先日最終回を迎えた金曜ナイトドラマ『不機嫌な果実(テレビ朝日系)』は、林真理子原作、1995年~96年に週刊文春に連載され、96年に単行本として刊行された。1997年に石田ゆり子主演のテレビドラマが放映されたが、20年経ち、栗山千明主演で再びドラマ化。
1回目からお風呂、ベッドシーンなど毎回ギリギリの大胆な濡れ場があり話題になっていた。
夫婦、友達、元恋人、新恋人が絡み合う、現実にはありえない狭い世界での不倫5角関係、脇をかためる実力派のねちっこい演技なども印象的。そして、80年代後半のバブル期、90年代の香りがあちこちにちりばめられた、見どころが多いドラマであった。

リッチでおしゃれな登場人物の恋愛にバブルの香り


まず、主人公・水越麻也子(栗山千明)と夫・水越航一(稲垣吾郎)は、世間的には理想的な夫婦に見えるが、結婚5年目にしてすでにセックスレス。いわゆるDINKsだが、この言葉は80年代終盤に新たな夫婦のスタイルとして流行した『doubleincome, nokids』の略語で、共稼ぎで子どもを持たない夫婦だ。

麻也子が独身時代に不倫していた相手で、結婚後に再会し再び不倫関係を続けている野村健吾(成宮寛貴)は、広告代理店勤務、常に複数の恋人がいるモテ男。1980年代末に、もてはやされた高学歴、高収入、高身長の自信に満ちた“3高”男だ。

しかも、キャストの持ち味を生かした味付けで、“高濃度の色気”を放っている。麻也子とのデートは、ホテルで食事をしてワインを飲み、そのままリザーブしていたホテルの部屋へ招き入れる、とバブル期のお約束的な流れだ。しかも、ベッドには赤いバラの花びらがちりばめられ、そのロマンティックな雰囲気に麻也子は心をほだされてしまう。

麻也子の友人、久美(高梨臨)は夫に浮気され現在バツイチ。このバツイチという言葉は、1992年に明石家さんまが自身の離婚会見の時に、額にバツ印を書いて「バツイチです」と言ったことから広まり、『現代用語の基礎知識』1993年版にも掲載された。

登場人物はプール付きの豪邸に住んでいたり、高そうなワインを飲み、羽振りがよさそうなアッパー層だ。
おしゃれで束縛されない関係を好み、なんとなく付き合ったり不倫したりするのは、1981年刊行の『なんとなくクリスタル(田中康夫著)』を思わせる。

1992年の話題ドラマ『ずっとあなたが好きだった』の接点


2016年版『不機嫌な果実』を見て思い出したのが、1992年に最も視聴率が高かったテレビドラマ『ずっとあなたが好きだった』である。
美和(賀来千香子)は、高校時代に大岩(布施博)と惹かれあい恋人同士になるが、同級生の逆恨みで仲を引き裂かれる。その後、父の勧めでエリートの夫の冬彦(佐野史郎)と見合結婚をするが、マザコンで変態の夫と姑(野際陽子)の仕打ちに耐え切れなくなり、昔の恋人の大岩(布施博)と心を通わせる。

『ずっとあなたが好きだった』の視聴率がじわじわ上がったのは、心が冷たく不健全な変態ぶりを“いかにも”に演じた佐野史郎の演技だろう。衝撃的でありながら、視聴者は怖いものみたさでテレビのチャンネルを合わせた。
“冬彦さん”“マザコン”は流行語にもなった。冬彦の醜態と対比して、美和と大岩のピュアな恋愛が美しく純化される。

『不機嫌な果実』の夫役の稲垣吾郎の潔癖症でマザコンなところは、“冬彦さん”を彷彿させる。『不機嫌な果実』の航一は原作とは違うキャラクター設定だが、稲垣が嫌らしい味を出していて、姑の萬田久子と共にドラマのスパイスとなっていた。

『不機嫌な果実』の麻也子と工藤通彦(市原隼人)の関係は、美和と大岩の関係のように、どこかノスタルジックで甘酸っぱい。今の現実とはかけ離れた部分もあるが、それぞれの個性を生かした演技や、視聴中は今、どの時代にいるのか、わからなくなってしまうのも面白かった。

(佐藤ジェニー)