、秘策は考えてらっしゃいますか。

麻婆 僕らは本当にそのままをやるしかないので。なんとかね、他の人たちにスベってもらえるように。なんとか……

トシダ お腹こわさせたりね。

麻婆 言うても僕らが一番知られていないので、そういうとこがアドバンテージになるのかなっていうのは思います。

トシダ 初見の方にウケりゃ可能性あるんじゃないかっていう。

全然イメージとかない中で。

麻婆 僕ら特にコントのイメージは本当にないと思うので。もともとコントやってたんですけど。

トシダ M-1から知ってもらった方が多いので。漫才師のイメージが強い。で、知られてない中でコントやって、まあまあウケたら勝ち目はあるのかも。

芸人界隈でも注目度上昇中

—決勝進出者の中で気になるコンビはいらっしゃいますか?

麻婆 僕はセルスパ(セルライトスパ)さんですかね。見た目ほぼ一緒。僕と大須賀さんだけじゃなくて、コンビのたたずまいとかシルエットがほぼ一緒なんですよ。

トシダ 吉本(興業)以外では僕らと、かもめんたるさんしかいないので。かもめんたるさんは先輩だし、キングオブコント(KOC)チャンピオンだし、ライバルとか言えるわけないんですけど。いわゆる他事務所という意味ではかもめんたるさんと一緒に頑張りたいですね。

—同じ事務所のSMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)にはハリウッドザコシショウさん、バイきんぐさん、錦鯉さんなど数々の賞レースを制してきた先輩芸人がいますが、プレッシャーを感じることはありますか。



麻婆 プレッシャーはないかなぁ。

トシダ 賞レースで優勝することを目的に組んでないっていうのもありますね。どっかで目立ってテレビとかいっぱい出たいですけど、優勝するようなネタをするコンビだとはお互い思ってないと思います。

麻婆 あとスベりたくない(笑)。

トシダ 絶対優勝というよりは絶対スベりたくない。そっちの思いのほうが強いですね。

—でも最近、芸人さんを取材していると、よくお二人の名前が出てくるんです。業界内での注目度がものすごく高いスタミナパンさんですが、そもそも芸人を目指されたきっかけってなんだったんですか。

麻婆 僕はもともとお笑い好きで、中高生のときは芸人さんのラジオばっかり聴いてました。その後、1回就職したんですけど、やっぱりお笑いやりたいなって思って、そこからワタナベコメディスクールという養成所に入りました。いつか深夜ラジオをできるような芸人になりたいなって。あんまり見た目とは違うんですけど。


—どんなラジオを聴いていたんですか?

麻婆 おぎやはぎさんの『メガネびいき』とか。

—(おぎやはぎの所属する)人力舎ではなくワタナベコメディスクールに入られたのはどうしてですか。

麻婆 これはちょっと言い方が難しいんですけど、10月生を募集していたからっていう感じですね。養成所に行こうと思ったのが5月6月ぐらい、そこから一番早く入れたっていう。でも今思うと、10月スタートは芸歴問題的に紛らわしいと言われるので、ちょっと待てばよかったかなとは思ってます。

トシダ 僕もちっちゃい頃からお笑い大好きで、学生お笑いもやってたんですけど、それこそ中学生ぐらいのときからもう相方いて、学祭でネタやったり。高校でまた別の相方になって、そのまま大学でも学生お笑いやってました。

なので将来はお笑いをやるしか考えてなかったですね。働く気持ちが全くなかったです。大学も一応出たんですけど、それも親に大学だけはとりあえず行っとけって言われて入っただけで、本当は高卒で養成所に行くのかなと思ってました。

養成所出身芸人と学生お笑い出身芸人の違い

-中学時代からコンビを組んでいたんですね。

麻婆 芸歴で言ったら20何年ですか?

トシダ いや中学時代入れたらね、そりゃ23年目とかになりますけど。

麻婆 !?

トシダ 「!?」じゃないんだよ、そこはカウントしないんだよ!

麻婆 いやちょっと、すげえ先輩じゃんと思って(笑)。



トシダ 家でちっちゃい頃から親父と『笑点』見るのが毎週の日課でした。

—『笑点』はダブルインパクトを主催する日テレですし、優勝したら出演できたり……。

トシダ あ、たまたま、偶然ですね。いや、僕は日テレっ子だった。

—かなり明確に芸人を意識していたけど、養成所には行かなかったんですね。

トシダ NSC(吉本総合芸能学院)とか入らなきゃダメなのかなとか思ってたんですけど、大学に入って別に養成所に入らない道もあるってことを知りました。大学お笑いは僕らの世代がはしりというか。

『学生才能発掘バラエティ 学生HEROES!』という深夜番組が始まったりして、賑わいだしました。真空ジェシカが同期なんですけど、僕らの下の世代はさらに盛り上がってました。

—養成所を出た芸人さんと学生お笑い出身の芸人さんでは何か違うところってあるんですか。

麻婆 吉本の養成所と、吉本以外の養成所と、そのどちらも行ってない人とでだいぶ違うと思います。養成所って言っても、やっぱNSCを出てる人とそれ以外の養成所出てる人はちょっと環境的には違うのかなとは思いますけどね。

それぞれ良い悪いはあると思いますけど。

—どういうところが?

麻婆 やっぱりNSCの話を聞くと、めっちゃ厳しかったりするけど、同期とかめちゃくちゃたくさんいるし、横のつながり縦のつながりはできるのかなって思いますね。僕らも一応、同期とかいるんですけど、10年とか超えるとけっこう辞めてきちゃったりもするので。

トシダ 僕は養成所入ったらダンスとか演技の授業があるっていうのを知って、そんなのにマジで金払いたくないなとは思いました。40万円とか60万円とかでしょ?

麻婆 ダンス大事ですけどね。

トシダ いらないだろダンス。

—ちなみに麻婆さんの同期ってどなたですか?

麻婆 (ワタ)ナベ(エンターテインメント)の同期は納言の薄幸とか、平野ノラとか、売れてる人で言うとそうですね。そのへんナベの13期なんですけど。

—今も交流はあるんですか?

麻婆 たまに……でも平野ノラはもうマジで会わなくなっちゃいましたね。幸とはたまに会いますけど、ちょっと金借りてるんで。

—お金借りてるんですか。

麻婆 お金をちょっとね、まあ借りてるだけなんですけど。

トシダ それなんなんだよ。

芸人の墓場SMAに入所した理由

—なぜ別々のところにいたお二人が出会い、SMAに入られたのか。

麻婆 僕が前に組んでた相方が、トシダさんの前のコンビと知り合いだったんですよ。それで知り合って、同じくらいに解散して。で、やってみようかでやることになるんですね。

—やはりビビッときたんですか。

麻婆 ふふん(笑)。

トシダ こいつと組む前に後輩とも組んで先輩とも組んでたんですけど、麻婆とは同い年だし僕はただ単純に気を使わず意見を言えるからこいつになったみたいな感じですね。

麻婆 なんか恥ずかしがってますけどビビッときたんだと思いますよ。すいません。

トシダ ビビッとはしばらく来なかったですけどね。

麻婆 すいません、恥ずかしがってて。まあ僕から誘ったので、ツッコミちゃんとできる人がよかったんで。トシダさん(当時は)ボケだったんですよ。でも元ボケの人というかボケもできる人のほうがツッコミが面白い気もするんですよね。で、やっぱ……ビビッときて。

—麻婆さんはビビッときたんですね。

麻婆 はい(照)。

—当時は「芸人の墓場」とも言われていたSMAに20代にして入ったのはどういうきっかけだったんですか。

トシダ オフィス北野とか、浅井企画とか、ホリプロコムとかいろいろ事務所を回ってたんですけど、やっぱ入れるまでに何か月かかかるんですよね。オーディションライブとか、ネタ見せとか経て。

麻婆 なんかもう面倒くさくなっちゃって。

トシダ その点、SMAは連絡したら入れるという噂通り、本当に入れたんですよね。

—それって都市伝説ではなく、本当なんですか?

麻婆 本当ですよ。みなさんも入れます。

トシダ でも先輩方には止められましたよ。「まだ早い」と。お前らが来るには早い。ほんと終わったおじさんが入るところだからと。

麻婆 そこがねちょっと……最大のミス、いやわかりませんけど……今ちょっと隣でマネージャーさんが聞いてるんでね……いやマジでありがたい、ありがたいです。

トシダ SMAは墓場のイメージだからね。僕らたまたま今こうですけど、他に200、300人、なんもない芸人が山ほどいますから。行くとこなくなっちゃった人が最悪入れるっていうところに僕ら入ったんで。

麻婆 当時は錦鯉さんもまだM-1優勝してないし、や団さんもKOC決勝行く前なんで本当に今より地下な感じでした。

—オーディションに通えず、サクッと入れる事務所に入って今がある(笑)。

トシダ 地道な努力がやっぱりムズくて。

麻婆 歯医者とかもね、やっぱり通えない。

トシダ わかるなぁ。歯医者とか病院とか。毎月行かなきゃいけないのがキツイ。

麻婆 毎月行かなきゃいけないの嫌だよね。事務所によってはライブの手伝いとかも行かなきゃいけないとかあるんですよ。そういうのがたぶん嫌だったんだと思います。

#2へつづく

取材・文/西澤千央 撮影/高木陽春

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