
中国及び中国大陸の民とのあいだに起きる葛藤の多くは、理解不足から生じていると語るのは、日本を代表する中国ウォッチャーの近藤大介氏。そんな彼が中国の摩訶不思議な食文化について解説する。
『ほんとうの中国 日本人が知らない思考と行動原理』 (講談社現代新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。
「食べるために生きる」中国人
それにしても、日本人は中華料理が好きである。だが、日本人が日々、何気なく食べている中華料理は、中国四千年の伝統に基づいた奥深い食物だ。
まず食材が豊富である。「中国人は足のあるものは机以外何でも食べる」(中国人除了桌子腿不吃、其他腿都吃)という言い回しがあるほどだ。
私は若い時分に北京大学に留学し、大学近くにあった北京動物園によく通ったが、中国人参観客たちの会話に、いつも驚いていた。大人たちはむろん、社会科見学で来た女子中高生たちでさえ、「あの動物おいしそう」と言い合って各動物を眺めるのだ。日本なら「あの動物かわいい」となるところだが、「おいしそう」なのだ。
「食は中国にあり」(食在中国)という言葉があるが、ことほどさように、中国人の「食」に対する貪欲さには、圧倒される。
日本人は「生きるために食べる」が、中国人は「食べるために生きる」。
たとえば、中国人とランチすると、話題の半分くらいが、その日の夜に何を食べるかだったりする。中国人と初めて行くレストランへ入ると、店内の客たちが何を食べているか、くまなく眺めまわしてから席に着いたりする。
毎食の食べる量にも圧倒される。
すると中国人は言うのだ。「それなら今日は胃に優しいものを食べよう」
豊富な調理法
中華料理は調理方法も豊富である。俗に「十大調理法」と言われるのが、「炒」(炒める)「蒸」(蒸す)「煮」(煮る)「煎」(煎いる)「炸」(揚げる)「燜」(フタをして煮込む)「焗」(蒸し焼きにする)「炖」(とろ火で煮込む)「煨」(弱火でじっくり煮込む)「焼」(焼く)。
具材を大きな中華鍋にぶち込んで、中華油(ごま油、ひまわり油、菜種油、大豆油、ピーナッツ油、豚の背脂など)とともに火にかけるのが基本である。それは第一に消毒のためで、第二に体温に近づけて体内に摂取したほうが消化によいからだ。
1990年代ごろまで、日本に留学に来た中国人は、冷たいおにぎりがコンビニで売られているのに仰天したものだ。そのため、セブン‐イレブンが北京に進出した際には、おにぎりは店内の電子レンジで温める商品として売り出した。
同様に、当時の中国人留学生たちが日本で驚き入ったのが、町中華で供されている「チャーハン餃子定食」。第一に、餃子は中国では主食として食べるので、「白米に合わせる」のはご法度である。
日本人の感覚で言うなら、白米とパン、もしくは白米とパスタを同時に食べるようなものだ。
第二に、チャーハンも焼き餃子も、二日目に食する「残り物料理」だからだ。
中国四大菜系
中華料理は伝統的に「四大菜系」もしくは「八大菜系」に分類されてきた。
「四大菜系」とは、「魯菜」(山東料理≒北京料理)、「蘇菜(淮揚菜)」(江蘇料理≒上海料理)、「川菜」(四川料理)、「粤菜」(広東料理)。
「八大菜系」の場合は、これに「閩菜」(福建料理)「浙菜」(浙江料理)「湘菜」(湖南料理)「徽菜」(安徽料理)が加わる。
「四大菜系」の大まかな特徴は、それぞれ次のとおりだ。
山東料理……「母なる大河」黄河下流域の料理で、後に北京の宮廷料理にも取り入れられた。塩味を重視し、タマネギやニンニクを使った歯ごたえの柔らかい肉・魚・野菜の家庭料理が多い。
江蘇料理……「南の大河」長江(揚子江)下流域の料理で、味付けはさっぱりして繊細。川魚の料理も多く、「和食にいちばん近い中華」とも言える。
四川料理……トウガラシを使ったピリ辛料理で、麻婆豆腐、エビのチリソース煮(乾焼蝦仁)など、庶民的な料理を主とする。日本人になじみが深い。
広東料理……南部の広東省と香港を中心にした料理で、高級海鮮料理が多く、味付けは淡泊。スープが必須で、焼売や餛飩などの飲茶(間食用のつまみ料理)も多彩。
対照的な和食と中華
和食と中華料理は、対照的な点が多い。
まず、和食は一膳一膳、各人に供されるが、中華料理は円卓の中央に大皿が置かれ、めいめいが箸でつついて取り分ける。箸の置き方も、和食は横に置くが、中華は縦に置く。箸先も日本の箸のほうが繊細だ。
調理方法も、和食は刺身など生ものを重視するが、中華は前述のように基本的に火を通す。そして盛りつけも、和食は繊細さを旨とするが、中華は大皿に大胆に盛りつける。
そのため日本料理を「腹一杯にならない」(吃不飽)「目で食べる料理」(用眼晴吃的菜)と評する中国人もいる。
ちなみに経験則から言って中国人観光客が日本で最も好む料理は「焼き肉」である。
文/近藤大介
『ほんとうの中国 日本人が知らない思考と行動原理』 (講談社現代新書)
近藤 大介 (著)
中国人は何を考え、どう行動するのか?
日本を代表する中国ウォッチャーが鋭く答える。
中国人と日本人。なにかとすれ違う背景には、日本人が知らない中国人特有の思考と行動原理が背景にあった。
・大陸が生み出す研ぎ澄まされたリスク感覚
・勝者がすべてを総取りする「超」弱肉強食社会
・日常生活は、他者との絶え間ない「闘争」
・中国人は性悪説で考える。騙すのが悪いのではなく、騙される方が悪い
・すべてにおいて「カネ」優先。
・「愛社精神」「絆」は、中国人には理解できない