「暖炉」と言われても日本ではピンと来ないが、フランスでは身近だ。昔からの建物を使い続けているパリでは、今でも暖炉を持つ部屋は普通にあり、ワンルームの賃貸物件でも暖炉を備えた部屋がある。ただし、煙突掃除など手間がかかり、インテリアとなっていることは多い。現代では、窓の下に取り付けられた各家庭個別の電気式のヒーターか、建物全体で管理する中央暖房のどちらかが用いられる。
暖炉はクリスマスとも切り離せない。
当然のことながら今回の暖炉禁止について、関連業者は反対している。ロワイヤル環境相も禁止措置の見直しを求めると表明した。個人的にもパリの風物詩の1つが無くなってしまうのは残念である。
しかし大気汚染そのものは深刻だ。
欧州の街はどこも煙突があるが、規制に踏み切ったのはパリだけなのだろうか。
汚染の程度は異なるものの、かつて同じ悩みを持っていたのがロンドンだ。ここではすでに、暖炉の使用が制限されている。
「霧の都」と形容されるロンドンの「霧」とは、産業革命以後、石炭燃料の燃焼により発生したスモッグのことである。これによりロンドンは視界が悪くなっただけでなく、大気汚染による多くの死者も出た。このため、1956年と1968年の大気浄化法、1954年のロンドン市法によって排煙を制限することで、空気の改善を図った。
暖炉を規制することによりパリの悩みは晴れるのか。とにかく年明けからは、パリの暖炉からその火は消える。
(加藤亨延)