以前、イナゴの記事をコネタで書いたことがあるが、自分のように長野出身で「イナゴの佃煮」を家で作っていたような環境にあっても、自分では食べない……という人は案外多いもの。
まして今はイナゴなど、食用になる虫もずいぶん減っているし、虫そのものに触れる機会も少なくなっていて、「虫を触れない」なんて子どもも少なくないかもしれない。


ところで、そんな「昆虫食」に関する、子どものための本が出た。

『虫はごちそう!』(小峰書店)だ。

タイトルからわかるように、「虫を食べる=ゲテモノ」的な発想からはほど遠い。また、私がよく他県の人に言われる「長野の人って虫を食べるんでしょ。海がないから、魚とれなくて、たんぱく質がとれないもんねー」的なスタンスでもない。

著者は、これまで20カ国以上を訪れ、昆虫食の研究を続けてきた立教大学の野中健一先生。
東南アジアのラオス、アフリカのカラハリ砂漠、日本の岐阜などを中心に、自然と人間との様々なかかわりが描かれた本である。

「虫はおいしいから食べられているのです。『ほかに食べるものがないから食べている』『貧しいから食べている』というものではないのです」と編集部の渡邊航さん。
たとえば、同じ量の肉よりも高い値段で売られ、コクのある味が外国人観光客に人気というコオロギ。私も仕事で食べたことがあるが、唐揚げなどにすると、本当に美味しかったのを記憶している。
また、サナギになる直前の、糞を出し切り、最も脂がのったタイミングを見計らって採られるフンコロガシの幼虫(ラオス)。
灰のなかで蒸し焼きにすると、ほくほくした食感がおいしいイモムシ(カラハリ砂漠)など……。

野中先生がこの本に込めた思いについて、こう語る。
「虫にも旬があり、採るためのさまざまなくふうがあり、おいしく食べるための料理法があり、食卓で分かち合う喜びがあります。それはとても高度な文化です。タイトルの『ごちそう!』には、こうしたことを伝えたいという思いが込められているんですよ」

世界中で、身の回りでよく見かけられる虫たち。でも、同じ虫であっても、好かれたり嫌われたり、食べられたり、気味悪がられたりと、接し方は国・地域・人々によって異なるもの。
それは同時に、自然への接し方の違いを見られるところでもある。

この本のなかでは、虫の採り方、調理の仕方、暮らしの中でのかかわりなどについて触れているとともに、実物大の虫イラストがあったり、クロスズメバチが卵から育ち、巣づくりし、人間に採られ、煮つけられて「はちの子ご飯」になるまでのプロセスがパラパラ漫画で表現されていたりと、遊び心も随所にちりばめられている。

また、「日本で食べられてきた虫たちの地図」もあるので、自分や友達・知り合いの出身地をチェックしたりという楽しみ方もできそう。

「虫」を通じて、日本の知らない地域、さらに世界の人たちの暮らしや価値観をのぞいてみては?
(田幸和歌子)