先日、ふらりとラーメン屋へ。いわゆる“背脂チャッチャ系”のラーメンだ。


提供され、一口。ふと、こう思った。
「あ……懐かしい」
!? 懐かしいのか?

懐かしさを感じるラーメンって、こう、「三丁目の夕日」的な、昔ながらのシンプルな醤油ラーメンに感じるものじゃなかったっけ。だけど、確かに背脂独特の甘みを感じたとき、思わず「懐かしい」、そう思ってしまったのだ。

「背脂チャッチャ系」の命名者は、ラーメン王・石神秀幸さんだという。東京風とんこつラーメンのカテゴリーとされることもあり、首都圏を中心に、一世を風靡したのが90年代前半だろうか。

そんな時代から約20年と思えば、そりゃあ背脂系だってじゅうぶん「懐かしい」と感じるにふさわしい年月を経過しているわけだ。

「背脂チャッチャ系」ラーメンとは?


ここで、あらためて「背脂チャッチャ系」を整理。
その名の通り、豚の背脂がラーメンのスープの表面を覆う勢いで乗っかっているラーメン。スープは濃厚なとんこつベースのものが多いが、味わいは意外にあっさりしていたりも。
提供する直前、網を“チャッ、チャッ”とやって背脂を盛りつける感じから、その名がついた。

90年代前半のラーメンブームを引っぱっていた人気店のジャンルのひとつが、環七などを中心にした、タクシードライバーなどに人気のラーメン店だった。街道沿いにあって、夜遅くまでやっているような、イメージ的にはそんな感じ。

恵比寿の「らーめん香月」、環七の「土佐っ子ラーメン」、千駄ヶ谷「ホープ軒」に浅草「弁慶」……名店、人気店には夜遅くにも行列ができ、「シメ」のラーメンとしても人気を集めていた。

懐かしい「背脂チャッチャ系」


家系、ダブルスープ、二郎系に濃厚煮干し、そしてつけめん……時代に合わせてラーメンの味の流行も変わっていく。背脂チャッチャ系も、また同じ。
なんとなく食べる頻度も少なくなっていった。恵比寿の香月が移転後ほどなくして閉店してしまったりもした。
だけど、かつてはとてもよく食べた味。しかも、インパクトは大きい味。
頭のどこかにそのインパクトが強く刻まれているのだろう。それが、「懐かしい」の理由だ。

ラーメン文化ももう、あまりにもいろんな味が細分化されていて、しかも流行のサイクルも早い。あくまでも個人差の問題だろうけれど、この先「懐かしい」と感じるラーメンは、どんなジャンルになるのだろうか(もしかしたらジャンルではなく、店単位の味なのかもしれないが)。

今年、復活した「らーめん香月」


そんななか、前記の「らーめん香月」が、今年、六本木で復活したと知った。早速かけつける。

原色系のネオン看板、どんぶりの感じ、ああ、コレだった……場所は違うが、バック・トゥ・ザ90年代気分。
迷わず「醤油らーめん」を注文。背脂たっぷりのスープをズズッ。細麺ズルッ。ああ、この感じだ……やっぱり「懐かしい」味だった。食べながらいろんなこと思い出してしまいそう。


背脂チャッチャ系は、90年代を知る世代には90年代的空気を呼び起こす。知らない世代にも「後追い」気分できるスイッチ的存在。そんな気がした。
(太田サトル)