
昨年、一昨年とM-1グランプリ準決勝進出など注目度急上昇中のお笑いコンビ・スタミナパン。7月21日放送の「ダブルインパクト 漫才&コント二刀流No.1決定戦」(日本テレビ)にも出場する。
顔塗ってふざけて捨てたM-1の3年間
—今回決勝が決まって、所属するSMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)の先輩から何か声をかけられましたか。
麻婆 この間(ハリウッドザコ)シショウに会って「いったな!」って。錦鯉の(渡辺)隆さんとか、や団の本間さんもLINEくれました。
—みなさんめちゃめちゃ喜んでくれている。
トシダ そうですね。どうなんだろうな。や団さんはヒヤッとしてる可能性はあります。「先に行くのかお前ら」みたいな。
麻婆 確かに(笑)。
トシダ でも応援はしてくれてます。
—錦鯉さんはM-1の前にバイきんぐ小峠さんにネタのアドバイスをもらったとお話しされていましたが、お二人はそういうことされていますか。
麻婆 去年のM-1の準決勝の前は、それこそ隆さんとか先輩に見てもらったりしたんですけど。
トシダ お願いすればスケジュール空けてネタ見てくれる。ネタのことを言ってくれるっていうのはSMAならではで、あんまり他の事務所にはないって聞くので。
—ネタのアドバイスはちゃんと聞くんですか? お二人は。
トシダ 聞かないほうかもしれないです。取り入れるところもちろんあるんですけど、基本的にあんまり聞かないですね。
—昨年のM-1敗者復活戦で話題になったネタ「ほんち(ほんとにう●ちしてます)」もそうやって生まれた。
トシダ 確かにあんなのアドバイス必要ないですもんね。麻婆がネタの設定を持ってくるんですけど、やっぱ変ではありますよ。他の人がやってないようなことをやりたがる癖がある。
麻婆 コントのときは特にそうでしたね。誰もやってないことをやりたい。
—過去のM-1に顔面を塗って出場されていたというのもその一環なのでしょうか。
麻婆 最初は前日にフグ食べて体調悪い人みたいな設定でした。それから緑とか白とか、舞台上でメイクするとか、ただの奇行ですね。みんなスーツ着て漫才やってるのに楽屋で顔塗ってるの恥ずかった。
トシダ ふざけてたもんね、完全に。
麻婆 いやでももったいねえ、マジであの時間(笑)。遠回りしたな。まあでも、そういう時期か。
トシダ まあ、そういう時期もある。本当コントしかやってなかったんで、M-1は記念受験じゃないですけど、3回戦いけたら動画が載るので、色塗り漫才が披露できりゃ、それでよかった。
それこそ(麻婆と同期の)納言も賞レースで売れたというよりはM-1の動画でけっこうバズってじゃないですか。そういうパターンも当時はよくあったんで、変なことしてれば目立てるかなぐらいの気持ちで3年間、顔に色塗って漫才してました。3年捨ててましたね。
令和ロマン・くるま「自分たち以外で一番面白かったコンビ」
—でもその力の抜け具合がよかったのかもしれないですね。
トシダ すべては結果論ですけど、そうなのかもしれないですね。一昨年M-1準決勝いけたときも、別に絶対M-1決勝行こうっていうわけでもなく、作ってるネタの延長でイケたっていう感じで。去年はけっこう真面目に漫才やりましたけど。
それこそ準々決勝の動画で目立てればいいかなぐらいの気持ちで、結果的に準決勝までイケちゃったんで。そのときもびっくりしましたね。あんなネタでいいんだ。
—令和ロマンのくるまさんが昨年のM-1優勝直後のインタビューで「自分たち以外で一番面白かったコンビ」としてスタミナパンさんの名前を挙げていましたが。
麻婆 去年、言ってくれてましたね。
トシダ 吉本系の芸人さんが名前出してくれるのって、ちょっと気持ちが違うのかなとは思いますよ。
麻婆 本当「M-1いくぜ!」って感じじゃないんで。
トシダ そういう欲出しちゃうと、逆に僕ら負ける気もするし。
麻婆 実際そうじゃないしな。
—今は、それこそくるまさんが自著に書かれていたような、M-1攻略法とかあるじゃないですか。ボケをこうするとか。
トシダ 理論ね。あんなんやりすぎですよ。
麻婆 難しく考えすぎ(笑)。
—「ほんち」のネタは急に降りてきたんですか。
麻婆 そうですね。僕はこういうことをこういう設定でやりたい、こういう言葉を言いたい、っていうのがたまにあって。「ほんとにう●ちしてます」ってちょこちょこ言ってたら面白いんじゃないか、みたいな。
トシダ ネタも文字で書いてくるわけじゃないんですよ。「こういう設定やりたくて」ってところからとりあえずやってみて、あれ急に言い出したと思うんですよね。適当に立ちでやってたら「ほんとにう●ちしてます」とか言い出した。
—どんな台本なんだろうと思ってました。
麻婆 台本ないです(笑)。
トシダ ライブで「太陽の小町」の(安田)一平さんが……
麻婆 「太陽の小町の一平さん」って急に言われても(笑)。
トシダ 名前出たら嬉しいじゃないか。一平さん、太陽の小町っていうね、男女コンビの一平さん。僕だって言うの恥ずかしかったんだぞ(笑)。
麻婆 一平さん、めちゃめちゃいい人。
トシダ その一平さんに「あのネタ、ツッコミが徐々にテンション上がっていくほうがいいんじゃない?」って言ってもらって、それでツッコミ方変えたの覚えてます。
バイト辞めたい、辞めたくないコンビ間のズレ
—お二人は漫才衣装も印象的ですが、何か意図があるのでしょうか。
麻婆 僕は半袖がいいって言われて。
トシダ デブはねぇ。
麻婆 難しいんですよね、デブの漫才衣装って。がっつりスーツ着ると怖くなっちゃうんですよ。でもポロシャツのデブってあんま怖くないんじゃないかなぁって。
—怖いか怖くないかが重要。
麻婆 僕、意外と怖く見られることもあるので。ヘラヘラしてるときはいいんですけど、真面目な感じにすると怖くなっちゃう。
トシダ コンビ組みたてのときは僕がマジで衣装に興味ないというか、何を着ていいかわかんなくて。こいつは養成所出てるので、当時の僕がダメージジーンズで舞台出るのをだらしないと感じてたみたいです。
麻婆 そこは確かにめっちゃ言われた、養成所で。
トシダ なので僕はめっちゃ直された感じですね。メガネもそう。目も全然悪くないんですけど。
麻婆 かけたほうがマイルドに見える。
トシダ 衣装ちゃんとしようって言われなかったらずっとそのままだったと思います。本当サンダルとかで舞台出ちゃうような人間だったんで。そういう面では、麻婆が言ってくれてよかったです。
麻婆 そのまま(オール阪神・巨人)巨人師匠と会っちゃったら大変だったよ(笑)。
トシダ 昔、モグライダーのともしげさんも裸足でやってて、誰かに怒られて靴履き出したとか聞くし。そういう先輩とかの怖さが僕は全くわからなかったんで、こいつ養成所出てた意味があったかなと。
—お二人は今もバイトされているんですよね。
トシダ 放課後等デイサービスという学童の子どもを送迎するバイトですね。知り合いの社長にやってみないかって誘われて始めたんですよ。
麻婆 大丈夫な社長なの?
トシダ 大丈夫な社長……なのかなぁ(笑)。でも子ども好きでもなかったのに2、3年やらせてもらって、今やもう子どもの虜ですね。最近バイトにあまり入れないから悲しいです。めちゃくちゃ会いたい。
麻婆 これ良くないと思うんですよ。僕ホテルのフロントのバイトめっちゃ辞めたいんですけど、相方がバイト辞めたくないって。僕らぐらいの芸歴だとバイト辞めたいがけっこうなモチベーションになると思うんですけど。相方にはそれが全くない。
トシダ 知り合いの社長なんで、すげえいい時給もらってるんですよ。
麻婆 ほんとに大丈夫な社長なのか……。
トシダ 時給よくて子どもも楽しいし、お笑いやってなかったらこっちの世界でって思うときありますもんね。元気もらえますからね。子どもってすごい。日本の宝です。
頭が上がらない女芸人
—一方で、麻婆さんは借金がある。
麻婆 (同期の納言・)薄幸だけじゃないですけど、まあそうですね。まあまあ借りてるだけなんで。
トシダ だからそれなんなんだよ。さっきから借りてるだけって。
麻婆 返すんで。昔やっぱ漫画とか借りたじゃないですか、友達に。そういう感覚です。
トシダ 返さないだろ。
—何かにめっちゃ使っちゃうんですか?
麻婆 いや僕本当に働きたくなくて。とにかくバイトをしたくない。お笑い以外の仕事したくない。ABEMAの『なんてネタだ!グランプリ』っていう動画の賞レースでグランプリ獲って100万円もらったときも、その瞬間にバイト辞めちゃったんですよ。
そのお金もあっという間になくなって、そのままバイトしない生活が続いて、借金増える。
トシダ 完全に怠け者の体でしょ。
—ダブルインパクトの賞金で今度こそ借金が返せますように……。おそらく決勝を機にお仕事たくさん増えると思うのですが、やってみたいお仕事は何かありますか?
麻婆 僕はやっぱりラジオですかね。今もやらさせてもらってるんですけど、できれば夜25時台のラジオとかできたら嬉しい。でも、それやるためには売れてなきゃいけないじゃないですか。だからもっと頑張ろうっていう感じですかね。
トシダ 僕は銀幕デビューですね。映画、ドラマ、国民的タレント、スターになりたいですね。あと、お仕事ドラマの意地悪サラリーマン役めっちゃやりたいんですけどね。メンタル削ってくるタイプ。パワハラ上司。有名になれれば何でもいいです。承認欲求の塊なんで、僕は。
—今「有名になりたい」っていう芸人さんは少ないかもしれないですね。「テレビで世に出たいではなく、ネタで認められたい」とおっしゃる方が多い気がする。
トシダ そんなかっこいいこと言えないですよ。目立ちたいだけです。ネタで勝ち上がりたいなんてよく言えるなと思うけどな~。プレッシャーになるし、ハードル上がんないですか。
麻婆 単独ライブを毎年やってる人とかはそういう感じなのかなと思います。みんなすごいですよ。
トシダ 僕らも単独3、4回やりましたけど、やっぱネタ作るのはしんどいですね。やるのは楽しいんだけど。だから、できてるものを読むだけのドラマがいいですね。
—真空ジェシカの川北さんやトンツカタンの森本さんなど、一足先に有名になった同期へジェラシーを感じることはありましたか?
トシダ いや、ジェラシーなんて、もうそいつらだいぶ早かったですからね。やっと追いつけたというか、あいつらと戦える場所まで来れたのが嬉しい。たぶんあっちからしたら僕のことなんてマジ何も見てないと思います。
「あ、まだいるんだ」「トシダようやってんな」ぐらいの。ほんとに昔から面白かったですからね。「川北世代」と言われるくらい。
麻婆 平野ノラなんか爆速で売れていったしなぁ。めっちゃ普通にファン。
—ダブルインパクトの結果如何で、M-1などでも一気に優勝候補に挙げられるようになりますよね。
トシダ どう考えても優勝候補なわけないですけど。
麻婆 M-1の会見めちゃくちゃスベりましたよ。
—お二人が一番獲りたい賞レースって……何ですか。
麻婆 それは……ダブルインパクトです。
トシダ お前も勉強しだしたな。そう、ダブルインパクトです。
麻婆 本当はSMAホープ大賞です。
トシダ もう獲っただろ。
麻婆 あれはね、当日に賞金をもらえるんで。
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取材・文/西澤千央 撮影/高木陽春