
1945年8月9日11時2分、長崎市に落とされた原爆により、街は壊滅的な被害を受けた。80年前の戦争の悲劇を10代の少女たちの視点で描いた映画『長崎―閃光の影で―』で、主人公の未来を照らす重要な役どころで出演した南果歩さん。
映画は戦争を知る手掛かりとしてすごく大きな役割を担う
──映画『長崎―閃光の影で―』は、原爆投下という悲劇を看護学生だった少女たちの視点で描いた物語です。
戦争で命を落とした方の痛みが一番大きいことは確かです。でも、残された人間たちが厳しい状況下でどう生きていくかということも、想像を絶する過酷さがあったと思います。
今回の映画に登場する3人の少女たちは、生きていることへの罪悪感だったり、救えなかった命に対しての悔やむ気持ちだったり、そういうものを全部引き受けて生きていかなければならない。とても大きなプレッシャーだったと思います。
──南さんが演じたのは、修道院で孤児たちの世話をする令子役。大きな母性を感じさせるキャラクターは、映画の中で一筋の光となります。
主人公のスミは母親を亡くした赤ん坊に対し、自分が看護学生としてもっと何かできたのではないかという気持ちを抱えて令子を訪ねてきます。
申し訳なさを感じ続けるよりも、しっかり生き続けること、そして悲劇を忘れないことを伝えたいと思い、大切に演じました。
──今年は戦後80年です。時間の経過とともに、当時のことを自分事として捉えることが難しくなっています。
そういう意味でも、映画は戦争を知る手掛かりとしてすごく大きな役割を担うと思っています。私が個人的に強く印象に残っている戦争映画は、メリル・ストリープの代表作である『ソフィーの選択』です。
アウシュビッツ収容所にいた主人公が、幼い娘と息子をガス室に連れていこうとする人物に向かって、「息子はやめて」と叫んでしまう。とっさに出てしまった一言を一生悔い続ける映画です。
もちろん私も当時のことは資料でしか知りません。でも、その瞬間の主人公の心情や罪の意識は、私も一緒に擬似体験することができました。『長崎―閃光の影で―』も、戦時下で青春時代を送る若い女性たちの葛藤を自分に置き換えて、擬似体験できる作品だと思います。
人生の中でアクシデントは数々あった
──戦争によって未来ある少女たちの人生が激変してしまう物語ですが、人は誰しも、外的要因で大きな転換を促される瞬間があると思います。
私も不可抗力によるアクシデントは数々ありました。でも結局、上手くいったことよりも上手くいかなかったこと、思い通りにならなかったことのほうが自分の栄養になっていると思います。
上手くいったときの幸福感は瞬間的なもの。幸せって残らないものだと思うんです。でも誰かに傷つけられたら人を傷つけたいと思わなくなるし、自分が辛い思いをしたら、それを人に与えたいと思わなくなる。
──では、さまざまなアクシデントを経験してよかったと思われますか?
アクシデントがない人生のほうが全然いいと思います(笑)。でも、起こっちゃったことは仕方がない。そんなときはとことん落ち込むのが得策だと思います。
──とはいえ、家族がいたり、仕事があったりすると、無理をしてしまう大人も多いと思います。
平気なふりをしながら心の中で泣く方もいますが、その葛藤が一番疲れるんです。「調子悪いの?」と言われたら、「大丈夫」と無理を言わないほうがいい。気晴らしに何かをするとか、中途半端が一番ダメ。辛いときは「辛い」と言ったほうが、自分の心は健全です。
地の底まで落ちたら、あとはもう勝手に上がってくるんですよ。私自身も、ふと自分が笑えるようになったことに気づいたとき、自分が地の底から這い上がったことを感じました。すごい生命力を持っているんですよね、人って。
嫌な言葉は受け取らない。それが自分を守る術
──南さんが日々、大切にしている言葉は?
それはもう断然、岡本太郎ですね。特に好きな言葉は「孤独がきみを強くする」。最強だと思います。
太郎の言葉はすごいんですよ。ただ前向きなだけではなく、暗闇の中の光という感じ。本を枕元に置いて、寝る前に開いたページを読むようにしています。
──人の前に立つという職業柄、時に目にしたくない言葉に触れることもあるのでは?
そんな時は、動物園の動物を見るような観察者になるんです。「え、なんでわざわざこんな嫌なこと言うんだろう。おもしろいな」って感じで(笑)。
観察するということは交流を持たないということ。言葉を受け取らないし、傷つくこともありません。
今、目の前にいる人を最優先にして、自分がときめく気持ちを大切にする。それが大事だと思います。
──最近、ときめいたことはなんでしょうか?
友達から「『ありがとう』っていっぱい言ってくれてありがとう」と言われたのは、めちゃくちゃ嬉しい瞬間でしたね。そんなことを言ってくれる友達、すごいなって(笑)。言葉はマジックだなと思いました。
男女問わず、そういう言葉を言われるととても嬉しいし、ときめいている自分にもときめきます。
──素敵ですね。ちなみに新たなパートナーにときめく未来は?
それは予測不能です(笑)。あはは!
──昨年はお孫さんが誕生されたそうですね?
祖母としての立ち位置がもう、まったくわかっていなくて。一緒に遊んで、即興の歌を歌ったりしています。
自分の息子が生まれたときのことは大変すぎて記憶がハイスピードですが、孫の場合はちょっと不思議な関係なので、「こんな人に出会えてよかったな」という穏やかな感覚です。
──インスタグラムにも「60歳年下の友に出会えた喜びを感じています」と投稿されていました。
本当にそんな感じ。「いっぱい一緒に遊ぼうね」って思ってます。ただ、次の次の世代を担う生まれたての人が身近にいると、世の中を憂う気持ちは強くなります。本当に戦争のない地球になっていけるのかな、って。
──私たちにできることは?
身近な隣の人と仲良くすること! それが戦争をなくす第一歩だと思います。
取材・文/松山梢 撮影/石田壮一 ヘアメイク/黒田啓蔵(Iris) スタイリスト/坂本久仁子