
映画館で「どの席に座るか」──誰もが一度は悩んだことのあるこのテーマに、多くの共感が集まっている。きっかけは、Xに投稿された一枚のヒートマップ画像だった。
劇場で最も人気の席とは……
投稿したのは、映画あるあるなどを日々発信しているmaiさん。SNSで回答を募り、数百件に及ぶ回答を集計した結果、「どこに座るか」にまつわる人々のこだわりが、驚くほど鮮明に浮かび上がってきた。
最も人気が集まったのは、スクリーンの中央にあたるエリア。特に支持が厚かったのが、前方に通路がある列の中央席だ。「ど真ん中」「前に人がいない」「足を伸ばせる」「音響バランスが良い」「出入りしやすい」「お手洗いに立ちやすい」──見やすさ、快適さ、気遣いのいらなさ──そのすべてが揃った、まさに“ベスト・オブ・ベスト席”だ。
一方で、maiさん自身も驚いたというのが最前列中央席の人気だ。「首が痛くなりそう」「近すぎて視界に収まらない」──そんな印象を持たれがちなこの席だが、実は根強いファンがいることが判明。「とにかく集中できる。誰にも遮られない」「スクリーンの中に入り込むような感覚がある」「前の人の頭が視界に入らない安心感が最高」など、映画館を全開で満喫しようという姿勢が回答から伝わってくる。
また、真逆の位置で人気だったのが、最後列の端っこの席だ。アンケート回答者の約4%がこの席を選び、その理由は非常に具体的。「壁にもたれてラクに座れる」「他人に気を使わず、安心して見られる」「ポップコーンを好きなだけ食べられる」「ドリンクホルダーもひじ掛けも自分のもの」など、自分の空間を確保し、他人のノイズを遮断したい──まるで“映画館の中に自分の部屋をつくる”ような感覚が、その人気を支えていた。
また、劇場内のさまざまな場所で人気が高かったのが通路に面した席。トイレに立ちやすく、出入りもスムーズ。「いつでも抜け出せる安心感」は、映画に集中するための条件にもなっているようだ。
さらに、前方ブロックの“後ろが通路”の席も、「後ろから足を蹴られない」という安心感から密かな支持が。こうした“細かな防衛線”が、座席選びに現れているのが興味深い。
一番不人気の席は誰もが納得の……
一方、ほとんど票が集まらなかったのがスクリーン前から2列目(B列)。中央席を除き、他はほぼ“空白地帯”になっていた。どうせ前に行くなら、いっそ最前列で足を伸ばしたいという思いから、だれも選ばなかったのだろうか。中途半端すぎて、誰の“推し席”にもなれなかった──という感じだ。
maiさんはこのアンケートを受けて、「見やすさだけじゃなく、“自分の空間を守る工夫”とか、“他の人の邪魔にならないように”っていう配慮も見えてきたのが面白かったです」と話す。
また、左右の偏りもなく、ヒートマップの形は左右対称の美しいバランスを描いたのも意外だった。実際に集計後、maiさんが映画館に足を運ぶと、座席の分布はアンケートと同じようだったという。
今回のアンケート結果からもわかるように、映画館とは映画を見る場所であるが、同時に“他者への気づかいの場”であり、“できる限り他者に邪魔されたくない”という願いが強く表れる場所でもある。
実際、映画館でのマナー違反は、SNS上でたびたび話題になる。そうした背景もあり、観客のあいだで「座席選び」はどんどん真剣味を増している印象だ。
中には、席どころか「時間帯」や「劇場そのもの」を慎重に選ぶ人もいる。都内に住む30代の映画好き女性・Aさんもそのひとりだ。
「私は、席はもちろんですが、それと同じくらいに“時間帯”が重要だと思っています。ざっくり言えば、平日の夜は民度が最高で、休日の昼は最悪。仕事終わりの大人が多い平日夜は、基本的に静か。逆に、休日の昼は学生やファミリー層が多くて、ガヤガヤする確率が高いんです」
劇場選びも慎重だ。東京には映画館の選択肢が多いが、Aさんはよく利用する「TOHOシネマズ」に行く際、近所かどうかではなく、その土地の雰囲気で決めているという。
「都内だと一番避けるのは、ファミリー層や若者が多い錦糸町ですね。日比谷も混みすぎていて、カップルのデート利用が多いので、席ガチャで外れると最悪なことになります。また、いろんな種類の人が集まるから、想像もつかない方向からのバッドマナーに遭うこともあります」
では、どこなら安心できるのか?
時間帯や劇場、予約状況までチェックするガチ勢も
「圧倒的に日本橋です。
Aさんはここからさらに、席の予約状況までチェックして「安心できる座席の配置」まで考慮している。
「ネットで空席状況が見られるじゃないですか。あれで“ポツン”と1席だけ埋まってる場所の近くって、結構安心なんですよ。たいてい一人で来てる人で、映画好き。しゃべらないし静か。まあ、まれにとんでもないガサツなおじさんに当たることもありますが……」
また、2席セットで埋まっている場合は、カップルや夫婦のことがほとんどだという。一番よく見る埋まり方で、そこまで警戒はしていないそうだ。ただ、3人以上が並んでいる席は要注意だと話す。
「3人並んでると、まず間違いなく友達かファミリー。しゃべる確率が高い。だから私は、そういう集団の近くは極力避けます」
映画館の体験は、スクリーンと音響だけでは決まらない。
もちろん、映画館に来る人全員のマナーがよくなれば、そんなことを気にしなくても済むようになるのだが……。
取材・文/集英社オンライン編集部