最近はパソコン1台あれば自宅で曲作りが可能な時代に。また、ヒップホップのアーティストのように、ほかの楽曲をサンプリングする場合などは、楽器を弾けない・楽譜も読めない・コード進行が分からないという人でも、新しい曲を生み出すことができるようになった。


……なんて訳知り顔で書いてはみたが、「じゃあ、そういう人はどんな作業をして曲を作ってるの?」と聞かれると、筆者はよく分からない。「打ち込み」や「サンプリング」という言葉は聞いたことがあっても、それがどんなものかは詳しく知らない……という人は多いはずだ。

そんな知っていそうで知らない、ヒップホップのアーティストの自宅での曲作りを追った映画が、5月30日公開の『THE COCKPIT』(監督・三宅唱)。日本のヒップホップシーンで異彩を放つクルー・SIMI LABのOMSBと、レーベルメイトであるBim(THE OTOGIBANASHI'S)が、楽曲を共同制作する2日間が記録されている。

曲を切って貼って作る、ヒップホップの楽曲制作に迫ったドキュメンタリー
画面手前でサンプラーを操るのがOMSB、後ろでスマホを持っているのがBim。曲作りをする部屋には仲間たちも集まってくる。(c)Aichi Arts Center, MIYAKE Sho


楽曲制作の舞台となるのは、6畳程度の広さに見えるマンションの一室。机の上にはターンテーブル(レコードプレイヤー)と、そこで流したレコードの音を保存・加工・再生できるサンプラー、キーボードが置かれている。


この小さなコックピットのようなスペースで、彼らの曲作りは行われるのだが、最初にするのは「レコードを聞くこと」。色々なレコードをかけては、

「これ何?」「マヘリア・ジャクソン」
「ウディ・アレンって感じ」
「これディズニー感あるよね」

みたいに音楽好きが普段からするようなダベりをしながら、サンプリングする音を探していくのだ。なお2人は曲のことばかり話しているわけでもなく、部屋に一緒にいるSIMI LABのほかのメンバーなども交えて

「砂漠行きて―」
「楽器習ってました?」「いや、何にもできない」
「痛みって上限あんのかな?」

のように曲作りと関係ない話をしている時もある。その雰囲気は放課後の部室のようだ。

そしてレコードでお気に入りのパートが見つけて、OMSBが「いただきます!」とその部分をサンプラーに取り込んでからが面白い。その音はさらに短く切り刻まれ、サンプラーに並ぶパッド(ボタン)に振り分けられる。
そしてOMSBは、踊るように首を揺らしてリズムを取りながらそのパッドを叩き、まったく新しい音楽を作り出してしまうのだ。

曲を切って貼って作る、ヒップホップの楽曲制作に迫ったドキュメンタリー
リズミカルにサンプラーのパッドを叩くOMSB。その動きは楽器の演奏そのもの。
(c)Aichi Arts Center, MIYAKE Sho


手早く指を動かし、サンプラーを叩く行為は、楽器の演奏そのものに見える。サンプリングを“ただのパクリ”と思っている人は、この映画を見て間違いなく印象が変わるだろう。

その後、作詞やボーカル録音を経て一つの曲が完成していく様子は、実際に映画を見て確認してほしいのだが、この映画で最も印象に残るのは、曲作りの雰囲気の楽しさだ。

音楽好きが集まって、レコードを流して「この曲いいっすねー」と話し、何気ない会話や遊びが曲や歌詞に反映されていく。彼らの仕事=曲作りが、好きなことをする日常そのものである……ということが、この映画からは伝わってくる。


曲を切って貼って作る、ヒップホップの楽曲制作に迫ったドキュメンタリー
映画の最後では2人が競作した楽曲も流れる。(c)Aichi Arts Center, MIYAKE Sho


同じ趣味趣向を持つ者同士が集まり、楽しみながらも真剣に、新しいものを生み出そうと試行錯誤する様子は「いいなぁ」と思えるはず。創作行為の本質的な楽しさを気づかせてくれるとともに、誰もが「好きなことをして生きる」ことへの勇気や刺激を誰もが受け取れるだろう。

『THE COCKPIT』
2015 年 5月30日(土)より渋谷ユーロスペース(03-3461-0211) にて公開!
公開期間:5月30日(土)~6月19日(金)21:10より
前売券:特別鑑賞券(1,300円)が劇場窓口ほかで販売中。