〈SnowMan目黒蓮の驚くべき経済効果〉新規出店ゼロでも売上2割増のZoff…“推し活”消費の最前線
〈SnowMan目黒蓮の驚くべき経済効果〉新規出店ゼロでも売上2割増のZoff…“推し活”消費の最前線

アイウェアのZoffが好調だ。運営会社インターメスティックの8月の全店売上は前年比で2割増だった。

驚くべきことに、この月は新規出店を行っていない。7月に1店舗を出しただけである。なお、7月は3割近い増収だった。

7月からZoffのグローバルアンバサダーに就任した人物がいる。Snow Man目黒蓮だ。インターメスティックは、目黒蓮を起用したテレビCMをはじめとしたプロモーション施策が効果をあげていると発表している。“推し活”消費が絶大な成果をあげた例といえる。

絶妙なタイミングでZoffのアンバサダーに就任

Zoffは経営戦略も巧みな会社だ。これまでにサングラスにおける新たな市場を開拓している。

矢野経済研究所によれば、2023年のメガネ市場は0.1%の増加であり、高止まりが予想されていた。一方、サングラスは8.2%もの増加だ。コロナの収束で外出する機会が増えたことに加え、温暖化が進む近年の強い日差しの影響でUV対策としてのサングラス需要が旺盛になったのだ。

サングラスはレイバンやトムフォード、グッチ、オークリーといった海外のハイブランドと、雑貨店などで販売されている低価格商品の二極化が進んでいた。

ところが、Zoffは5000円から1万円程度の中価格帯のサングラスを主力商品にしたのだ。

その戦略が当たり、2024年12月期の全店売上は16.6%の増加だった。今期は好調だった前期の揺り戻しを受けてもおかしくないタイミングだったといえる。実際、日差しが強い行楽シーズンの5月の全店売上は7.7%の増加に留まった。4月に3店舗の新規出店をしていたにもかかわらずだ。

しかし、目黒蓮をアンバサダーに起用した途端、全点売上で一気に29.4%も伸びたのだ。さらに、新規出店をしていない8月は22.8%増である。

 Zoffが目黒蓮を起用したタイミングは絶妙だった。彼のCM好感度が急上昇していたのだ。

2024年からCM出演しているキリンビールの「晴れ風」は、発売から1カ月で同社の過去15年のビール類新商品最大の売上を達成するヒットとなった。これはビールを購入する人の3分の1が「晴れ風」を購入した計算になるという。

エム・データによる2024年TV-CMタレントランキングでは、20位以内に目黒蓮の名前はない。

しかし、2025年上半期のCM総合研究所による好感度ランキングでは、3位に浮上しているのだ。「晴れ風」効果に加え、王子ネピア「ネピアティッシュ」、キッコーマン「いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ」などのCMに次々と出演し、好感度を高めたわけだ。

大スターが生まれづらい時代に反して成長する“推し活”消費

Zoffのサングラスの購入を支えているのは、どうやら“推し活”消費と考えて間違いなさそうだ。

SNSで目黒蓮の写真とともにサングラス購入の報告をしているのは女性が中心だ。Zoffのサングラスはシンプルなデザインと手ごろな価格、調光や偏光などの機能性も高いために男性の購入層に厚みがあった印象がある。そのターゲット層を女性へとスライドしたことで、売上が急増したのだろう。

推し活はいまや消費活動の最前線とも言えるものだ。マーケティングを手がけるCDGの推し活総研は、2024年の市場規模を3.5兆円と試算している。これは日本の医療機器市場に匹敵する大きさだ。

かつてアイドルや人気タレントは若者文化そのものを形成する力があった。その筆頭とも言える存在が木村拓哉だ。テレビドラマ『Beautiful Life ~ふたりでいた日々~』で彼が乗っていたヤマハのオートバイTW200は異例のヒットモデルとなった。木村拓哉を象徴するアメカジスタイルで、TWに乗るのが当時の若者文化として定着していた。



しかし、テレビや雑誌の影響力が低下した今、一人のタレントが若者すべてを巻き込んで熱狂させるのは不可能に近い。一方で、トレンドとなったのが一部のコアファンによる推し活である。“推し”に対するコアファン一人当たりの出費をいかに大きくするかがポイントなのだ。

博報堂は「リーチ力・支出喚起力ランキング」で、コンテンツビジネスの消費動向を調査している。それによると、「タレント・人物」の2025年におけるコンテンツ支出層の人数は2019年比で13%減少しているが、コンテンツの支出額は調査以来過去最高の8万5000円を超えた。2024年比で6034円増加したという。

サンリオの辻朋邦社長は日本経済新聞のインタビューで、“推し活”消費に対して「昔は家計の余剰のところで消費をしている感じでしたが、エンタメ消費という枠が生まれ、消費者が使えるお金全体のなかで比率が高まってきたと思います」と語っている(「推し活の消費は予算が別枠」 サンリオの辻朋邦社長に景気を聞く」)。消費者は推し活予算を確保しているというわけだ。

この“推し活”消費の盛り上がりもさることながら、目黒蓮の活動地盤に変化があった点も見逃せない。

グループから個人の意思を尊重する時代に

ジャニーズ事務所から生まれ変わったSTARTO ENTERTAINMENTは、新体制の発足に際して、「タレント自らがその活動の方向性に応じて自分自身で活躍のスタイルや場を求めていくことになり、当社はプロデュース機能やマネジメント機能を各タレントに提供し、タレント活動をサポートしていきます」と発表している。

事務所としてグループを売り込むことよりも、個人の意思や自由度が尊重されるようになったのだ。

一方で、前述した博報堂「リーチ力・支出喚起力ランキング」における支出喚起力ランキングTOP20で、2019年と2020年の1位を独占していたグループがだ。

2019年が380億円、2020年が624億円である。支出喚起力はファンの実際の購買を目的とする際に、どれくらいの売上規模が見込めるかを推計するものだ。

2025年はSnow Manもランクインしているが、1位の櫻坂46、2位のGLAYに次ぐ3位で、金額も315億円と嵐のような力強さに欠けている。今年1月にリリースしたベスト盤「THE BEST 2020-2025」は累計セールスで150万枚を突破しているにもかかわらずだ。

人気タレントが「個人」として活動の場を広げ、“推し活”消費に期待する企業がアンバサダーとして起用するというビジネスは、今の消費動向にフィットしている。Zoffの好調ぶりはそれを示す好例といえるのではないだろうか。

取材・文/不破聡 サムネイル写真/集英社オンライン編集部

編集部おすすめ