今、プロレスが熱い。正確にいえば、「第三次黄金時代」を迎えている新日本プロレスが熱い、となる。
70~80年代の「第一次黄金時代」には、試合を中継するテレビ朝日系『ワールドプロレスリング』は金曜夜8時に放送され、平均視聴率20%を獲得するほどの人気番組だった。
この頃を支えた立役者の1人が、実況を務めた古舘伊知郎だ。豊富なボキャブラリーを駆使し、流れるように畳み掛ける古舘伊知郎の名実況は、プロレスの興奮やロマンをお茶の間に伝える架け橋となっていた。
それに続く90年代「第二次黄金期」を支えた実況アナウンサーというと、辻義就(現・よしなり)が印象深い。当初は古舘の二番煎じ的な存在でしかなかったが、その“特異なキャラクター“が表に出てくるにつれ話題を呼ぶことになる。何よりこの辻アナ、天性のヒール(悪役)の素質を持っており、実況を通じてその才能が開花していったのだ。


蝶野の“悪の誘い”に乗ってしまった悲劇


1997年、当時人気絶頂にあったヒールユニット、蝶野正洋率いるnWoと敵対関係にあった辻アナ。暴言を吐かれ、メガネを壊され、蹴り飛ばされと、散々な目に合い続けていた。ついには、蝶野に黒いスプレーで白のYシャツに「nWo」とペイントまでされてしまう。
ここまでは「悲劇の辻アナ」だったのだが、その後の対応がよくなかった。次のシリーズで、あっさりと蝶野側に寝返ってしまったのだ。nWoシャツを着込んだ辻アナが「nWoの辻よしなりです。素の自分に戻った気がします!」とご機嫌モードで登場。
超ハイテンションでnWoを称え始める始末。
それにより今度は佐々木健介ら正規軍の怒りを買い、nWoシャツをビリビリに引き裂かれてしまうはめに……。結局は元サヤに納まる辻アナだったが、双方に大きなしこりを残してしまうのであった。

レスラーを激怒させた 辻よしなりのプライベート暴露事件


2000年、あるレスラーを「根性がある」と伝えながらも、「酒の席ですぐ全裸になってしまうんですから」と余計な一言で実況。さらにプライベートでの酒癖の悪さを延々と暴露してしまう。これに当事者やそのチーム仲間は激怒、実況席で中西学にアイアンクローのお仕置きを喰らってしまうのであった。
中西から、「公共の電波使って、しょーもないことばかり言うなよ!」と怒鳴られながらも、痛む頭を抱えて試合の実況に臨んだ辻アナは、なぜここまでされたのか腑に落ちない様子で、低いテンションのまま試合そっちのけで弁解を続ける。

しかも、「テレビのメディアを向こうに回して来たってことは…ちょっと僕も考えないといけないかも知れません」と、まさかの報復宣言。試合後、中西たちの怒りが増幅したのは言うまでもない。

ヒールの帝王・蝶野をイラ立たせる辻アナのヒール力


微妙すぎるキャッチコピーセンス(武藤敬司に「セクシャルターザン」、越中詩郎に「ド演歌ファイター」など)、年下選手への呼び捨てインタビュー、興奮すると飛び出す「ヒャッハー!」のフレーズなどなど、まさにナチュラルにヒールぶりを発揮してきた辻アナ。
蝶野は「試合内容に関係なく自分が言いたい言葉を言うだけの実況で、試合中に聞こえる度にイライラした」と、辻を襲撃した時の心境を語っている。“ヒールの中のヒール”蝶野をイラつかせる辻アナのヒール力の高さ、恐るべしである。

そんな、無自覚に敵を増やすのが得意な辻アナだが、偉大すぎる古舘の後任とあって、自身の立ち位置を模索している時期は相当に悩んでいたそうだ。
「古舘の二番煎じだ」と言われ、ノイローゼになった時期もあったとか。
しかし、知人から「二番煎じは飲めるお茶だからいいじゃないか」と言われて気持ちが楽になったそう。「究極のプラス思考」と自身を語る辻アナ。そのポジティブさ「だけ」は見習いたいものである。「出がらし」にならないよう、フリーのお仕事頑張ってください!

(バーグマン田形)
※イメージ画像はamazonよりプロレス裏実況