
市場平均に投資をするインデックス投資。個別の企業分析を必要とせず、ひとつの投資信託を買うだけで簡単に多くの企業に分散投資できることから、いま人気が高まっている。
20年前よりインデックス投資の解説ブログを書き続け、書籍の累計部数も55万部を突破した水瀬ケンイチの最新作『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』より抜粋・再構成し、その疑問への答えをお届けする。
経済拡大のエンジンは、「人間の欲望」
投資を始めたばかりの人、あるいは投資に興味はあるがまだ一歩を踏み出せない人に、よく聞かれる質問がある。それは「そもそもなぜほったらかしでも株価は上がると言えるのか?」という根本的な問いだ。
とても重要なことであるにもかかわらず、なぜかほとんどの投資本ではふれられていない。もしくは、意図的にぼやかされている。ここでは、この重要な問いに対する答えをまとめてみたい。
株価が長期的に上がる最も根本的な理由は、「資本主義経済の拡大再生産というしくみ」だ。
資本主義経済の根底に流れるのは「人間の欲望は尽きることがない」という前提である。よりよい住居に住みたい、より早く目的地に着きたい、よりおいしいものを食べたい、より健康でありたい、より安全でありたい、より豊かな教養を身につけたい……。このような人間の欲望が経済を動かす原動力となっている。
企業は、この尽きることのない人間の欲望に応えるため、よりよい製品やサービスを開発し、提供する。そのために利益の一部を研究開発や設備投資に回す。
もう少し具体的に考えてみよう。仮に、ある企業が100万円の資本金で事業を始め、1年間で10万円の利益を出したとする。この利益のうち1万円を株主に還元し、残り9万円を再投資する。109万円を活用することで企業の生産性が向上し、翌年はさらに多くの利益を生み出す。このサイクルが繰り返されることで、企業価値は着実に増大していく。
世界中の企業がこのような活動を行う結果、経済全体が拡大していく。株式投資とは、このような企業活動の成果を株価上昇と配当により享受するための手段なのだ。
大恐慌、大戦争、オイルショック、リーマン・ショックなど、経済に大きな打撃を与えるできごとは過去に何度もあった。しかし、そのたびに人類は知恵を絞り、新しい技術や仕組みを生み出し、乗り越えてきた。このような危機を乗り越えてなお経済が拡大し続けてきたのは、「人間の欲望」という力強いエンジンがあるからだ。
この「人間の欲望」は資本主義経済において二つの側面から作用している。
資本主義経済の本質を理解すると、株価が長期的に上昇するのは決して偶然ではなく、システムに組み込まれた必然だと言える。「よりよいもの」をめざす人間の止まることのない欲望が、企業価値の向上を通じて株価の上昇をもたらすのだ。
とはいえ、ここで「株価が上がる」という場合、すべての個別企業の株価が上がり続けるわけではないことに注意が必要だ。企業には盛衰があり、衰退する企業もあれば、新たに台頭する企業もある。重要なのは、市場全体としては経済成長とともに上昇していくということだ。だからこそ、全世界に分散投資を行うインデックス投資が有効なのである。
ファイナンス理論では「リスクプレミアム」という概念で株式のリターンを説明することがある。これは、株式は価格変動の少ない安全資産と言われる国債などよりもリスクが高いので、その分期待できるリターンも高いという考え方だ。このリスクプレミアムは、資本主義経済の拡大再生産というしくみによってもたらされるリターンの構成要素を、別の角度から説明したものである。
つまり、リスクプレミアムの考え方と資本主義経済の拡大再生産という見方は相反するものではなく、同じ現象を異なる視点から捉えたものと考えることができる。
本質的には、人間の欲望を満たすために企業が絶え間なく活動し、経済全体が拡大していくという資本主義経済の仕組みが、株価上昇の根本的な理由なのだ。だからこそ、「ほったらかし」でも株価は長期的には上がるのだ。
過去200年、株式は圧倒的に高いリターンをもたらしてきた
上記の根拠を強力にサポートするのが、過去の実績だ。株式市場の歴史を長期的に見ると、株価は他のどの資産クラスよりも圧倒的に高いリターンをもたらしてきた。
ジェレミー・シーゲル博士の『Stocks for the Long Run』(邦題:『株式投資』第6版、2021年)では、1802年から2021年までの219年間にわたる株式市場のデータが詳細に分析されている。同書によると、1802年に株式市場に投資した1ドルは2021年までに233万ドル(正確には2,334,920ドル)にまで成長したことが示されている。なんと233万倍である。
これに対して、同じ1ドルをキャッシュ(現金)で持ち続けた場合、その価値は0.043ドル、つまり20分の1にまで減ってしまったのだ。この圧倒的な差が、株式投資の威力を如実に示している(図1)。
これほど長期間にわたって安定したリターンを示している投資対象はほかにない。現金や債券、金といった他の資産クラスと比較すると、株式は圧倒的なパフォーマンスを示している。特に現金はインフレによって価値が目減りし続けており、長期保有には適さないことが明らかになっている。
特に注目すべきは、この株式の圧倒的なパフォーマンスが「複利」の力によって実現されたことだ。株式投資の年平均リターンは、債券や金と比べてそれほど大きな差があるようには見えないかもしれない。しかし、この小さな差が200年という長期にわたって複利で積み重なると、1ドルが233万ドルになるという途方もない資産価値の差が生まれる。このような「複利の奇跡」は、長期投資の威力を如実に示している。
短期的に見れば、株式市場は上下に大きく変動し、時には急激な暴落を経験することもある。しかし、10年、20年、さらには50年という単位で見ると、株式は常に上昇トレンドを維持してきた。第一次世界大戦、世界恐慌、第二次世界大戦、オイルショック、ブラックマンデー、ITバブル崩壊、リーマン・ショック、コロナ・ショックなど、幾多の危機を乗り越えてもなお、株式市場は復活し、その価値を高めてきた。
株式の長期リターンについては、同書で株式が過去200年間にわたりインフレ調整後で年率6.6%のリターンを生み出してきたことが実証されている。
過去の実績から学べることは、短期的には株価は上下に激しく変動するものの、長期的には経済成長とともに上昇する方向性を持っていることだ。そしてその上昇率は、他のどの資産クラスをも圧倒する水準にある。これは単なる希望的観測ではなく、200年という膨大なデータに裏付けられた事実なのだ。
よくいわれるように、過去のデータは将来のリターンを保証しない。
文/水瀬ケンイチ
『彼はそれを「賢者の投資術」と言った 水瀬ケンイチのインデックス投資25年間の道のり全公開』(Gakken)
水瀬ケンイチ
経済評論家の山崎元氏(故人)が全幅の信頼を寄せた個人投資家・水瀬ケンイチ氏。
インデックス投資を世に広めたベストセラー『ほったらかし投資術』で山崎氏と共著した水瀬氏が、自らインデックス投資を実践し、ごく普通の会社員として歩んだ25年間のリアルな投資の軌跡を、資産額の推移とともに余すところなく明かします。
これは単なる成功物語ではありません。貯金ゼロからのスタート、チャートとにらめっこし自分を見失った「トイレ・トレーダー」時代、そして資産が半減し、罵詈雑言の嵐にさらされたリーマン・ショックの絶望。数々の困難や、利益の出ない長い停滞期を「愚直な継続」で乗り越えた先に、何が待っているのか。投資の先に本当に得られるものとは――。
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