日本でクリスマスの登場人物といえばサンタクロースだ。だが、北欧に住む人々がクリスマスと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、サンタクロースよりも、サンタクロースのアシスタントである。


アシスタントの名称は、デンマークとノルウェーでは「ニッセ(Nisse)」、スウェーデンでは「トムテ(Tomte)」、フィンランドでは「トントゥ(Tonttu)」と呼ばれる。私はデンマークに住んでいるので、以下「ニッセ」と呼ぶことにする。

サンタクロースのアシスタントであるニッセは、小人の妖精で、サンタクロースと同じ赤い帽子をかぶっている。クリスマスシーズンには、サンタクロースに代わって、プレゼントを包んだり、届けたりするのがお仕事だ。

だが、ニッセは気分屋で、いたずら大好き。ニッセの機嫌を損ねると、たちまち、いたずらをされてしまう。
そんな言い伝えから、北欧では今でも、クリスマスシーズンには、ニッセへの御礼として、家の屋根裏や納屋にバター付きのミルク粥を置いておく習慣がある。

ニッセは、姿を消したり、動物に変身する力をもっており、人の目では見ることができない。人間の姿をしているときは、身長はだいたい10~11歳の子ども程度で、老け顔でヒゲを生やしているらしい。そして、老けているわりには、強く、動きが機敏で、すばしこいのだそうだ。また、ニッセは、普段は家の納屋や馬小屋に住んで、家畜の世話などをして住人を支えている。だが、家の住人がニッセの面倒をきちんとみなければ、ニッセは小さないたずらを始め、時には、大きな災いも起こすといわれる。
その昔、北欧の人びとは、何か奇妙なことが起こると「ニッセの仕業だ」と言っていたらしい。

元々、ニッセは、家の守り神であった。日本の座敷童子のような存在だったともいえる。ニッセがいる家には幸福が訪れ、ニッセが家を去ると不幸が起こると言い伝えられてきた。そういうふうに聞くとちょっぴり恐ろしくなるが、ニッセを家に留まらせるのは、そんなに難しいことではない。時々、大好物のバター付きミルク粥を与えればいいのだ。
それさえ与えれば、家に住み付き、家の仕事をしっかりこなし、家を守り、福をもたらしてくれる。そういう意味では、お世話がとてもラクで、非常にありがたい存在である。

北欧でのニッセの人気ぶりはすごい。クリスマスシーズンにデンマークのショップに入ると、店内にはニッセがずらりと並んでいる。老け顔でヒゲを生やした元来のニッセもいれば、天使のようなニッセもいる。そして、そんなニッセ達が店内を賑やかにしていると、サンタクロースの存在など忘れそうになる。
(針貝有佳)