
参議院選挙で国会に橋頭保を築いた参政党。主要公約の一つに「日本人を育む~教育・人づくり」を掲げる。
「フリースクールは不登校児の受け入れ先」としていたが…
保守系団体で発言を続けてきた神谷氏は2007年に大阪府吹田市議に当選し、2010年には保守系政治団体「龍馬プロジェクト」を立ち上げた。
その後、2012年の衆議院選挙で大阪13区から自民党公認で出馬し落選したものの人脈づくりを続けた。そして「政党DIY」というYouTubeチャンネルの後身として2020年4月に結党したのが参政党だ。
その3か月後の同年7月、神谷氏は妻子と住居を加賀市に移し「子供たちの学校を中心とした新しいコミュニティを作り面白い大人を集めてこれからの日本のリーダーを育成します」とうたう“加賀プロジェクト”を始めた。なぜ加賀だったのか。
「神谷氏は“国や地域の未来をわが事として考えるリーダー”の育成をする学校の候補地を探す中で森喜朗元首相の秘書を務めた宮元陸・加賀市長と意気投合したそうです。
移住してまず認可外保育園をオープンさせ、支持者らも移り住み始めたんです。人口6万人程度の小さな市なので、そうした人たちは徐々に影響力を持ってきました」(地元政界関係者)
ホームページによると、加賀プロジェクトは「無農薬・無肥料・除草剤不使用」が売りの米や野菜の販売と、「経営のセンス」を身に着けるための支援、さらに「自分の頭で考え、行動できる人間になる」ことを目指す教育の三本柱で成る。
筆頭が認可外保育園と小学生以上が対象のフリースクールを運営する教育事業だ。
「市は2021年に、旧黒崎小学校校舎をフリースクール用に無償で神谷氏が理事を務めていた一般社団法人『てくてくの杜(もり)』に貸し、2022年には旧看護学校宿舎を私塾と寮に使用する目的で有償で貸し出しました。
いずれも公共の施設で、旧黒崎小を貸す際に市は『フリースクールは不登校児の受け入れ先』と説明しましたが、実際に通っているのはほとんどが神谷氏の支持者の子です。旧看護学校宿舎も地元自治会の反対を押し切って貸し出されました」(同関係者)
「ヘビをスープに」と写真付きでネットにアップ
この賃貸借契約について地元記者は、「市や神谷氏は否定しましたが、公共施設が政治活動に利⽤されないか警戒する声は少なくありませんでした」と話す。
実際はどうだったのか。保育園の近くに住むAさんが証言する。
「保育園には定期的にバスで50人以上の入りきれない数の人が来ていたんで、最初は宗教か何かと思ったんです。後で神谷さんが説明会のようなことをやっていたと聞きました。
そのうちに保育園だと分かったんですが、子どものやりたいようにやらせているようでした。それというのもパンツ一丁の子が飛び出してきて隣の建物との間の塀の上を走り回ったり、汚い川で釣った魚を焼いて食べたりもしてましたからね。
職員の大人も、子どもがケンカをしようが塀から落ちようが何も言わなかったので少し違和感を覚えました」
移住者についてはAさんは、
「この周辺でも多くの空き家が次々と埋まりました。移住者は参政党の支持者みたいで、子どもはほとんどがてくてくの杜へ行きますね。てくてくの杜の人は地域と仲良くしようとします。でも『加賀は参政党の聖地』とか揶揄する地元の人もいて、やっぱりちょっと距離があります」
と話す。別の住民Bさんは、
「できた当時は神谷さんも頻繁に来ていて、シュッとしてハンサムでしたよ。
と普段の雰囲気を証言した。
てくてくの杜はホームページでも理念として「褒めない」「大人こそ学ぶ」「叱らない」「ありのままを認める」の四つを挙げており、子どもが自由に動くことを重視しているようだ。
「2023年8月にはヘビを捕まえた子が食べたいと言ったから『スープにしたらおいしかった』とスタッフが写真つきでネットに書いたこともあります。普通なら叩かれるのではと考えそうですが、“これだけのびのびできるフリースクールなんです”という宣伝のつもりかもしれませんね」(住民Cさん)との証言もある。
消滅可能性都市、子連れ世帯の移住を喜ぶ住民も
いっぽう移住者と住民の溝は目に見えることもあったという。
「去年の11月には旧黒崎小の体育館でてくてくの杜が新嘗祭を行ない、事前に使用許可を取っていた地元子供会の行事が開けなくなりました。
新嘗祭でオンライン参拝をさせて玉ぐし料を取ったとの指摘もあり、公共施設で宗教色の強い儀式を行なった上に金集めをしていいのかと市議会で問題にもなりました」(地元政界関係者)
「去年元日の能登半島地震の時に、避難所に指定されている旧黒崎小に住民が避難してきたのにカギがかかっていて入れなかったんです。てくてくの杜と住民の連携が取れていないからです」(Cさん)
加賀市は2014年から「消滅可能性都市」に指定されており、人口減が深刻だ。子連れ世帯の移住を喜ぶ住民もいる。
高齢のDさんは「子どもたちに畑の作物を持って帰らせたり、逆に園でつくったものを子どもたちがくれたりすることもあってそんな機会が増えてうれしいです」と喜ぶ。
神谷氏も2022年3月、ブログで「そもそも我々が加賀市に移住したのは『加賀市は人口が減り、遊休施設がたくさんあるから我々が移住しそこでフリースクールなどをつくり移住者が増えるのを歓迎します』と言っていただいていたからです。」と主張したことがある。
ただ、そんな加賀も転機を迎えている気配だ。教育関係者によるとフリースクール在籍の児童・生徒は昨年9月の37人から現在18人に減っている。
「複数の子が市立の小、中学校に転校しました。学力低下を理由にあげる保護者も複数います。公立に移ると部活もしていきいきしてくる子もいます」と同関係者は話す。
住民のBさんは「最近は神谷さんも忙しいからこっちには全然来てないんでしょ。だからなのか、園舎への人の出入りも少ないし静かなもんだよ」と言う。
こうした住民の証言や旧黒崎小の施設をめぐるトラブルについて、集英社オンラインはてくてくの杜に確認や見解を求めた。すると代表者の男性から「子供たちの静かな学びを大切にしておりますので、その阻害となるようなメディアへの取材対応は行なっておりません」との返答が来た。
その中で代表者は、てくてくの杜は「参政党との関係は一切ありません」とした上で「神谷氏は7月27日をもってコミュニティを脱退しております」とも説明した。
参政党が参議院選挙で躍進した後に、神谷氏がこれら教育プログラムから手を引いたという意味なのか。多くの人が子とともに移住した加賀プロジェクトはどこへ向かうのだろうか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班