いいトシして、いまだに歯医者に行くと、緊張と恐怖でガチガチになってしまう。あのキーンという音を聞くだけで、心拍数があがり、治療中はおそろしくて目を開けていられない。


だが、先日、歯の治療を体験した8歳の娘が、感心した様子でこんなことを言うのを聞いて、仰天した。
「先生が、歯を削る機械を指にあててくれたんだけど、全然切れないし、全然痛くないの」
!! どういうこと!? 自分のこれまでの恐怖心はなんだったのか? 口の中でいま、どんなことが行われているのか。渋谷区幡ヶ谷の坪田歯科医院・坪田泰幸院長に聞いた。

「子どもの場合、初めてだと怖がりますよね。だから、わざと切れないような仕上げ用のセラミックのポイントなどを低速で手にあてて、『痛くないんだ』と安心させることはありますよ。ただ、一般的にはダイヤモンドのバーを使いますし、何万回もの高速回転をさせたり、ギュっと強く押し付ければ、切れますよ(笑)」
そりゃそうですよね……。
ところで、「先端」はどうなっているのか。
「エアタービンの先端にはダイヤモンドの微粒子がついています。歯のエナメル質はダイヤの次に固いと言われているので、それでエナメル質や歯を削ることができるんですよ」

歯を削るときの「キーン」というあの音は、エアタービンといって、圧縮された空気の力で羽根を回転させるドリルによって出るもの。高圧で圧縮された空気が、器具の穴から一気に外に排出され、そのために高い音が出るのだそうだ。

治療は基本的になるべく低速回転で行うというが、それでも下手に動いたりすると、口の中が切れたりすることになる。口の中はどんなことになっているかというと……。

「歯を削るエアタービンには、ライトが2か所ついています。1か所だと影ができてしまって、削るところがよく見えなくなるからです。また、エアタービンには細かい穴が3つついていて、3方向から水が出て、冷却するようになっているんですよ。冷却しないと、歯を削る際の摩擦熱で、口の中のたんぱく質が変性してしまいます。生卵が熱いフライパン上でかたまるような感じです。神経は60~70℃ぐらいで変性してしまうんですよ」
ヒエ~ッ! 口の中に水が入ってきて、それをゴゴゴゴゴ~とホースのようなもので吸い取られる、例のアレ。
治療中にはものすごい大量の水が入ってくるように思えるけど、いったいどのくらいの水を使用しているのだろうか。
「エアタービンは浄水器つきの水道水を使っていて、圧縮空気と細かい霧状の水が出ます。たとえば、30秒間使用すると……(実際に目の前で使用してくれつつ)、大さじ1杯分くらいかな? 15~20分程度の治療中でも、ずっと削っているわけでもないので、水の量自体はたいしたことないですよ」

一見恐怖に思える歯医者の治療。でも、強烈な音も豪快な勢いの水も、最先端の機器によって、優しく優しく進められています。
(田幸和歌子)