日本における出火原因は何だと思いますか? 実は断トツで「放火・放火の疑い」となり、1-2割を占めています。そして「たばこ」「たき火」と続きます。

故意に建物等に火をつけて火事を引き起こす「放火」が重い罪に問われるのは有名な話ですが、たばこやたき火は不注意による火事となります。
では、たばこを吸いながら眠ってしまった、たき火していたら家に燃え移り火事になってしまった……など、不注意による火事は罪に問われるのでしょうか?
悪気はないのに火事を起こしてしまった際、どのような罪に問われるのかについて解説していきましょう。
自分の不注意で火災を発生させてしまった・・・罪に問われるの?...の画像はこちら >>

●失火罪または重失火罪に問われる
不注意で火事を引き起こした場合も、罪に問われます。
例えば、たき火をしていて家に燃え移った、仏壇のろうそくが倒れて火事になった、石油ストーブの燃料タンクに灯油と間違えてガソリンを入れて爆発させた、寝たばこをして火事になったなど、不注意によるものが対象となります。
失火の罪は、行為者の不注意の程度が軽い場合を「失火罪」として50万円以下の罰金を、重い場合を「重失火罪」として3年以下の禁固(懲役と違って労役を科せられない拘禁刑)又は150万円以下の罰金を科しています。
不注意の程度が軽いか重いかは、普通の人であれば当然払うべき注意を著しく怠ること、すなわち、ほんのわずかな注意を払えば火災の結果を予見し、結果の発生を回避できるのに、そのわずかな注意さえも払わない場合を「重大な過失」、それ以外を軽い過失として区別し、個別の事案ごとに判断していきます。


●重失火罪となった実際の例
過去に裁判で重失火罪に問われた事案としては、例えば次のようなものがあります。
(1)アパートのガス風呂の焚き口の近くで、ガソリンをポリタンクに移し替えようとしていたときに過ってガソリンを流出させて種火に引火させた。
(2)廃材焼却処理をしていたところ、火が飛び火して15~20メートル離れた場所にある学校校舎を燃やした。
(3)石油ストーブのつまみを消火位置へ戻しただけで、未だ消火しきっていないストーブの燃料タンクに電動サイフォンで灯油を入れ、その場を離れたところ、灯油が漏れ出て火災を発生させた。
(4)電気ストーブを傍にある椅子式ベッドで酔っぱらってコートを掛けて眠り込んだところ、電気ストーブの熱でコートが発火し、火事になった。
(5)木材が置いてある建物の建築現場で、夏場の異常高温状態のもとタバコを吸ったが、火の不始末により火災を発生させた。

いずれもわずかな注意を払えば火災を予見し、防げた場合です。

●損害賠償責任は負わないことも
なお、民事では、不注意により火災を発生させた場合、近隣を延焼させても損害賠償責任を負わなくてよいことになっています(失火の責任に関する法律)。
木造家屋が密集する日本では延焼による被害が限りなく広がるおそれがあるため責任を限定したものです。しかし、重大な過失がある場合は、原則どおり責任を負いますので、火の不始末による負担ないし責任は計り知れません。
昔から火事を出すと末代まで恨まれると言われているように、火事は取り返しのつかない被害をもたらします。
暖房器具を使う機会が多く、乾燥した風の吹く冬場は、特に注意したいものです。


*著者:弁護士 好川久治(ヒューマンネットワーク中村総合法律事務所。家事事件から倒産事件、交通事故、労働問題、企業法務・コンプライアンスまで幅広く業務をこなす。)